語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>電気料金値上げ ~東電vs.経産省の暗闘~

2012年01月16日 | 震災・原発事故
 2011年12月22日、記者会見で、西沢俊夫・東京電力社長は「値上げは権利」と発言した。企業向け電気料金を2012年4月から20%程度値上げし、家庭向け電気料金も早い時期に政府に値上げ申請する、と【注】。

●批判1【経産省関係者】
 国民の血税でやっとクビがつながっているような企業のトップの言葉とは思えない。自分で自分のクビを絞めている。経産省内で電気料金制度の見直し論議が決着しない段階で、なぜ経営陣が「暴走」するのか、まったく解せない。

●批判2【枝野幸男・経産相】
 安定供給を錦の御旗に、値上げが電気事業者の権利であるとの考えは改めてくれ。

●批判3【飯田哲也・環境エネルギー政策研究所長】
 事故を起こした責任があるうえ、株主や銀行の責任を棚上げにしたまま、値上げを口にするのは非常識きわまりない。日本の電気料金は元々世界最高水準だ。その非効率さを改めることもしていない。事故が継続する中、値上げ分が損害賠償の支払いに流用される可能性もある。

●東電の実情 
 内閣府が事故直後に設置した第三者委員会「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の事業計画シミュレーションによれば、
 (a)原発非稼働の場合、10%値上げしても10年間で4兆2,000億円の、
 (b)原発を稼働させても10%値上げで7,900億円の、
 (c)原発を稼働させても値上げがなければ3兆8,000億円の資金不足が生じる。

●経産省の動き
 有職者会議を立ち上げ、「総括原価方式」の点検を始めている。
 原価には、電気料金として一般家庭に請求するには不適切な費目が上乗せされてきた。<例1>保養所の維持管理費など福利厚生費、<例2>「電力中央研究所」(電力会社OBの天下り団体)への寄付金、<例3>社内財形貯蓄の利子補填。【有職者会議委員】

●経済界の反応
 米倉弘昌・日本経団連会長は、やむえない、と値上げ容認を表明しているが、経済界は一枚岩ではない。とりわけ中小・零細企業からの反発が強い。
 すべてのプロセス(生産工程)から1円の利益を搾り出すような努力をしている中小・零細企業にとって影響は絶大だ。【飯田所長】

●東電vs.経産省【岸博幸・慶應大学大学院教授】
 値上げが断行された場合、一般家庭の可処分所得が減り、消費に大きなマイナスとなる。2012年度は「復興特需」の支えがあるとはいえ、2013年度以降は自然体でも厳しい情勢だ。
 原発事故の賠償額も確定せず、将来的な電力業界の枠組みさえ不透明な現段階で料金値上げに踏み切るとは、あまりにムシが良すぎる。
 原発推進や賠償支払いでは足並みをそろえる東電と経産省は、実は「同床異夢」だ。東電を実質国有化して発送電分離を実現し、電力業界を支配しようとする経産省に対し、東電は発送電一体の現状維持を望んでいる。さらに経産省は、国有化の後に勝俣恒久・会長ら現経営陣を一掃する方針だが、東電は激しく抵抗するだろう。
 東電は、今年3月期には廃炉コストの増大などで債務超過に陥ることが確実だ。政府内では、国の資本注入によって一時、実質国有化する方向で検討中だ。
 社長の値上げ会見は、短期的には国有化を避け、長期的には脱原発路線をひっくり返す反撃の狼煙とも読める。これまで一枚岩だった東電・経産省の間で暗闘が始まった。

 【注】記事「東電、家庭用値上げ申請へ 企業向けは4月からの方針」(2011年12月22日12時31分 asahi.com)

 以上、徳丸威一郎「東電値上げ 「醜いからくり」(「サンデー毎日」2012年1月22日号)に拠る。
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