●陸
食品摂取による内部被曝の唯一の専門家、白石久二雄・元放射線医学総合研究所内部被ばく評価室長は、次のように語る。
放射能汚染が昨年出た食べ物【注1】は、今年もまた同じように汚染が出るだろう。
事故直後ほどではないが、まだ原発から放射性物質は漏れ続けている【注2】。風、除染作業、焼却などで地表に沈着しているセシウムなどが舞い上がる恐れもある。今年は、葉っぱ表面の汚染が極端に高いレベルになることはなかろうが、ある程度は出るだろう。
植物の種類や品種(日本における食品群別の研究では、マメ類、イモ類、クリなどが土壌中のセシウムをよく吸収している)【注3】、土壌の性質(セシウムを吸着する粘土質が多い土では汚染が少ない)や肥料のやり方などによって、汚染の出方が異なる。
セシウムの大半がまだ土壌に残っている限り、今後も汚染の発生は避けられない(基本的な問題)【注4】。被災地は、雪国が多い(懸念要因)。
雨は土壌に落ちた後、ある程度は流れて拡散するが、雪は落ちた場所に積もる。雪が汚染されていれば、放射性物質がその場に溜まる。雪解けで地表に汚染の層を作るだけなく、木の枝や葉に付着していたセシウムが雪に付着して一緒に地表に落ちる場合もある。さらに雪解け水が田畑に流れ込む可能性もある。
【注1】3月の場合、ホウレンソウ(40,000/福島県田村市)、ブロッコリー(13,900/福島県飯舘村)、コマツナ(3,600/福島県鮫川村)、ミズナ(3,300/福島県古殿村)、キャベツ(2,700/福島県浅川町)、パセリ(2,110/茨城県鉾田市)、ネギ(250/栃木県大田原市)、シュンギク(153/栃木県さくら市)、サニーレタス(150/茨城県古河市)、レタス(122/千葉県旭市)、キュウリ(43/千葉県旭市)、ナス(9.3/栃木県真岡市)。なお、数値はセシウム濃度Bq/kg。
【注2】文科省が毎日公表している都道府県の「定時降下物」の測定結果によれば、福島市(原発から60km)に降り注いだセシウムの量は、101Bq相当/平米だ(12月19~20日の24時間)。12月も連日10~数十Bqが降り、栃木・茨城両県でもそれぞれ105Bqと13Bqを計測した日があった。
【注3】昨年7月以降からイモ類や根菜類の汚染のピークが目立ち始めた。汚染ルートが葉から根に変わったのだ。2012年は、セシウムが土壌に浸透した状態で、作物が一から育てられることになる。
【注4】福島県農業総合センターの栽培実験によれば、土壌中のセシウムが作物へ移行する割合(移行率)は、黒ボク土で栽培したブロッコリー、ホウレンソウ、コマツナはいずれも0.3%程度で、「移行率1割」のコメより小さい。ただし、同県内の畑地の5割を占める森林褐色土での移行率は黒ボク土の15倍も高くなる。
●海
震災後の汚染調査に取り組む石丸隆・東京海洋大学教授は、次のように語る。
福島県の魚では、汚染が横ばいのままの魚もあれば、落ちて見える魚もある(<例>カレイ)。ヒラメからは、11月に最も高い4,500Bqが検出され、まだ上昇中のようだ。ピークの時期も濃度も予想がつかない【注5】。
チェルノブイリ事故当時は、大型魚のスズキの汚染のピークは、海水の濃度のピークより半年ほど遅れて現れた。魚の汚染濃度は、濃縮によって海水の100倍以上に達した。マダラの汚染は収まるのに2年半以上かかった。
福島第一原発事故では、空から降り注いだ放射性物質が海を薄く均一に汚染したチェルノブイリと異なり、高濃度汚染水が1ヵ月も直接海に流れ込んだため、汚染水の塊がまだら状に広がった【注6】。
沿岸を流れる海流や河川からの汚染物質流入などによって、汚染が拡大している可能性がある。海底土の汚染は、海底に棲む魚の汚染拡大につながる。餌となるゴカイなどの底生生物やプランクトンの汚染を調べて実態を把握することが急務だ。
海水の汚染は低下しており、表層のプランクトンが高レベルに汚染される可能性はもうなさそうだ【注7】。それらを食べる表層の小魚のシラスは、検査で「不検出」が続いている。同様に、サンマ、マイワシの汚染も低下するだろう。小魚を食べるカツオ、外洋の生態系にいるマグロの汚染は考えにくい。ただし、海の汚染は海水、海底土と食用の魚しか検査していないので、分からないことだらけだ。
【注5】昨年11月に汚染の最高値を記録した魚が多く(<例>ヒラメ4,500/福島県沖、イワナ692/群馬県前橋市)、まだピークを迎えていない魚種が多い、と目される。
【注6】海の汚染は面的な広がりを見せ始めている。文科省による太平洋沿岸の海底土の調査によれば、汚染は福島から、少なくとも宮城、茨城県の海域に及んでいる。仙台湾の乾土の汚染は、53Bq(9月)から79Bq(10月)に高まった。
【注7】事故から10ヵ月経て、海水中の放射性物質が底へ沈殿した。
以上、大場弘行(本誌)「2012年の放射能食卓汚染」(「サンデー毎日」2012年1月15日号)に拠る。
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食品摂取による内部被曝の唯一の専門家、白石久二雄・元放射線医学総合研究所内部被ばく評価室長は、次のように語る。
放射能汚染が昨年出た食べ物【注1】は、今年もまた同じように汚染が出るだろう。
事故直後ほどではないが、まだ原発から放射性物質は漏れ続けている【注2】。風、除染作業、焼却などで地表に沈着しているセシウムなどが舞い上がる恐れもある。今年は、葉っぱ表面の汚染が極端に高いレベルになることはなかろうが、ある程度は出るだろう。
植物の種類や品種(日本における食品群別の研究では、マメ類、イモ類、クリなどが土壌中のセシウムをよく吸収している)【注3】、土壌の性質(セシウムを吸着する粘土質が多い土では汚染が少ない)や肥料のやり方などによって、汚染の出方が異なる。
セシウムの大半がまだ土壌に残っている限り、今後も汚染の発生は避けられない(基本的な問題)【注4】。被災地は、雪国が多い(懸念要因)。
雨は土壌に落ちた後、ある程度は流れて拡散するが、雪は落ちた場所に積もる。雪が汚染されていれば、放射性物質がその場に溜まる。雪解けで地表に汚染の層を作るだけなく、木の枝や葉に付着していたセシウムが雪に付着して一緒に地表に落ちる場合もある。さらに雪解け水が田畑に流れ込む可能性もある。
【注1】3月の場合、ホウレンソウ(40,000/福島県田村市)、ブロッコリー(13,900/福島県飯舘村)、コマツナ(3,600/福島県鮫川村)、ミズナ(3,300/福島県古殿村)、キャベツ(2,700/福島県浅川町)、パセリ(2,110/茨城県鉾田市)、ネギ(250/栃木県大田原市)、シュンギク(153/栃木県さくら市)、サニーレタス(150/茨城県古河市)、レタス(122/千葉県旭市)、キュウリ(43/千葉県旭市)、ナス(9.3/栃木県真岡市)。なお、数値はセシウム濃度Bq/kg。
【注2】文科省が毎日公表している都道府県の「定時降下物」の測定結果によれば、福島市(原発から60km)に降り注いだセシウムの量は、101Bq相当/平米だ(12月19~20日の24時間)。12月も連日10~数十Bqが降り、栃木・茨城両県でもそれぞれ105Bqと13Bqを計測した日があった。
【注3】昨年7月以降からイモ類や根菜類の汚染のピークが目立ち始めた。汚染ルートが葉から根に変わったのだ。2012年は、セシウムが土壌に浸透した状態で、作物が一から育てられることになる。
【注4】福島県農業総合センターの栽培実験によれば、土壌中のセシウムが作物へ移行する割合(移行率)は、黒ボク土で栽培したブロッコリー、ホウレンソウ、コマツナはいずれも0.3%程度で、「移行率1割」のコメより小さい。ただし、同県内の畑地の5割を占める森林褐色土での移行率は黒ボク土の15倍も高くなる。
●海
震災後の汚染調査に取り組む石丸隆・東京海洋大学教授は、次のように語る。
福島県の魚では、汚染が横ばいのままの魚もあれば、落ちて見える魚もある(<例>カレイ)。ヒラメからは、11月に最も高い4,500Bqが検出され、まだ上昇中のようだ。ピークの時期も濃度も予想がつかない【注5】。
チェルノブイリ事故当時は、大型魚のスズキの汚染のピークは、海水の濃度のピークより半年ほど遅れて現れた。魚の汚染濃度は、濃縮によって海水の100倍以上に達した。マダラの汚染は収まるのに2年半以上かかった。
福島第一原発事故では、空から降り注いだ放射性物質が海を薄く均一に汚染したチェルノブイリと異なり、高濃度汚染水が1ヵ月も直接海に流れ込んだため、汚染水の塊がまだら状に広がった【注6】。
沿岸を流れる海流や河川からの汚染物質流入などによって、汚染が拡大している可能性がある。海底土の汚染は、海底に棲む魚の汚染拡大につながる。餌となるゴカイなどの底生生物やプランクトンの汚染を調べて実態を把握することが急務だ。
海水の汚染は低下しており、表層のプランクトンが高レベルに汚染される可能性はもうなさそうだ【注7】。それらを食べる表層の小魚のシラスは、検査で「不検出」が続いている。同様に、サンマ、マイワシの汚染も低下するだろう。小魚を食べるカツオ、外洋の生態系にいるマグロの汚染は考えにくい。ただし、海の汚染は海水、海底土と食用の魚しか検査していないので、分からないことだらけだ。
【注5】昨年11月に汚染の最高値を記録した魚が多く(<例>ヒラメ4,500/福島県沖、イワナ692/群馬県前橋市)、まだピークを迎えていない魚種が多い、と目される。
【注6】海の汚染は面的な広がりを見せ始めている。文科省による太平洋沿岸の海底土の調査によれば、汚染は福島から、少なくとも宮城、茨城県の海域に及んでいる。仙台湾の乾土の汚染は、53Bq(9月)から79Bq(10月)に高まった。
【注7】事故から10ヵ月経て、海水中の放射性物質が底へ沈殿した。
以上、大場弘行(本誌)「2012年の放射能食卓汚染」(「サンデー毎日」2012年1月15日号)に拠る。
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