え、毎度のお付き合いをお願いいたします。
あたくし清水亭聖笑と申しまして、ここの出させていただくのも何回目ですかね。
そのうちにこのブログを乗っ取っちまおう、なんてことを虎視眈々と狙っているわけです。
さてビールの話なんですが、あたしはあのビールってやつが好きでしてね。
三度の飯よりビールが好き。
ビールの無い人生なんて考えられない、ていうくらいのビール飲みなんです。
もう時効だから話すんですが高校生の時には友達の家で飲むなんてのはザラにあったし、中学の時だってテスト期間で部活がないなんていうと悪友が集まってコソコソ飲んでたりしてました。
忘れもしないのは小学生の時に、野球少年団の集まりで焼肉屋に行った時、酔っ払ったおっさんに誘われしたたか飲んで、その場で監督にビンタを張られ場を白けさせたこともありました。
なんでこんな手前の恥をさらけだしてるんですかねえ、あたしゃ。
だから自分の子供にも「飲むな」なんてことは言えやしない。
それどころか「飲め」って言ってるんだが、うちの娘は飲みやしない。
まあまだお子ちゃまだからね、ビールの苦味の旨味なんてのは分からないでしょうな。
こう、グラスを持ってですな、琥珀色をした液体の中から泡がシュワシュワと立ち上がるのを先ず目で味わう。
香りをかぐとホップの匂いと麦の香り、そして喉を通る時の爽快感のあとにやってくる香りと旨味。
あー生きていてよかった、とゲップを一発。
そんなビール飲みのあたしですし、何でも自分で出来ることは自分でやってやろうと常日頃から思っているので、自分でビールを作るようになるというのは自然の流れだったんでしょうな。
ビールを造るなんて難しいんじゃないか?
ほとんどの人はそう思うでしょうし、あたしもそう思いました。
人間というものは未知のことに対して、まず否定的な気持ちから入っていくものですね。
ニワトリ飼うの難しいんじゃない?石鹸作るの難しいんじゃない?
で、実際やってみるとそれほど難しいもんじゃない。
ビールも同じことですね。
やってみると意外と簡単だった。
簡単と申しましても、タンクやボトルの洗浄や消毒など手間はいろいろとありますが難しいものではない。
どうやってビールができるか簡単に説明をしますね。
まず大きなタンクに市販の麦汁、これはドロドロの液体なんですが、これを入れる。
そこに熱いお湯と砂糖を入れてよく混ぜる。
そこに水を足していって、23リットルまで増やす。
温度が低いようならさらにお湯を足して、要は23リットルで20度ぐらいにすればいいのです。
何故23リットルかって聞かないでください。
あたしも知らないし調べるのも面倒くさいし、とにかく売っているキットは23リットルで統一されているので、そういうものなんです。
そこにビール酵母をパラパラとふり掛け、あとは待つのです。
ビールの酵母によって温度もいろいろあるのですが、だいたい20度前後で醗酵します。
タンクには温度計も付いてますからそれで冷たすぎたらヒーターのそばで温めてなんてことをして発酵させるのが1週間ぐらい。
タンクの上には空気抜きの穴があって、空気が逆流しないような仕組みがある。
それが、ポコポコ、ポコポコと醗酵の時に音が出る。
この音が好きでしてね、ああ、酵母が生きているなあと思うのです。
1週間ぐらいするとその音も止まる。
酵母の餌の砂糖が醗酵されてアルコールになったんですな。
次は瓶詰め作業。
瓶に入れてそこにまた砂糖を入れて栓をするというものです。
この段階ではビールのアルコールと味はできているけど、あのシュワシュワがない。
まあ気の抜けたビールですので、瓶の中で二次醗酵、ここで炭酸ができる。
瓶につめて2週間ぐらいしたら完成と、まあこんな具合でビールというものができるわけです。
さてビールと一口に言ってもいろいろありまして、上面醗酵のエールビール、下面醗酵のラガービール。
その中でもペールエールだのスタウトだのピルスナーだの、まあとにかくたくさんあるわけですね。
こちらのお店ではそういったお客さんの好みに合わせて、さまざまな種類のビールの素が売っているわけです。
そうやって作ったありきたりの物では気がすまない、もっと美味しいビールができないか、という人には別売りでホップなんかもあります。
そのホップの種類もいろいろあって、このビールにはこのホップが合うなんてのをお店では教えてくれる。
そうやって自分なりのビールを造ったけどまだ上を目指したいと、いう人向け用のキットもあります。
それは麦を煮出すところから始めるという専用キット。
あたしもやってみましたよ。
家にある鍋だと小さいな、もっと大きい鍋がないかなと思って友達のサムに聞いたらやっぱり持っていて、そいつをちょいと借りてきました。
大鍋に麦を入れて煮出し、そこにホップをつけて弱火で煮て、途中でという具合に半日がかりでしたがね、やりました。
そしたら、あーた、これが美味いのなんのって、まず香りが良い。
きっちりと麦の香り、匂いじゃなくて香りなんですが、これがある。
飲んでみると、さわやかでいて軽すぎない、それでいてどっしりしすぎるわけでもなくて、なおかつコクもある。
まあ全体のバランスが良いんですな、そんなビールができあがりました。
さて冬になると、あたしの本職のスキーの仕事も忙しくなってまいりました。
ええ、あたしの本職はスキーなんです。
間違っても大根農家とかビール職人とか、ましては噺家なんてものではないんです。
そちらが忙しくなるとなかなか時間が取れない。
なので市販のパックに戻ったのですが、次に目をつけたのはビール酵母。
この酵母も、これまたいろいろありまして、酵母によって醗酵の温度が違うんです。
エール酵母ですと醗酵が20度前後。
これだと冬の寒い時には温度を上げてやらないと醗酵が進まない。
そこで見つけたのがラガー酵母。
それも低温発酵のヤツ、温度は8度から14度。
これなら家の一番奥の部屋でちょうどいいのではないか。
そして諸先輩方に聞いたところ大切なのは8度から14度の間を行ったり来たりするのでなく、一定の温度を保つのが成功の秘訣だと。
そういったアドバイスを聞いて、家の奥の部屋を閉め切って温度をできるだけ一定にして、なおかつ醸造タンクにダウンジャケットを着させる馬鹿っぷり。
低音でゆっくりと醗酵するのがラガー酵母の特徴のようですな。
そうやってできあがったのが『バーバリアンラガー聖笑スペシャル』
いやはや、これがまた良い出来でしてね、すっきり軽やかなラガービールのできあがり。
さらにその次にはピルスナーにも同じように挑戦。
こちらは酵母を高級なものしてやってみました。
『ボヘミアンピルスナー聖笑バージョン』こちらも美味いビールができましたとも。
さっぱり系のビールが続きましたから、今はどっしり系のスタウト、黒ビールに近いようなものを醸しておりまして、今日もまたタンクからコポコポと酵母の息吹が聞こえるのです。
さてこういった手作りビールでは瓶の底に澱(オリ)が溜まります。
この澱を混ぜないようにそうっとグラスに注ぐわけです。
これが混ざると味もやはり濁ってしまう。
結局のところ上澄みを飲むんですな。
この澱も普通なら流しで捨ててしまうのですが、我が家ではとことん無駄にしません。
この澱にも活用術があるのです。
それは庭のナメクジ退治。
うちは完全オーガニックでやってますから、そりゃ虫だっている、なめくじだっています。
このナメクジの多い所に小さな容器にビールの澱を入れておくと、次の朝にはナメクジが溺れ死んでいる。
澱と言ってもビールですからアルコールもある。
酒池肉林という言葉がありますが、奴らにとってはまさに酒の池、酒に溺れて死ぬなら奴らも本望でしょう。
ナメクジ共もそうやって酔っ払って死んで、そのナメクジのビール漬けをニワトリ達が喜んで食う。
とことん無駄にはいたしません。
そのニワトリが元気に卵を産んでくれる。
最近では春になって活発になって1日5個の卵が取れます。
そうやって我が家で循環しているわけです。
「おい熊、起きろ。この熊、起きねえか」
「え、もう一杯ちょうだいいたします」
「何を寝ぼけてるんでい、もう朝だぜ。」
「なんだい、ハチ公じゃねえか。せっかく美味いヤツをやってたのに、いいところで起こしやがって」
「まったく、おめえってヤツはよ。それでどんな夢を見てたんだい」
「おうよ、それがよ、酒の風呂なんだよ。」
「なんだい、その酒の風呂ってのは」
「文字通り酒の風呂さ、水の代わりに酒が入ってるんだよ。風呂桶はきっちりと檜でな。真新しい檜のいい匂いがするんだ。そこに浸かって純米大吟醸の美味いヤツをキューっとやってたらな、酔っ払って溺れちまってな。気がついたら三途の川を渡ってるんだ。」
「嫌だね、おめえは、縁起でもない」
「川を渡ってるんだが、その船が屋形船でな、その肴と酒が旨いこと旨いこと。刺身は角がびしっと立って新鮮なんてものじゃねえ。天ぷらがカラっと揚がって、天つゆに入れるとジュなんて音がするぐらいだ。そのうちに花火なんか上がり始めてよ。いつのまにか一緒に飲んでるのが閻魔大王様てんで、それなら怖いものはねえ、したたかに飲んでいたところだったのになあ。」
「すまねえ、そんな夢ならもう少し寝かしといてやりゃよかったな」
「ああ、そんな夢みてえな夢もビールの泡と一緒に消えちまった」