語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】イタリア国債と日本国債の違う点 ~バブル~

2012年01月17日 | ●野口悠紀雄
(1)深刻化した欧州ソブリン危機
 2011年秋以降、これまでとは異質の要素が入り込んできた。イタリアという大国の国債利回り急騰だ。この過程は、理解が容易ではない。
 (a)なぜイタリア国債が暴落したのか、わかりにくい。07年の米国金融危機における住宅ローンを担保に作った証券化商品の価格下落に相当するファンダメンタルズ上の変化は生じていない。イタリアの単年度財政収支の状態は格別悪くない(国債費の支払いを除けば財政支出は税収で賄える)。
 (b)日本国債と米国国債に影響が及んでいない。日本と違って、2011年現在のイタリア国債の保有者は5割が外国の投資家だが、米国国債の5割も外国で保有されている。しかも、米国の対外経常収支は巨額の赤字だ。にも拘わらず、米国国債は暴落していない。

(2)イタリア国債
 イタリアのプライマリバランスは黒字だが、過去の財政赤字が累積した結果、国債残高は大きい。しかも、イタリア国債の利回りは、急騰前でも4~5%と高かった(国債費の重圧)。
 他方、イタリアは徴税システムに問題がある。税務当局が捕捉できない地下経済が、昔から大きい。官吏の腐敗もある。
 よって、イタリア政府が国債利子を払えなくなり、償還できなくなる可能性はゼロではない。
 これを背景に市場がイタリア国債にノーを突き付けたら、原理的には、(a)金融政策で流動性を供給することで危機を切り抜けられる。欧州中央銀行(ECB)がイタリア国債を買い支えればよいのだ。また、(b)国債はCDSでプロテクトできる。
 しかし、実際に(a-2)ECBが支援するか否かは、現実の政治的条件を考慮すると、大変困難な課題だ。また、(b-2)イタリア国債の残高は、ギリシャと違って大きいから、すべてをCDSで守り切ることはできない。
 イタリア国債の保有構造も影響する。外国の投資家が投資原資を短期資金で調達している部分が多いから、国債市場価格に敏感に反応して保有国債を売る。ために、危機の伝播速度が速い。のみならず、国債費として支払われる財政支出は国外に流出する。
 ちなみに、日本では、国債費として支払われたものの大部分は貯蓄され、国債で吸い上げられる(資金が国内で循環しているだけだ)。

(3)ユーロからドルと円へ逃げる投資資金
 (2)のメカニズムにより、投資資金がユーロから逃避し、ドルと円に逃げ込んでいる【注】。→ユーロは、ドルと円に対して急速に減価している。
 11年4月頃:1ユーロ=120円、1ドル=82~85円
 11年8月頃:1ユーロ=110円、1ドル=76~78円
 11年12月:             1ドル=78円近く(円の増価率2.5%)
 12年1月頃:1ユーロ= 90円
 ECBは金融緩和を行うので、ユーロはさらに下落する恐れがある(ユーロという仕組みに対する市場の不信認)。

(4)日本国債
 日本の財政事情は、イタリアより悪い。市場が日本国債に不信認を突き付けることは、十分あり得る(危機の前倒し)。ただし、日本国債の保有構造からして、売り投機(膨大な損失を被る)のルートでの危機伝播は考えにくい。
 短期的に見る限り、日本国債の消化に問題は生じそうもない。だから発行に歯止めがかからない。財政構造見直しの真剣な努力は行われず、公債依存度は高まっていく。
 しかし、長期的に見れば、アンバランスのさらなる拡大の危険がある。実質レートの長期的な傾向から見て、現在の為替レートは円高とは言えない(バブルではない)。しかし、円に流れ込んだ資金が国債に向かうメカニズムは、バブルである可能性が強い。日本国債が長期的に有利で確実な収益を生むから投資されるのではなく、資金流入が国債価格を引き上げ、それが値上がり益を生むため、さらに資金流入を呼んでいるのだ。
 本来は安定的には継続し得ない構造が、不均衡が不均衡を呼ぶことで成立している(バブル)。米国経常赤字もバブルを起こしている。
 バブル崩壊のショックに備えねばならない。

 【注】1月13日、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)はユーロ圏9カ国(フランス・オーストリア・スロベニア・スペイン・スロバキア・マルタ・イタリア・キプロス・ポルトガル)を1~2段階格下げた。【記事「S&P、フランスなどユーロ圏9カ国一斉格下げ ドイツは最上位を維持」日本経済新聞WEB刊2012/1/14 10:15 】
 これを受けて、ユーロを売り、円を買う動きが強まって、円相場は一時、1ユーロ=97円20銭まで上昇した。【記事「ユーロ圏国債格下げでユーロ安」(NHK NEWSWEB1月16日 5時8分)】

 以上、野口悠紀雄「イタリアと日本の国債は何が違うのか? ~「超」整理日記No.594~」(「週刊ダイヤモンド」2012年1月21日号)に拠る。
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