「社会保障と税の一体改革案(素案)」は、福祉の強化という空手形に終わるはずだ。
野田首相は、「社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成」を図ると力説し、「素案」にも「子ども・子育て支援の強化」「医療・介護サービス保障の強化」などのお題目が並ぶ。
しかし、「財政健全化」に係る首相から国民に向けたメッセージは、ほとんど聞かれない。
当然だ。その点を丁寧に説明すれば、「一体改革」の真の目的が「福祉の強化」以上に、あらたな財源を確保することである、と察知されかねないからだ。
24年前、消費税導入(1989年4月実施)にあたり、大蔵省(当時)の広報担当者(女性キャリア)は、「朝まで生テレビ!」に出演して言った。
「消費税で老後の憂いをなくす介護保険制度を創設する」
「税率を3%以上に引き上げない」
ところが、導入(2000年4月実施)して10有余年たつ今、介護保険制度は甚だ心もとない制度でしかない。だからこそ、「介護サービス保障の強化」が必要なわけだ。
他方、あれだけ税率は上げない、と強弁しておきながら、導入から8年後には5%に引き上げた(1997年4月実施)。この時も、福祉という美名のもと、空手形が乱発された。
しかも、消費税によって潤沢な財源を得た厚生省(当時)は、補助金のバラマキをはじめ、挙げ句、導入から7年目に同省の岡光序治・事務次官が辞任後に賄賂罪で逮捕された(1996年)。官僚に余計なカネを持たせるとろくなことをしない、という見本だ。
こんな古典的手法に国民の多数が騙されてしまうのは、税率の引き上げとセットで政治家や公務員の削減策が提示されるからだろう。
増税によって国民に負担を強いる以上、政・官の側でも身を削る、というポーズを見せられると、善良なる国民はつい政府の増税案は正しい、と思い込んでしまうのだ。そんな国民性を読んでか、前原誠司・民主党政調会長は、民間企業の解雇に相当する「分限免職」によって国家公務員や地方公務員の削減を検討すべきだ、と昨年末に口走った。
前原は、連合の反発と、その後の効果も折り込み済みだ。年明け早々、古賀伸明・連合会長は、選挙協力の再考をほのめかしながら前原発言を批判。おかげで、前原発言は不思議な緊張感と信憑性を帯びることになった。「削減」への進行は、シナリオどおりに演出されている。
しかし、「分限免職」の実現可能性は限りなく乏しいのだ。クビにすべき職員を選別しようとしても、公務員独特の仲間意識とかばい合い精神によって、勤務態度の悪さや不正行為を明らかにする資料が、突如として紛失してしまうからだ。
<例>厚労省年金局は、厚生年金の記録改竄に関わった職員の有無を調べたが、不正への関与が確認できなかった、と報告している。「関係書類のほとんどが保存年限を超えていた」
関係書類(滞納処分票など)は、調査が始まる以前は文書管理規定の定めに関係なく、事実上永年保存とされていた。にもかかわらず、なぜか突然、廃棄されてしまったのだ。
「福祉の強化」も「分限免職」も、単なるお題目でしかない。それらをお囃子のように連呼することで、国民の批判をかわし、増税にこぎ着けようとするのが、「社会保障と税の一体改革」の裏に隠された真の目的だ。
違う、と言うなら、まず公務員の人員を減らしたうえで、その実績をもとに消費税率などの議論に入るべし。
これが事の順序というものだ。
以上、岩瀬達哉「政府が掲げる公務員の削減案は消費税引き上げのための罠」(「週刊現代」2012年1月28日号)に拠る。
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野田首相は、「社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成」を図ると力説し、「素案」にも「子ども・子育て支援の強化」「医療・介護サービス保障の強化」などのお題目が並ぶ。
しかし、「財政健全化」に係る首相から国民に向けたメッセージは、ほとんど聞かれない。
当然だ。その点を丁寧に説明すれば、「一体改革」の真の目的が「福祉の強化」以上に、あらたな財源を確保することである、と察知されかねないからだ。
24年前、消費税導入(1989年4月実施)にあたり、大蔵省(当時)の広報担当者(女性キャリア)は、「朝まで生テレビ!」に出演して言った。
「消費税で老後の憂いをなくす介護保険制度を創設する」
「税率を3%以上に引き上げない」
ところが、導入(2000年4月実施)して10有余年たつ今、介護保険制度は甚だ心もとない制度でしかない。だからこそ、「介護サービス保障の強化」が必要なわけだ。
他方、あれだけ税率は上げない、と強弁しておきながら、導入から8年後には5%に引き上げた(1997年4月実施)。この時も、福祉という美名のもと、空手形が乱発された。
しかも、消費税によって潤沢な財源を得た厚生省(当時)は、補助金のバラマキをはじめ、挙げ句、導入から7年目に同省の岡光序治・事務次官が辞任後に賄賂罪で逮捕された(1996年)。官僚に余計なカネを持たせるとろくなことをしない、という見本だ。
こんな古典的手法に国民の多数が騙されてしまうのは、税率の引き上げとセットで政治家や公務員の削減策が提示されるからだろう。
増税によって国民に負担を強いる以上、政・官の側でも身を削る、というポーズを見せられると、善良なる国民はつい政府の増税案は正しい、と思い込んでしまうのだ。そんな国民性を読んでか、前原誠司・民主党政調会長は、民間企業の解雇に相当する「分限免職」によって国家公務員や地方公務員の削減を検討すべきだ、と昨年末に口走った。
前原は、連合の反発と、その後の効果も折り込み済みだ。年明け早々、古賀伸明・連合会長は、選挙協力の再考をほのめかしながら前原発言を批判。おかげで、前原発言は不思議な緊張感と信憑性を帯びることになった。「削減」への進行は、シナリオどおりに演出されている。
しかし、「分限免職」の実現可能性は限りなく乏しいのだ。クビにすべき職員を選別しようとしても、公務員独特の仲間意識とかばい合い精神によって、勤務態度の悪さや不正行為を明らかにする資料が、突如として紛失してしまうからだ。
<例>厚労省年金局は、厚生年金の記録改竄に関わった職員の有無を調べたが、不正への関与が確認できなかった、と報告している。「関係書類のほとんどが保存年限を超えていた」
関係書類(滞納処分票など)は、調査が始まる以前は文書管理規定の定めに関係なく、事実上永年保存とされていた。にもかかわらず、なぜか突然、廃棄されてしまったのだ。
「福祉の強化」も「分限免職」も、単なるお題目でしかない。それらをお囃子のように連呼することで、国民の批判をかわし、増税にこぎ着けようとするのが、「社会保障と税の一体改革」の裏に隠された真の目的だ。
違う、と言うなら、まず公務員の人員を減らしたうえで、その実績をもとに消費税率などの議論に入るべし。
これが事の順序というものだ。
以上、岩瀬達哉「政府が掲げる公務員の削減案は消費税引き上げのための罠」(「週刊現代」2012年1月28日号)に拠る。
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