(1)この門をくぐる者は一切の希望を棄てよ
2011年度予算には日本の死相が表れていた。
死相は、12年度予算案や11年度第4次補正予算において、ますます顕著になっている。
(a)社会保障給付の見直しが急務なのに、行われたのは負担軽減措置のみ。
(b)社会保障を見直さずに財政収支を改善するには消費税率を30%程度にまで上げる必要があるが、5%引き上げさえままならない。
(c)基礎年金国庫負担率引き上げは、04度に「恒久財源を措置して行う」とされた。しかるに、11年度予算では埋蔵金によって処理された。しかし、その財源は補正予算で使われ、結局、復興債で手当されることになった(国庫負担金と復興とは無関係、念のため)。そして、12年度予算案では、「年金交付国債」の発行で措置されることが決まった(年金特別会計積立金から調達した資金で年金を給付、消費税増税後に税収から繰入れる)。年金交付国債は、国債と何も変わらないが、消費税増税まで換金できない。12年度の新規国債発行額を44兆円以下に抑えるための(質の悪い)トリックだ。
(d)マニフェスト関連バラマキ(農家個別所得保障、高校無償化、名称を変えただけで存続している子ども手当)が残っている。
(e)エコカー補助が復活した。これは、自動車産業や電機産業に対する国からの補助の恒久化だ(製造業の農業化)。
・・・・財政が、ギリシャと同じくコントロール不可能に陥っているのだ。
ギリシャとの違いは、国債が支障なく消化されている点だ。それは、国内の銀行が、企業向け貸出へ減らして国債を購入しているからだ。しかし、銀行の企業貸出残高は、いつか底を突く。日本は、滅びに至る道を着実に進んでいる。
現在の財政状態が行く着く先は、インフレしかない。この選択肢は、ユーロに加盟しているギリシャは採れなかったが、日本では可能だ。
(2)破綻の「前倒し」
日本国債の行き詰まりは、今すぐには生じない。問題は、それが「前倒し」で起こるかどうかだ。
銀行が、国債暴落を先取りして保有国債を今売却する・・・・ことは起こらないだろう。今のイタリアのような事態にはならないだろう。
より可能性が高いのは、将来の円安を見越して日本から資本が(たぶんドルに)逃避し、それが実際に円安を引き起こす・・・・というルートだ。
こうした予想に傾いた投機資金の動きが、急激な円安をもたらす可能性がある。
インフレ、名目円安、実質円高が同時に生じることは、十分あり得る。この場合、日本の輸出価格競争力は低下し、輸出は減る。名目円レートは物価上昇率ほど円安にならないから、実質レートは円高になる。国内インフレの結果としての円安は、日本の輸出を増やさず、減らす可能性のほうが高い。インフレは、日本が抱える問題に対する答にはなり得ない。
急激な円安への転換がいつ起こるか、まったく予想できないので、事前の対処は難しい。円安になったとき、急いで円から逃避するしかない。
(3)対インフレ防衛措置
インフレになれば、既発行国債の実質残高は減少する。
しかし、昔の財政とは違って、現代の日本の財政では、インフレになっても単年度の財政収支が改善するとは限らない。名目支出額がインフレとともに増加するからだ。わけても、年金の物価スライド条項の効果が大きい。これを通じて、財政支出はインフレで自動的に増加する。名目税収額はインフレによって増加するものの、消費税収は名目GDPに比例して伸びるだけなので、あまり大きな税収増は期待できない。
財政支出と税収の両面において、現代の財政は古典的な財政構造とは異なる構造になっている。
現代の財政は、インフレといえども、財政赤字に対する最終的な答とはなり得ないのだ。インフレは、実質国債残高を減少させるが、フロー面では財政収支改善にあまり役立たない。
国民の立場からすれば、インフレが生じても国債残高の実質値が減少しないような仕組みを作っておくことで、インフレによる実質増税を防ぐことができる。国債をインデックス国債に置き換えるのだ。
以上、野口悠紀雄「危機の前倒し発生に制度的な防御が必要 ~「超」整理日記No.593~」(「週刊ダイヤモンド」2012年1月14日号)に拠る。
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2011年度予算には日本の死相が表れていた。
死相は、12年度予算案や11年度第4次補正予算において、ますます顕著になっている。
(a)社会保障給付の見直しが急務なのに、行われたのは負担軽減措置のみ。
(b)社会保障を見直さずに財政収支を改善するには消費税率を30%程度にまで上げる必要があるが、5%引き上げさえままならない。
(c)基礎年金国庫負担率引き上げは、04度に「恒久財源を措置して行う」とされた。しかるに、11年度予算では埋蔵金によって処理された。しかし、その財源は補正予算で使われ、結局、復興債で手当されることになった(国庫負担金と復興とは無関係、念のため)。そして、12年度予算案では、「年金交付国債」の発行で措置されることが決まった(年金特別会計積立金から調達した資金で年金を給付、消費税増税後に税収から繰入れる)。年金交付国債は、国債と何も変わらないが、消費税増税まで換金できない。12年度の新規国債発行額を44兆円以下に抑えるための(質の悪い)トリックだ。
(d)マニフェスト関連バラマキ(農家個別所得保障、高校無償化、名称を変えただけで存続している子ども手当)が残っている。
(e)エコカー補助が復活した。これは、自動車産業や電機産業に対する国からの補助の恒久化だ(製造業の農業化)。
・・・・財政が、ギリシャと同じくコントロール不可能に陥っているのだ。
ギリシャとの違いは、国債が支障なく消化されている点だ。それは、国内の銀行が、企業向け貸出へ減らして国債を購入しているからだ。しかし、銀行の企業貸出残高は、いつか底を突く。日本は、滅びに至る道を着実に進んでいる。
現在の財政状態が行く着く先は、インフレしかない。この選択肢は、ユーロに加盟しているギリシャは採れなかったが、日本では可能だ。
(2)破綻の「前倒し」
日本国債の行き詰まりは、今すぐには生じない。問題は、それが「前倒し」で起こるかどうかだ。
銀行が、国債暴落を先取りして保有国債を今売却する・・・・ことは起こらないだろう。今のイタリアのような事態にはならないだろう。
より可能性が高いのは、将来の円安を見越して日本から資本が(たぶんドルに)逃避し、それが実際に円安を引き起こす・・・・というルートだ。
こうした予想に傾いた投機資金の動きが、急激な円安をもたらす可能性がある。
インフレ、名目円安、実質円高が同時に生じることは、十分あり得る。この場合、日本の輸出価格競争力は低下し、輸出は減る。名目円レートは物価上昇率ほど円安にならないから、実質レートは円高になる。国内インフレの結果としての円安は、日本の輸出を増やさず、減らす可能性のほうが高い。インフレは、日本が抱える問題に対する答にはなり得ない。
急激な円安への転換がいつ起こるか、まったく予想できないので、事前の対処は難しい。円安になったとき、急いで円から逃避するしかない。
(3)対インフレ防衛措置
インフレになれば、既発行国債の実質残高は減少する。
しかし、昔の財政とは違って、現代の日本の財政では、インフレになっても単年度の財政収支が改善するとは限らない。名目支出額がインフレとともに増加するからだ。わけても、年金の物価スライド条項の効果が大きい。これを通じて、財政支出はインフレで自動的に増加する。名目税収額はインフレによって増加するものの、消費税収は名目GDPに比例して伸びるだけなので、あまり大きな税収増は期待できない。
財政支出と税収の両面において、現代の財政は古典的な財政構造とは異なる構造になっている。
現代の財政は、インフレといえども、財政赤字に対する最終的な答とはなり得ないのだ。インフレは、実質国債残高を減少させるが、フロー面では財政収支改善にあまり役立たない。
国民の立場からすれば、インフレが生じても国債残高の実質値が減少しないような仕組みを作っておくことで、インフレによる実質増税を防ぐことができる。国債をインデックス国債に置き換えるのだ。
以上、野口悠紀雄「危機の前倒し発生に制度的な防御が必要 ~「超」整理日記No.593~」(「週刊ダイヤモンド」2012年1月14日号)に拠る。
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