「ブーメランの法則って知ってるかい」
僕は2人のお客さんと一緒にテンプルベイスンのロッジでビールを飲みながら話していた。
お客さんは毎年のように帰ってくるリピーター。今までにもブロークンリバー、オリンパス、ハンマースプリングス、ライフォルドとクラブフィールドを滑ってきた。
今年はクレーギーバーンを滑り、テンプルベイスンも滑りたいというので1泊2日でやってきた。
今日1日ガンガン滑り、夜はまったりと居心地の良いロッジでビールを飲み交わしていた。
「ブーメランの法則とは、人に親切にすれば親切が還ってくる。人にやさしくすればやさしくされる。逆に人に悪いことをすれば悪いことが自分にかえってくるというものなんだよ」
2人はフムフムという感じで僕の言葉を聞いていたが、その時横のテーブルで飲んでいたグループの1人がビールを持ってきて言った。
「さっきはありがとう。助かったよ。まあ1本飲んでくれ」
僕は一瞬、何でこの人がビールをくれるんだろう、と戸惑ったがすぐに思い出した。
その日の午後ガンガン滑っているときに、1人の男の人がスキーを流して困っていた。あまり上手でない彼は一人ゲレンデの真ん中で立ち往生していた。
その友達がロープトー乗り場にスキーを持ってやってきて、居合わせた僕が彼の所にスキーを届けたのだ。
僕にとっては何てことなく、当たり前のことをしただけだったので、その出来事をすっかり忘れていたのだ。
「おうおう、ありがたく頂くよ。乾杯」
彼は自分のグループに戻っていき、僕はお客さんにビールを見せて言った。
「ホラね、還ってきたでしょう」
あまりのタイミングの良さに笑ってしまった。
その晩は遅くまで僕らは楽しく飲み続けた。
次の日は天気もパッとしないので滑らないで山を下ろうとなった。
朝、マウンテンマネージャーのベンが麓から上がってきた。いつも明るい彼なのだが暗い顔をして言った。
「ヘッジ、オマエの車もやられたぞ。車上荒らしだ」
テンプルベイスンの駐車場は国道脇にあるので、誰でも入ってこれる。
国道と言っても夜は車は全く通らない。
悪いヤツらが来て、窓ガラスを割り中の物を盗むのだ。
この日も僕の他に数台の車が被害にあった。
朝からロッジの中は憂うつな雰囲気となった。
山を下り駐車場へ着いて、車を見た。
横のスライドドアの大きなガラスが割られ、中にガラスの破片が散乱している。
荷物という荷物は盗まれていた。
お客さんの荷物も盗まれた。
ショックは大きかったが犯人を憎む気は起きなかった。
むしろ可哀相だと思った。
山を愛する人達を傷つけた罪は大きい。
それはブーメランの法則にのって自分の所に還ってくる。
天に向かって吐いた唾は己の顔に落ちる。
人を裁くのは人ではない。
天が人を裁くのだ。
純粋に山を愛するスキークラブの人達に、無用なストレスを追わせた犯人はこれから手痛いしっぺ返しが来るだろう。
それを考えると可哀相な気にもなる。
だがそれは彼等が自ら引き起こした事だ。
同情はしない。
帰りの車の中でお客さん同士が話をしていたのを聞いた。
「俺たちも荷物を盗まれて大変だけど、もっと大変なのは聖さんだよ。こんなに車を壊されて」
その言葉で僕の心は癒された。
僕はこういうお客さんを持って幸せだと思った。
この仕事をやっていてよかったと思った。
お客さんとの距離がまた一歩近ずいた。
後日、友人のタイの車がテンプルベイスンの駐車場から盗まれた。
数日後、僕はブロークンリバーのマウンテンロードでボロボロになったヤツの車を見つけた。
犯人達が乗り回して捨てていったのだろう。
犯人達の行動は何の関係もないブロークンリバーのメンバー達にも暗い影を落とす。
自分達の愚かさに気付かないまま、いつかは還ってくるであろう天罰というブーメランを大きくしている。
人が人を裁くのではない。
天が人を裁くのだ。
僕は2人のお客さんと一緒にテンプルベイスンのロッジでビールを飲みながら話していた。
お客さんは毎年のように帰ってくるリピーター。今までにもブロークンリバー、オリンパス、ハンマースプリングス、ライフォルドとクラブフィールドを滑ってきた。
今年はクレーギーバーンを滑り、テンプルベイスンも滑りたいというので1泊2日でやってきた。
今日1日ガンガン滑り、夜はまったりと居心地の良いロッジでビールを飲み交わしていた。
「ブーメランの法則とは、人に親切にすれば親切が還ってくる。人にやさしくすればやさしくされる。逆に人に悪いことをすれば悪いことが自分にかえってくるというものなんだよ」
2人はフムフムという感じで僕の言葉を聞いていたが、その時横のテーブルで飲んでいたグループの1人がビールを持ってきて言った。
「さっきはありがとう。助かったよ。まあ1本飲んでくれ」
僕は一瞬、何でこの人がビールをくれるんだろう、と戸惑ったがすぐに思い出した。
その日の午後ガンガン滑っているときに、1人の男の人がスキーを流して困っていた。あまり上手でない彼は一人ゲレンデの真ん中で立ち往生していた。
その友達がロープトー乗り場にスキーを持ってやってきて、居合わせた僕が彼の所にスキーを届けたのだ。
僕にとっては何てことなく、当たり前のことをしただけだったので、その出来事をすっかり忘れていたのだ。
「おうおう、ありがたく頂くよ。乾杯」
彼は自分のグループに戻っていき、僕はお客さんにビールを見せて言った。
「ホラね、還ってきたでしょう」
あまりのタイミングの良さに笑ってしまった。
その晩は遅くまで僕らは楽しく飲み続けた。
次の日は天気もパッとしないので滑らないで山を下ろうとなった。
朝、マウンテンマネージャーのベンが麓から上がってきた。いつも明るい彼なのだが暗い顔をして言った。
「ヘッジ、オマエの車もやられたぞ。車上荒らしだ」
テンプルベイスンの駐車場は国道脇にあるので、誰でも入ってこれる。
国道と言っても夜は車は全く通らない。
悪いヤツらが来て、窓ガラスを割り中の物を盗むのだ。
この日も僕の他に数台の車が被害にあった。
朝からロッジの中は憂うつな雰囲気となった。
山を下り駐車場へ着いて、車を見た。
横のスライドドアの大きなガラスが割られ、中にガラスの破片が散乱している。
荷物という荷物は盗まれていた。
お客さんの荷物も盗まれた。
ショックは大きかったが犯人を憎む気は起きなかった。
むしろ可哀相だと思った。
山を愛する人達を傷つけた罪は大きい。
それはブーメランの法則にのって自分の所に還ってくる。
天に向かって吐いた唾は己の顔に落ちる。
人を裁くのは人ではない。
天が人を裁くのだ。
純粋に山を愛するスキークラブの人達に、無用なストレスを追わせた犯人はこれから手痛いしっぺ返しが来るだろう。
それを考えると可哀相な気にもなる。
だがそれは彼等が自ら引き起こした事だ。
同情はしない。
帰りの車の中でお客さん同士が話をしていたのを聞いた。
「俺たちも荷物を盗まれて大変だけど、もっと大変なのは聖さんだよ。こんなに車を壊されて」
その言葉で僕の心は癒された。
僕はこういうお客さんを持って幸せだと思った。
この仕事をやっていてよかったと思った。
お客さんとの距離がまた一歩近ずいた。
後日、友人のタイの車がテンプルベイスンの駐車場から盗まれた。
数日後、僕はブロークンリバーのマウンテンロードでボロボロになったヤツの車を見つけた。
犯人達が乗り回して捨てていったのだろう。
犯人達の行動は何の関係もないブロークンリバーのメンバー達にも暗い影を落とす。
自分達の愚かさに気付かないまま、いつかは還ってくるであろう天罰というブーメランを大きくしている。
人が人を裁くのではない。
天が人を裁くのだ。