南島に季節外れの雪が降った日にクィーンズタウンにやってきた。
酒蔵全黒の若き蔵人のユーマが日本に帰ることとなり、人手が足りなくなり呼ばれたのだ。
若いながら道理と味の分かるヤツで、ユーマだけにウマが合う。
その前の週に奥さんとクライストチャーチに来た時には、自ビールをしこたま飲ませ旨いものを喰わせた。
ワイナリーもこれから忙しい時だが、事情を分かってもらい2ヶ月間の休みをもらった。
期間限定のクィーンズタウン生活である。
今回の宿はクィーンズタウン郊外の友達の家。
家のテラスからは林の先に湖、そして山がドカンと見える。
長くクライストチャーチに居ると、やはりクィーンズタウンは美しい場所だと思う。
山と湖が創りだす立体的な地形はクライストチャーチには無い。
その代わりクライストチャーチは空が広く開放感があり、日照時間が長い。
どちらも一長一短といったところだ。
家には大きな暖炉、それもオープンファイヤーがある。
暖炉特有の暖かさが心地良い。
オープンファイヤーは焚き火と同じで、いわば家の中で焚き火をしているようなものだ。
何か、人類が原始の時代から行ってきた行動をする、そんな感じるのだ。
電気のヒーターとは違う、暖かさの質が違うとでも言えばいいのか、質の違いがある。
暖かさの反対の寒さでも質が違う。
クィーンズタウンの寒さは底冷えのする内陸特有のものだ。
海が近くにあるクライストチャーチでは同じ温度まで冷えても底冷えは無い。
家は木々に囲まれ鳥が多いのも嬉しい。
目の前でパタパタ飛ぶファンテイルを見ていると時間を忘れる。
鳥の声で目を覚ますのも心地良い。
友達のトモコが初めてニュージーランドに来て、森の中の山小屋に泊まった時の事である。
朝になり、鳥達が山小屋の近くで鳴き出した。
あまりに色々な音がするので、トモコはU F Oが来たと真剣に思った。
「どうしようUFOが来ちゃった」と恐る恐る山小屋のドアを開けると、鳥しかいなかった。
確かににツイという鳥は様様な声をだす。
中には機械的な音もある。
何の予備知識も無くこの音を聞いたらそう思うのも無理はない。
いやそれは、やっぱりトモコだからだな。
家の造りは木造で壁や天井が、木そのままなので音が響く。
床も絨毯ではないので、音が吸い込まれる事なく響く。
天井が高いのでエコーのように響く。
自分のギターの腕前が上がったのではないか、と勘違いするぐらいに良い音が出る。
ウクレレでポロポロとやるも良し、ギターをジャーンと鳴らすも良し。
林の中にあるような家だから、大きな音を出しても大丈夫。
バンドのセッションはまだやってないが楽しみだ。
テラスで鳥の声を聴きながらボケーっと山を眺める。
木漏れ日が心地良い。
何となく山に向って手を合わせる。
感じるものはただただ感謝の心。
全ての物事に感謝。
その想いを持ち続ければ、この先に何が起ころうが大丈夫。
そんなことをふと思った。
ありがたやありがたや。