(承前)
「AERA」誌の特集「日本を立て直す100人」【注】は、29ページ以降、(1)「日本が牽引する」、(2)「日本を整える」、(3)「日本を拓く」の3つのテーマの下に、それぞれ数人をとりあげる。そして、最後に「未来を創るのは私たちだ」と題し、ビジネス、農業・食・地域、教育・子ども、生活、国際、法曹、科学、政治・行政、社会・言論、スポーツ・文化・・・・の各分野における「100人」を数行で紹介する。
(1)から(3)までの諸氏諸嬢は、例えば次のような人々だ。
【注】「【社会】日本を立て直す100人」
(1)出雲充・「ユーグレナ」社長
出雲充(31)は、東大文科三類1年のとき、バングラデシュを旅し、貧困の実態を目の当たりにした。援助される食糧は炭水化物が中心で、野菜、肉、果物といった栄養源が圧倒的に足りない。食糧問題を解決できる「何か」を探すべく農学部に転部。たどりついたのがミドリムシだった。
ミドリムシは、体長0.05mmの微生物だ。植物のように光合成をし、動物のように細胞を変形させて動く。植物と動物の両方に分類される珍しい生物だ。
ミドリムシ単品で、人間が必要とするあらゆる栄養成分がある。世界で10億人が栄養不足状態にある、とされるが、ミドリムシがあれば皆元気になれる。【出雲社長】
大学卒業時点では、大量培養の技術がなかった。いったん東京三菱銀行(当時)に就職。働きながら後輩とともに培養技術を模索したが、研究は進まなかった。自らを追い込むため、1年で退職。2005年8月、「ユーグレナ」を創業した。世界初の大量培養に成功したのは、その4ヵ月後だった。
だが、売り出したサプリメントは、鳴かず飛ばず。赤字経営が続いた。
2009年、何社かの大企業からの出資があって、ようやく軌道にのった。
注目されたのは、ミドリムシの栄養成分ではなく、バイオ燃料への応用や、二酸化炭素吸収性の高さだった。
ミドリムシは、日本にとって一石三鳥の存在だ。二酸化炭素削減、バイオジェット燃料製造、栄養源として。ミドリムシは日本のみならず地球を救うはずだ。【出雲社長】
後輩らと始めたベンチャーは、いま資本金4億6千万円、社員30人以上の中小企業になった。
(2)岩本悠・島前高校魅力化プロディーサー
「隠岐やいま木の芽を囲む怒涛かな」(加藤楸邨)の隠岐諸島は、島根半島沖合60kmに位置する。島南地域の人口は、この20年間で3割近く減少し、6千人。うち4割が65歳以上だ(過疎と高齢化)。
この地域で唯一の高校(県立隠岐島前高校)の募集定員が、2012年春から7年ぶりに1学級40人→2学級80人に増える。過疎地の高校定員増は異例だ(島根県の県立高校募集定員は過去最少なのだが)。
高校の授業が終わった19時頃、公営塾「隠岐國学習センター」の「夢ゼミ」で、高校生たちは自分の将来の夢について発表し、意見交換する。学習意欲を高めるのが狙いだ。
生徒たちの輪の中には、岩本悠(32)がいる。
岩本は、ソニーで人材育成担当として働いていた。2006年、海士町で開催された出前授業に講師として招かれた。授業後、町職員たちから、生徒が減って高校は統廃合の危機にあるが、島から高校がなくなると地域は自立できなくなる、と相談された。
岩本は、学生時代にアジア、アフリカなど20ヵ国を旅し、交際支援活動にも参加した。いつかは途上国で、自分の幸せを自分でつかみとって自立するための教育に携わりたい、と思っていた。
しかし、島の現状を知って、考えを変えた。途上国と同じ問題がここにある。日本で解決できなければ、途上国でも解決できない・・・・。
高齢化や人口流出で、地方の疲弊は深刻だ。直近の国勢調査によれば、全国の自治体の4分の3で人口が減っている。東北、四国、山陰での減少率が高い。
岩本は、半年後、隠岐に移住した。島前高校の魅力を高めるプロジェクトに携わる。生徒がまちづくりを実践する中で、生きる力を育む授業が儲けられた。町が寮費や帰省の交通費を補助し、全国から意欲ある生徒を呼ぶ「島留学」制度も創設された。大手予備校で講師を経験した者らによる公営塾も開かれた。全国で入学説明会が開かれ、今や卒業生の25%が国公立大学に進学する。
岩本はいう。地域で学び、地域に誇りを持った子どもたちが、いつか地域に戻って仕事をつくる。そんなモデルが全国に広がったらいい。
(3)高木美香・経済産業省クール・ジャパン海外戦略室長補佐
高木美香(31)は、2002年東大経済学部卒業後、経産省に入省。2008年まで2年間、米スタンフォード大学に留学した。シリコンバレーの熱気に触れ、自問した。成長が止まった日本、情報通信産業がガラパゴス化し、ビジネスは内向きになった日本は、どんな分野で世界と未来を切り拓けばよいのか・・・・。
行き着いたのは、クリエイティブ産業だ。自動車は100万台作ったら100万台分しか売れない。しかし、クリエイティブ産業から生み出されるコンテンツは、消費者が望むかぎりパイを拡大できる。
それから3年。2011年12月17日、東京ミッドタウン内の会議室で、高木はデザイナーの卵ら100人に語りかけた。
「生の情報を持っている研究者と、デザイナー=伝えるプロとを結びつけ、グラフィックを通じて日本を変えていきたい」
経産省が10月に立ち上げたウェブサイト「ツタグラ」(統計情報などをグラフィックスを使ってわかりやすく伝える方法を探る)のイベントだ。高木らが仕掛けたプロジェクトだ。
クール・ジャパン室(当時)は、高木が創設を訴え、2010年10月、複数の部署を統合してできた。日本のファッション、デザイン、食、伝統工芸などを海外に売り込み、国内でも新たな価値を創造していく。それまで担当業種、業態が細分化されすぎていたが、「クール・ジャパン」というコンセプトで一つにまとめたら、自分がやっていることこそクール・ジャパンだ、と手を挙げる人が相次いだ。
10月、「原宿ブランド」を売り込むため、シンガポール中心部のオーチャード通りにある百貨店にアンテナショップを出店した。日本の新興アパレルブランド15社が、ここでアジア進出を模索する。前月に、枝野幸男経産相が現地入りし、シンガポールの情報通信・芸術相と共同でクリエイティブ産業分野での協力関係強化を発表するなど、大掛かりな仕掛けもした。
世界の勢いに立ち向かうには、産業、教育、行政のすべてで創造的なプロセスを導入することが不可欠だ。業種を超えた連携、領域を超えたイノベーションが重要だ。【高木補佐】
停滞し、閉塞した時代しか知らない若者たちに少しでも「希望」を感じてもらうには、「日本ってすごい」という実感をもってもらうにしくはない。
以上、伊藤隆太郎/太田匡彦/小林明子/山根祐作(編集部)「日本を立て直す100人 ~停滞する日本に力を吹き込む」(「AERA」2012年1月2-9日合併増大号)に拠る。
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「AERA」誌の特集「日本を立て直す100人」【注】は、29ページ以降、(1)「日本が牽引する」、(2)「日本を整える」、(3)「日本を拓く」の3つのテーマの下に、それぞれ数人をとりあげる。そして、最後に「未来を創るのは私たちだ」と題し、ビジネス、農業・食・地域、教育・子ども、生活、国際、法曹、科学、政治・行政、社会・言論、スポーツ・文化・・・・の各分野における「100人」を数行で紹介する。
(1)から(3)までの諸氏諸嬢は、例えば次のような人々だ。
【注】「【社会】日本を立て直す100人」
(1)出雲充・「ユーグレナ」社長
出雲充(31)は、東大文科三類1年のとき、バングラデシュを旅し、貧困の実態を目の当たりにした。援助される食糧は炭水化物が中心で、野菜、肉、果物といった栄養源が圧倒的に足りない。食糧問題を解決できる「何か」を探すべく農学部に転部。たどりついたのがミドリムシだった。
ミドリムシは、体長0.05mmの微生物だ。植物のように光合成をし、動物のように細胞を変形させて動く。植物と動物の両方に分類される珍しい生物だ。
ミドリムシ単品で、人間が必要とするあらゆる栄養成分がある。世界で10億人が栄養不足状態にある、とされるが、ミドリムシがあれば皆元気になれる。【出雲社長】
大学卒業時点では、大量培養の技術がなかった。いったん東京三菱銀行(当時)に就職。働きながら後輩とともに培養技術を模索したが、研究は進まなかった。自らを追い込むため、1年で退職。2005年8月、「ユーグレナ」を創業した。世界初の大量培養に成功したのは、その4ヵ月後だった。
だが、売り出したサプリメントは、鳴かず飛ばず。赤字経営が続いた。
2009年、何社かの大企業からの出資があって、ようやく軌道にのった。
注目されたのは、ミドリムシの栄養成分ではなく、バイオ燃料への応用や、二酸化炭素吸収性の高さだった。
ミドリムシは、日本にとって一石三鳥の存在だ。二酸化炭素削減、バイオジェット燃料製造、栄養源として。ミドリムシは日本のみならず地球を救うはずだ。【出雲社長】
後輩らと始めたベンチャーは、いま資本金4億6千万円、社員30人以上の中小企業になった。
(2)岩本悠・島前高校魅力化プロディーサー
「隠岐やいま木の芽を囲む怒涛かな」(加藤楸邨)の隠岐諸島は、島根半島沖合60kmに位置する。島南地域の人口は、この20年間で3割近く減少し、6千人。うち4割が65歳以上だ(過疎と高齢化)。
この地域で唯一の高校(県立隠岐島前高校)の募集定員が、2012年春から7年ぶりに1学級40人→2学級80人に増える。過疎地の高校定員増は異例だ(島根県の県立高校募集定員は過去最少なのだが)。
高校の授業が終わった19時頃、公営塾「隠岐國学習センター」の「夢ゼミ」で、高校生たちは自分の将来の夢について発表し、意見交換する。学習意欲を高めるのが狙いだ。
生徒たちの輪の中には、岩本悠(32)がいる。
岩本は、ソニーで人材育成担当として働いていた。2006年、海士町で開催された出前授業に講師として招かれた。授業後、町職員たちから、生徒が減って高校は統廃合の危機にあるが、島から高校がなくなると地域は自立できなくなる、と相談された。
岩本は、学生時代にアジア、アフリカなど20ヵ国を旅し、交際支援活動にも参加した。いつかは途上国で、自分の幸せを自分でつかみとって自立するための教育に携わりたい、と思っていた。
しかし、島の現状を知って、考えを変えた。途上国と同じ問題がここにある。日本で解決できなければ、途上国でも解決できない・・・・。
高齢化や人口流出で、地方の疲弊は深刻だ。直近の国勢調査によれば、全国の自治体の4分の3で人口が減っている。東北、四国、山陰での減少率が高い。
岩本は、半年後、隠岐に移住した。島前高校の魅力を高めるプロジェクトに携わる。生徒がまちづくりを実践する中で、生きる力を育む授業が儲けられた。町が寮費や帰省の交通費を補助し、全国から意欲ある生徒を呼ぶ「島留学」制度も創設された。大手予備校で講師を経験した者らによる公営塾も開かれた。全国で入学説明会が開かれ、今や卒業生の25%が国公立大学に進学する。
岩本はいう。地域で学び、地域に誇りを持った子どもたちが、いつか地域に戻って仕事をつくる。そんなモデルが全国に広がったらいい。
(3)高木美香・経済産業省クール・ジャパン海外戦略室長補佐
高木美香(31)は、2002年東大経済学部卒業後、経産省に入省。2008年まで2年間、米スタンフォード大学に留学した。シリコンバレーの熱気に触れ、自問した。成長が止まった日本、情報通信産業がガラパゴス化し、ビジネスは内向きになった日本は、どんな分野で世界と未来を切り拓けばよいのか・・・・。
行き着いたのは、クリエイティブ産業だ。自動車は100万台作ったら100万台分しか売れない。しかし、クリエイティブ産業から生み出されるコンテンツは、消費者が望むかぎりパイを拡大できる。
それから3年。2011年12月17日、東京ミッドタウン内の会議室で、高木はデザイナーの卵ら100人に語りかけた。
「生の情報を持っている研究者と、デザイナー=伝えるプロとを結びつけ、グラフィックを通じて日本を変えていきたい」
経産省が10月に立ち上げたウェブサイト「ツタグラ」(統計情報などをグラフィックスを使ってわかりやすく伝える方法を探る)のイベントだ。高木らが仕掛けたプロジェクトだ。
クール・ジャパン室(当時)は、高木が創設を訴え、2010年10月、複数の部署を統合してできた。日本のファッション、デザイン、食、伝統工芸などを海外に売り込み、国内でも新たな価値を創造していく。それまで担当業種、業態が細分化されすぎていたが、「クール・ジャパン」というコンセプトで一つにまとめたら、自分がやっていることこそクール・ジャパンだ、と手を挙げる人が相次いだ。
10月、「原宿ブランド」を売り込むため、シンガポール中心部のオーチャード通りにある百貨店にアンテナショップを出店した。日本の新興アパレルブランド15社が、ここでアジア進出を模索する。前月に、枝野幸男経産相が現地入りし、シンガポールの情報通信・芸術相と共同でクリエイティブ産業分野での協力関係強化を発表するなど、大掛かりな仕掛けもした。
世界の勢いに立ち向かうには、産業、教育、行政のすべてで創造的なプロセスを導入することが不可欠だ。業種を超えた連携、領域を超えたイノベーションが重要だ。【高木補佐】
停滞し、閉塞した時代しか知らない若者たちに少しでも「希望」を感じてもらうには、「日本ってすごい」という実感をもってもらうにしくはない。
以上、伊藤隆太郎/太田匡彦/小林明子/山根祐作(編集部)「日本を立て直す100人 ~停滞する日本に力を吹き込む」(「AERA」2012年1月2-9日合併増大号)に拠る。
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