あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

2013-03-29 | ガイドの現場
前回のブログから気が付けば1ヶ月近くが経っていた。
いくつか話を書いてみたものの、まとまらなくて途中でやめてしまったものもあった。
この間、どうしているのかな?と思われた人も多いと思うが、ちゃんと仕事をしていたのだ。
ツアーの仕事が忙しくて、とは言いたくないが、実際にツアーからツアーへの連続でブログの更新もままならない、というのが実情である。
そんな日常でも数々のドラマはある。
今回はそんなドラマの一つを紹介しよう。

人との出会いに偶然はなく、全ては必然である。
これは常日頃から思っていることである。
ニュージーランドに来る人をガイドして長いが、出会うべくして出会うという人も多々いる。
そういう時は宇宙の流れというか意思というのか、あがらっても逆らえない、何か大きな波のようなものを感じる。
お客さんとの出会いも様々であり、わずか1時間だけの仕事もあれば、何日も一緒に行動することもある。
正直な話、この人とはあまり一緒にいたくないな、と思う事だってあるが、それにも何かしらの意味があるのだろう。
人との出会いの意味は、会ってすぐにこのために出会ったのだと感じることもあるし、その時は全くその意味が見えないこともある。
だが僕には見えない所で何かしらの影響があるのだと思う。

お客さんのSさんは、年は60代半ば、一人旅の女性。
神秘的な感じのする人で、今回はニュージーランドに呼ばれて来た、と言う。
普通、ニュージーランドに来るというと、何かしら情報がありそこから目的地を選ぶのだが、彼女の場合は地図を見て適当にポンポンと3箇所を選んだという。
そして調べてみると、初めてこういう場所かと知ったそうな。
それが北島のカウリの森、タウポ湖、そして南島はアオラキ・マウントクック、この3箇所なのである。
北島ではそこのガイドを頼み、南島では僕が担当をしたわけだ。
Sさんにとって大切なのはその3箇所なので他の場所には興味が無く、タウポからマウントクックまで飛行機で移動しようと思ったが、そんな定期便は無い。
ということでクライストチャーチまで飛行機で飛び、そこからマウントクックを車で往復という流れになった。
出会ってから5分で僕たちは打ち解け合い、あっというまに深いレベルでの話になった。
波動の話、魂の話がポンポン出るわ出るわ。
こうなるとお客さんとガイドという関係より、同じ波動を持つ人同士という関係であり、とても楽である。
そこには上も下もなく、全ては一つ、ワンネスという中での魂の繋がりがあるだけ。シンプルだ。
車の中でも普通ならば、僕がずっとこの国の話をするのだが、今回は僕が聞き役になることも多かった。
Sさんも、普段ではここまでは言わないというようなところまで話をしてくれた。
彼女はそれまで世界中あちこちと、それこそ南極にまで呼ばれて行ったと言う。
誰に呼ばれたかって?それは宇宙に呼ばれてと、そういうレベルの話を僕はフンフンと聞く。
あらかた行きつくして、もう海外に行くこともないだろうと思っていたが、この時期に来て今度はニュージーランドに呼ばれて来たそうだ。
そこで僕に会ったというわけである。

この仕事は、『霊能者が世界のパワースポットを巡る旅』そんな風に聞いていたので、僕は率直に聞いてみた。
このレベルでは隠し事などは存在しない。
「Sさんは霊能者だと聞いているのですが、そうなんですか?」
「あらまあ、どこからそんな話が出ちゃったのかしら。違うわよ。確かに私の周りにはいろいろと見える人がいるけど、私はそういうのは全くないわよ。」
「なんか、入ってきた情報では霊能者が世界のパワースポットを巡っているのだとか・・・」
「それはねえ、このツアーを組んでもらうのに何かしらタイトルをつけなくちゃって言われたの。だからパワースポットってつけたのよ。」
「それを旅行社が深読みしてパワースポット=スピリチュアル=霊能者、となったんでしょうかねえ?」
「どうやらそうみたいね。面白いわねえ。私にはそういうのは全然ないのよ。ただ宇宙と常に繋がっているだけよ」
「なるほどねえ。実はうちの会社でも『霊能者なら聖さんでしょう』という感じでこの仕事が決まったんですよ。僕もなんとなくこの仕事をしたいな、と思ったしね。」
「そのおかげでこうやって会えたじゃないの。全てそういうふうにできているのね。」
「全くもって、そう思います」

僕はことあるごとに手を合わせて拝む。
太陽に、月に、山に、湖に、きれいだなと思ったときに拝むのだが、Sさんはそんな時に手を振る。
車の中でも山に手を振るSさんの動作は少女のように可愛らしく、車内の雰囲気は和む。
山もきっちりと晴れてくれて、壮大な姿を見せてくれた。
こういう人が来る時は、天気もそれに協力してくれるようだ。
半日の自由行動の間で何をお参りしたのか知らないが、どうやらお役目は済んだようだ。
帰りの車でも話ははずむ。
北島の森の話になった時に僕は自分がガイドをしていた南の森の話をした。
「Sさんに南のブナの森も見て欲しいなあ、それはそれは美しいんですよ。」
僕はルートバーンの森を思い浮かべながらそんなことを言った。
「あ、それは今、聖さんを通して感じました」
「へ?そうなんですか?」
「はい、分かりました」
「はあ、そうなんですか」
としか言いようはないが、そんなものなんだろう。

山の楽しみ方は百人いれば百通りの楽しみ方がある。
命をかけてストイックにきびしい登山をする人もいれば、ビールを飲みながら山を眺める人もいる。
どれが正しくどれが間違っているというわけではない。
こうでなければいけない、というものではないのだ。
それは自分を見つめ、自分のやり方でやるだけだ。
旅も同じではなかろうか。
全てを自分でやる人もいれば、ツアーで来る人もいる。
何回もニュージーランドに来る人もいれば、1回だけの人もいる。
観光で来る人もいれば、山歩きに来る人もいる。
みんな違ってみんな良し。
Sさんは役目を果たしたので、もうニュージーランドには来ないだろうと言った。
普段ならそんなことを言われたら寂しい想いをするのだが、今回は何故か納得してしまった。
たとえ1回でも、クィーンズタウンにもミルフォードにも行かなくても、僕を通してこの国の良さが彼女に伝わったと感じたからだ。
ニュージーランドどころか、海外に出るのも今回で最後だろうとSさんは言った。
きっと彼女は日本にいながら、やることがあるのだろう。
僕もこの国でやる事はある。
Sさんを空港で見送り帰りがてら、車の中で山に手を振る彼女を思い出した。
ほんわかした空気が車内に流れた。
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個性というもの

2013-03-02 | ガイドの現場
これは自分のツアーだ、と思う時がある。
人に任せられない、自分がやるべくしてやる仕事、と感じる時である。
今まで数々の仕事をやってきた。
普通のツアー、スキーのツアー、山歩きのツアー、変わったところでは撮影の仕事、事故で亡くなった人の遺族のアテンド、家族が病気で入院してしまった人のアテンド、はたまた散骨ツアーなんてものもあった。
たくさんあって忘れてしまうものもあるが、印象に残ったものも多い。
たとえそれが普通のツアーだろうが、この人と出会うべくして出会った、という事もあった。
そういう時に『自分の仕事』と感じるのだ。
今回のツアーも間違いなくそれである。
今回は障害を持った人のツアーで、バスもリフト付きの専用車両。
普段は僕はドライバーガイドなのだが、今回はツアーガイドとしてツアーに同行した。
グループは12人、障害の程度もバラバラ。
ゆっくりと歩ける人もいれば、車椅子でもかなり速く動ける人もいる。
電動車椅子の人もいるし、重度の障害で自分では何もできないという人まで様々だ。
こういう仕事は初めてなので、何をどこまでやればいいのか分からず最初は戸惑ったが、ツアーが進むにつれ僕も慣れていった。
ツアーは先ずクィーンズタウンへ飛行機で入り市内観光、ミルフォードサウンド、ワナカを経てマウントクック。そしてテカポを経てクライストチャーチへ。
クライストチャーチでは1日観光、そして飛行機でオークランドへ、というまあこの国の王道コースである。
今までに何十回もやったコースだが、障害を持つ人と一緒だと今まで見えなかった物も見えた。



普段、僕らが普通に歩いているような所でも段差があると車椅子では一苦労だ。
道だって舗装されていればいいが、砂利道ならば車輪が埋まってしまう。
道を渡るのだって健常者なら車が来るタイミングを見計らってささっと渡れるが、車椅子ではそうもいかない。
そういう時に横断歩道の存在はありがたい。ここでは横断歩道は歩行者が絶対的に優先。車は必ず止まる。
周りの人も気軽に手伝ってくれる。
この国では障害者を可哀そうな人と見るのではなく、個性の一つぐらいの感覚で見る。
本人ができることは本人にやらせて、助けが必要な時にだけ手を差し伸べる。
過保護ではない。
障害者を可哀そうな人、と見ればなんとなく後ろめたさを感じて、過保護になんでもやってあげようとなるだろう。
それは本当の愛ではなく、差別する心から来る間違った善意だ。
スピリチュアルな観点から見れば、障害者の方が魂の進化度は高いというのは定説である。
だが今の社会では目に見える物が全てなので、障害者=可哀そうな人となってしまう。
こんなことを書くのもツアーの途中でイヤなことがあったからだ。
あるホテルでグループが出発を待っていたら、裕福そうなアメリカ人が声をかけてきた。
そいつは重度の障害を持つ人を見て、耳障りなアメリカ英語で「悲しい、可哀そう」とくり返すのだ。
口では悲しいなどと言うけれど、僕にはそいつの差別する心が見えてしまう。
あげくの果てに「なんで彼女はこういことになったのだ」などと僕に聞いてくる始末だ。
その人にどんな過去があるのか僕は知らないし、知ろうともしない。過去は過ぎ去ったものだ。
僕がその人の過去を知ったところでその人の体が良くなるわけではない。
それよりも、今ここにその人がいて旅を楽しんでいる。それを盛り上げてあげることが自分のやることである。
「そんなことを言うのは、お前の心に影があるからだ。確かに彼女は体が不自由だが悲しいどうかは誰にも分からないだろう。お前は金持ちで五体満足だが、俺から見ればお前の方がよっぽど哀れだ。分かったらさっさと国へ帰って二度と俺の前に姿を現すな、このバカ!」
などと言いたいところだったが、僕は一言「知らん」と言ってそいつから離れた。
こういうヤツを相手にするだけでエネルギーが下がる。



『陰と陽』『光と影』はどこにでもあるが、グループの存在は明るい光そのもの。
各自が出来ることをやり、旅を楽しむ。
愛に基づいた集団は全てが上手くいく。
天気さえも見方してくれる。
ミルフォードでもマウントクックでもテカポでも快晴。
全員ミルフォードからの帰りは飛行機で帰ってきた。
僕も空からの景色を堪能して、お客さんも皆喜んでくれた。
お客さんが楽しむと同時に自分も楽しむ。
正直、今回の仕事は楽しかった。
それは体という目に見える物ではなく、心という目に映らないところで旅を楽しむという感覚を共有できたから。
この地を訪れた人と旅を楽しむ、というガイドの原点を再確認できた。
それが自分の存在価値であり、この国で僕がやるべきことである。
皆で一緒に食べる食事は美味しく、マウントクックのホテルではチーズをつまみにワインを一緒に飲んだ。
トランツアルパインの新しい車両には車椅子のまま乗り降りできる機械があり、車椅子のまま景色を眺められるスペースもあった。
ギターを出してマオリの歌を歌えば、その場にいたおばちゃんが乗ってきてコーラスになる。
筋書きなしのアドリブライブも愛あればこそ。
バスドライバーも良い人に当たるし、ホテルのスタッフ、レストランのスタッフなど、行くとこ行くとこで純粋な愛から来る善意に出会った。
こういう人達を見ると、ニュージーランドはやっぱり良い国だなあ、などと思うのだ。



この世は公平ではない。
貧富の差はどこにでもあるし、社会的な立場でも上下というものはある。
僕は山登りやスキーをするが、彼らにはそれはできない。全くもって不公平だ。
では、山登りやスキーができないから不幸せなのか?
それも違うだろう。健常者でも山登りもスキーもしないという人はたくさんいる。
何かが無いから不幸せ、何かができないから不幸せ、というのは自分の心が作るもの。
幸せとは常にそこにあるものである。それに気づかない事が不幸せだ。
障害者でもスキーをする人もいるし、以前ルートバーンを車椅子で歩いている人も見た。
急坂では前からロープで車椅子を引っ張り、本人も必死で手で漕ぎ、後ろからもう一人が車椅子を押す。
すごいなあ、とその時に思った。やればなんでもできるのだが、それには人一倍の努力と周りのサポートが必要だ。
そこまでやらなくても、例えば今回はミルフォードから遊覧飛行で帰ってきたのだが、窓からの景色を楽しむのに健常者も障害者もない。
ただしその場合は金が要る。
金に困っている人にはそれができない。全くもって不公平だ。
障害者と一口に言っても、視覚障害もあれば聴覚の障害だってあるし、四肢の障害もある。
程度も様々であれば、そこに行き着く過程も様々だ。
それを個性と見れば、「ふーん、そうか」となるが、平均というラインでしか物事を考えられない人には「自分より下」となるだろう。
はっきり言う。魂の質に上も下もない。
人が生まれて生きる目的は、魂の向上である。
それは人によって違う。
比べる事が間違っているのだ。
彼らを見て思ったのだが、障害を持ちつつもそれを受け止め、前に向う姿。
これはヨガの極意に通ずるものではないかと。
ヨガとはポーズを作り上げることが目的ではなく、たとえそのポーズが出来なくともそこに向かう姿勢が本質である。
今回のグループでは、人によって障害の程度は違えど、旅を楽しむという目的のために各自が出来ることをした。
その姿は美しいものであり、人に元気というエネルギーを与える。
僕も今回、彼らからエネルギーをたっぷりと頂いた。
僕の存在も彼らにエネルギーを与えたはずだ。
気というエネルギーを奪い合うのではなく、互いに与え合う。
競争ではなく共存共栄の世界の雛形がここにあった。
その根底にあるものはやはり愛なのである。


コメント (19)
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