吉本佳生『日本経済の奇妙な常識』(講談社、2011)を大橋巨泉は以下のように紹介する。
<読み進むうちに、このところずっと心にわだかまっていたものが、ほぐれていくようであった。特に「円高問題」や「日本の経済の根本問題」、「格差拡大の原因」、「消費税アップ」などに対する考え方が新鮮なのだ。>
たとえば、円高問題。
外国では、通貨が安くなると心配し、価値が上がると安心することが多い。海外旅行に行きやすい、輸入品が安く買える、云々。
しかるに、日本に限って、円高になると輸出産業の株が下がり、財務大臣や日銀総裁がそわそわし出し、ついには「介入」して円を売り、ドルを買う。そのくせ、余り効果はあがらない。
以前からオカシイと思っていたが、本書を読んで氷解した。現在の1ドル=70円台は、円高どころか円安だ、と著者(吉本佳生。以下同じ)はいう。
貨幣価値は、それでどれくらいのものを買えるか、だ。1ドル=120円の状態が続くなかで米国の物価だけ2倍になったら、円をドルに替える人が以前と同じ価値のドルを貰うには2ドル貰わないと割に合わない。だから、1ドル=60円になって当たり前なのだ。
1ドル=120円だった1990年代後半と比べると、現在の米国の物価は2倍近くになっている。他方、日本はデフレでほとんど上がっていない。つまり、1ドル=78円は、むしろ円安なのだ。著者は、各国のビッグマック指数を援用して解説している。
日本政府は、昨年8月の介入のように「日本の貿易相手国に多大な迷惑をかけてでも、日本の輸出産業の利益になればそれでよい」という考えだ(「近隣窮乏化政策」)。
日本経済の「輸出依存体質」は長年言われてきた。国内消費を増やすのも、長年の課題だった。しかし、円高誘導 → 政府介入までして輸出を助けているところからして、その体質は変わっていない。
消費を伸ばしたくても、労働者の賃金は一向に上がらない。むしろ減っている。だから、物価も上がらない。すなわち、デフレだ。このスパイラルに入って久しい。どこかオカシイ。あれだけ輸出産業を助けているのに。
著者はいう。すでに日本企業でも自動車や電気製品など輸出産業は、純粋な日本企業ではない。従業員の半数が海外で働く現地人だからだ。10%(1991年)から40%、自動車は48%(2009年)に急増している。政府が近隣諸国に通貨戦争まで仕掛けて守っている輸出産業は、どんどん現地従業員に恩恵を施し、逆に日本国内の労働者に不利益をもたらしている。
著者によれば、ターニングポイントは1998年だった。
企業も、一般家庭と同じく貯蓄する。ただし、企業はそれを上回る投資(設備)投資など)を行うから、家計の貯蓄を(銀行など経由で)借りて使う。これが正常な姿だ。
ところが、1990年代中頃から、企業の貯蓄が増加の一途をたどる。それまで賃金アップや設備投資(借入)とバランスがとれていたものが、企業の内部留保ばかり増えるというアンバランスな傾向になった。その頂点が1998年だ。
ここで大橋は、話題を消費税に転じる。この転じ方は巧みだ。
著者は、この1998年に日本の自殺者が急増した、と指摘する。それまで2万人台だったが、この年一気に3万人台に突入した。
そして、その前年の4月、橋本龍太郎内閣は、それまで3%だった消費税を5%に増税した。
その後、「小泉改革」を経て、日本社会における格差はどんどん拡大している。賃金が上がらねば、恵まれた一部の人には賃金が上がったに等しい効果があるからだ。
野田首相があれほど抵抗していた2大臣の更迭までやって、野党の合意をとりつけ、消費税を上げたいのは、一にも二にも財務省の意向に従いたいからだ。「不退転の決意」で消費税率をアップすれば、直撃されるのは低所得者層と中小企業だ。それも、著者が一番やってはいけない、という「小幅な増税」の繰り返しだ。
本来ならば、貯金(内部留保)を増やしている大企業にこそ増税すべきだ。
昔、青島幸男は、佐藤栄作を「財界の男メカケ」と呼んで物議をかもした。
今、野田首相は誰の男メカケなのか。
以上、大橋巨泉「消費増税、TPP推進と弱い者いじめの野田は誰の「男メカケ」なのだ!? ~今週の遺言 第154回~」(「週刊現代」2012年1月28日号)に拠る。
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<読み進むうちに、このところずっと心にわだかまっていたものが、ほぐれていくようであった。特に「円高問題」や「日本の経済の根本問題」、「格差拡大の原因」、「消費税アップ」などに対する考え方が新鮮なのだ。>
たとえば、円高問題。
外国では、通貨が安くなると心配し、価値が上がると安心することが多い。海外旅行に行きやすい、輸入品が安く買える、云々。
しかるに、日本に限って、円高になると輸出産業の株が下がり、財務大臣や日銀総裁がそわそわし出し、ついには「介入」して円を売り、ドルを買う。そのくせ、余り効果はあがらない。
以前からオカシイと思っていたが、本書を読んで氷解した。現在の1ドル=70円台は、円高どころか円安だ、と著者(吉本佳生。以下同じ)はいう。
貨幣価値は、それでどれくらいのものを買えるか、だ。1ドル=120円の状態が続くなかで米国の物価だけ2倍になったら、円をドルに替える人が以前と同じ価値のドルを貰うには2ドル貰わないと割に合わない。だから、1ドル=60円になって当たり前なのだ。
1ドル=120円だった1990年代後半と比べると、現在の米国の物価は2倍近くになっている。他方、日本はデフレでほとんど上がっていない。つまり、1ドル=78円は、むしろ円安なのだ。著者は、各国のビッグマック指数を援用して解説している。
日本政府は、昨年8月の介入のように「日本の貿易相手国に多大な迷惑をかけてでも、日本の輸出産業の利益になればそれでよい」という考えだ(「近隣窮乏化政策」)。
日本経済の「輸出依存体質」は長年言われてきた。国内消費を増やすのも、長年の課題だった。しかし、円高誘導 → 政府介入までして輸出を助けているところからして、その体質は変わっていない。
消費を伸ばしたくても、労働者の賃金は一向に上がらない。むしろ減っている。だから、物価も上がらない。すなわち、デフレだ。このスパイラルに入って久しい。どこかオカシイ。あれだけ輸出産業を助けているのに。
著者はいう。すでに日本企業でも自動車や電気製品など輸出産業は、純粋な日本企業ではない。従業員の半数が海外で働く現地人だからだ。10%(1991年)から40%、自動車は48%(2009年)に急増している。政府が近隣諸国に通貨戦争まで仕掛けて守っている輸出産業は、どんどん現地従業員に恩恵を施し、逆に日本国内の労働者に不利益をもたらしている。
著者によれば、ターニングポイントは1998年だった。
企業も、一般家庭と同じく貯蓄する。ただし、企業はそれを上回る投資(設備)投資など)を行うから、家計の貯蓄を(銀行など経由で)借りて使う。これが正常な姿だ。
ところが、1990年代中頃から、企業の貯蓄が増加の一途をたどる。それまで賃金アップや設備投資(借入)とバランスがとれていたものが、企業の内部留保ばかり増えるというアンバランスな傾向になった。その頂点が1998年だ。
ここで大橋は、話題を消費税に転じる。この転じ方は巧みだ。
著者は、この1998年に日本の自殺者が急増した、と指摘する。それまで2万人台だったが、この年一気に3万人台に突入した。
そして、その前年の4月、橋本龍太郎内閣は、それまで3%だった消費税を5%に増税した。
その後、「小泉改革」を経て、日本社会における格差はどんどん拡大している。賃金が上がらねば、恵まれた一部の人には賃金が上がったに等しい効果があるからだ。
野田首相があれほど抵抗していた2大臣の更迭までやって、野党の合意をとりつけ、消費税を上げたいのは、一にも二にも財務省の意向に従いたいからだ。「不退転の決意」で消費税率をアップすれば、直撃されるのは低所得者層と中小企業だ。それも、著者が一番やってはいけない、という「小幅な増税」の繰り返しだ。
本来ならば、貯金(内部留保)を増やしている大企業にこそ増税すべきだ。
昔、青島幸男は、佐藤栄作を「財界の男メカケ」と呼んで物議をかもした。
今、野田首相は誰の男メカケなのか。
以上、大橋巨泉「消費増税、TPP推進と弱い者いじめの野田は誰の「男メカケ」なのだ!? ~今週の遺言 第154回~」(「週刊現代」2012年1月28日号)に拠る。
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