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もう一つのワールドカップ

2018-07-10 | 先住民族関連
GLOBE 2018.07.09
サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会に先立って、ロンドンで「もう一つのワールドカップ」が開かれた。外交的にもスポーツの世界でも国際的にほとんど認められていない国や地域、民族などの集団から16のサッカーチームが出場、国境を超えた熱戦を繰り広げた。
チベット、タミル・イーラム、カスカディア、マタベレランド……。いずれも国際サッカー連盟(FIFA)W杯への参加が認められていないチーム。だが、このもう一つのワールドカップに参加することで、「私たちの存在と大義が国際的に認められることにつながる」とファーハット・メヘンニ(訳注=名前は英語読み、以下一部を除き同じ)は言った。肩書はアルジェリアアトラスの山岳地域にあるカビリア臨時政府の大統領である。
メヘンニはフランスに亡命中だ。電話で話を聞くと、カビリアのチーム「カビルス」のメンバーや家族は、出場に当たってアルジェリア当局からさまざまな脅しを受けた、と言った。
もう一つのワールドカップを運営するのはConfederation of Independent Football Associations(独立サッカー連盟、CONIFA)。大会はトーナメントで行われ、今回で3回目となった。
同連盟の会長ペール・アンデルス・ブランドは、政治ではなく試合に注目してほしい、と言った。しかし、その一方でブランドは、多くの選手やファンの出身地は厳しい国家支配下に置かれており、彼らは大会を通じて国際的な承認を訴えている、とも述べ、政治的な側面を否定しなかった。それどころか、ブランドは「もちろん、我々は議論を巻き起こそうとしている」と言明、「我々は狂った負け犬だ」とも言った。
今回2018年のCONIFAワールドカップ第3回大会は、ロンドン南東部の小規模なサッカー場など数カ所で行われた。スポンサーは英国の老舗ブックメーカーのパディーパワー。前回16年大会のスポンサーだったアブハジアの漁業関連実業者連合に比べ、よりふさわしいスポンサーといえるだろう。
CONIFAの加盟メンバーは現在47。イラク・クルディスタンのように自治政府が機能している地域からロマ人や在日コリアンなど差別と闘っている団体までさまざまだ。グリーンランドも加盟している。デルビデック(セルビアのハンガリー系住民)、バラワ(ソマリア南部)、ウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」といった地域、民族集団もいる。メンバーの一つ、カスカディアは米国北西部の太平洋岸とカナダの一部を含んだ地域で提唱されてきた仮想国家。タミル・イーラムはスリランカでタミル人が多くを占める地域。マタベレランドはジンバブエにある地域だ。
第1回大会は14年、スウェーデン北部の町エステルスンドで開かれた。CONIFA会長のブランドが先住民族のサーミ人で、トナカイを遊牧している彼の一家もエステルランドの近くに住んでいる。
当時は組織も貧弱で、ブランド自らボールに空気を入れ、試合の審判をつとめ、選手が負傷すると付き添って病院に運んだ。
しかし、16年の大会は一変した。ジョージア(グルジア)の分離独立派地域のアブハジア共和国が会場となり、アブハジア側がぜいたくなおもてなしで大会を盛り上げたのだ。同共和国はロシアのほか、数カ国が独立を承認しているに過ぎない。そのため、アブハジアとしては大会を通して独立国家であることを世界に訴える重要なイベントだった。
大会のために、共和国首都のスフミに新しいスタジアムが建設された。約7千人を収容できるスタジアムは、地元チームが試合をするたびに満員のファンで盛り上がった。
試合では、その声援に応えるように、アブハジアが決勝に進み、パンジャブ(訳注=インド北西部からパキスタン北東部にまたがる地域)のチームと対戦。PK戦の末、優勝を勝ち取った。
アブハジア共和国大統領のラウル・ハジンバは、優勝祝賀会の席上、「我々のサッカーチームの輝かしい優勝は、アブハジアの歴史に黄金のページを記すものとなった」とたたえ、選手たちに名誉の称号を授与した。
今回18年の大会は5月31日、ロンドンのブロムリーFCのホームスタジアムで開幕した。会場は、祖国や先住の地を追われた人びとに加え、国際政治に関心のある人たち、それに地元のサッカーファンも集まって、応援合戦を繰り広げた。
大会のホストチームは、ソマリア南部の港町の名前にちなんだバラワFC。バラワはソマリア内戦でイスラム武装集団シャバブに占領されていたが、最近、政府軍が奪い返した。チームの大半は英国に逃れたソマリ人で編成された。
大会では、前回チャンピオンのアブハジアが早々と敗退した。それでも大統領ハジンバは、チームが参加したことに意義があると強調して、「選手たちにとって貴重な体験であり、国際的な試合に参加できたのは良い機会だった」と言った。
アブハジアのミッドフィールダー(MF)、アレクサンドル・コゴニア(22)は大会が行われるようになってからファンが増えており、ロンドンでプレーすればもっと関心が広がる、と語った。
「ここにいることは、自分だけでなく我々全体にとって非常に重要なのだ。なぜなら英国は非常に大きな国で、テレビも雑誌も、人びともいっぱいいるからだ」。コゴニアはそう言った。
アブハジア出身のボリス・アドレイバ(25)はモスクワで勉強中の学生だが、チームを応援するためにロンドンに飛んできたという。「こうした大会は、ひどい国際環境の中で孤立させられている私たちの国や文化を世界に注目してもらう上で絶好の機会だ」とアドレイバ。
決勝戦は6月9日夕方に行われ、ウクライナ西部に住むハンガリー語族のカルパチアと、トルコだけが国家承認している北キプロスのチームが対戦。0―0で引き分け、PK戦の末、カルパチアが優勝した。
この日は、決勝戦の前にアブハジア対カビリアの9位決定戦も行われ、アブハジアが2―0で勝った。それでも、モスクワから駆けつけたアドレイバの脳裏には、やはり16年大会での優勝が今も焼き付いている。「アブハジアの人びとにとって、16年のワールドカップは1992年以来、最高に幸せな出来事だった」とアドレイバは言った。92年はアブハジアが独立を宣言し、ジョージア政府との戦闘が始まった年である。(抄訳)
(Richard Martyn Hemphill) © 2018 The New York Times
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https://globe.asahi.com/article/11663006

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ブラジル先住民の椅子作家マイヤワリ・メイナクさんが来日

2018-07-10 | 先住民族関連
メガブラジル 7/9(月)

現在、東京都庭園美術館で開催中の展覧会「「ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力」」の開会式に出席するため、先住民の椅子の作家のひとりであるマイヤワリ・メイナクさんが来日した。
マイヤワリさんはアルアク語を話すメイナク族の一員だが、ブラジルの公用語であるポルトガル語のスピーカーでもある。
「ブラジル先住民の椅子の価値を認め、展覧会の開催に尽力してくださったすべてのみなさんに感謝いたします。私たちは、私たちの文化をみなさんに知っていただきたいと思います。今日、開会式に招へいしていただいたことにも感謝いたします。木製の椅子の文化は日本の工芸の伝統的な技術にも通じるところがあるのではないかと考えています。また、この展覧会は、私たち先住民にとって、世界とつながる扉であると思います」
開会式後、マイヤワリさんにメイナク族と椅子について、話を伺った。
「私はメイナク族の部族と共に、シングー先住民公園内の居住区で暮らしています。“シェピー”と呼んでいる木彫りの椅子を作るアーティストです。メイナク族の椅子づくりは、父から子へ代々、受け継がれていきます。私の兄弟もすべて椅子を作ります。長い時間をかけて椅子づくりを学びました」
ブラジルの先住民が作る椅子は基本的に切り倒した丸太を削りだして作る一木造りだ。部族の長やシャーマンなどが座る特別のものから生活の中で使うものまで、用途や形はさまざまだ。
「メイナク族の場合、題材はシングーの森にいる動物たちが多いですね。それぞれの動物の特徴を捉えたものです。何を作るかは作家次第です。私は鳥や動物、魚などを作ります。アリクイ、バクもよく作られる題材です。私が作った中で一番むつかしかったのはジャガーです。表情を作るのがむつかしいですね。ジャガーは私たち先住民にとって特別な生き物です。ジャガーの皮で作った衣と爪で作った首飾りを、部族の酋長のみが身に着けることを許されるのです」
椅子に描かれる幾何学的な紋様は、婚姻の状態を表わす模様、儀式のための模様など、用途によっても異なるという。この紋様はボディペインティングの紋様や、器など他の道具に描かれるものと共通しているものもある。
「紋様にもさまざまな意味がありますし、部族によってもそれは異なります。同じシングー先住民公園で暮らしているカヤポ族には彼ら独自の紋様があります。私たちメイナク族が使う紋様の中にはジャブチ椰子をデザインしたものなどがあります」
この椅子は、すべて森の恵みによって作られている。
「私は主にピラニェイラという木を使います。とても強い木です。他にもリシェイラ、スクピーラなどの木を使います。どの木を使うかは作家次第です。絵や模様に使う染料も自然の中から得たものです。黄色はペキ、赤はウルクンやマンワタンの木、黒はイウリロの木や炭を使います。また、椅子は椅子は儀式や祭りにも使いますが、そのときは座面を輝かせるためにペキの実の油を使います」
ペキといえば主にセハード地帯に自生する木で、実は食用になる。鶏肉や米と混ぜ合わせてピラフのようにして食べる郷土料理が有名だ。
「シングーの森にもペキの木はたくさんあり、私たちの生活にとても身近なものです。実の収穫は11月ごろで、ぺキーのミンガウ(お粥状にしたたべもの)は私たちのソウルフードです」
椅子は先住民を取り巻く自然とつながっている。
「自然界、精霊の世界と人間を繋げてくれるのが椅子なのです」
「ブラジル先住民の椅子 野生動物と想像力」は6月30日(土)~9月17日(祝・月)まで東京都庭園美術館にて開催。
開館時間:10:00 ~ 18:00(入館は閉館の30分前まで)
※7月20日 ~ 8月31日までの毎週金曜日は夜21:00まで開館(入館は20:30まで)
休館日:第2・第4水曜日(7月11日、7月25日、8月8日、8月22日、9月12日)
会場:東京都庭園美術館 本館+新館ギャラリー1
アクセス:東京都港区白金台5–21–9
[目黒駅]JR 山手線東口/東急目黒線正面口より徒歩7分
[白金台駅]都営三田線/東京メトロ南北線1 番出口より徒歩6分
入館料:一般1,200(960)円 / 大学生(専修・各種専門学校含む)960(760)円 / 中・高校生600(480)円 / 65歳以上600(480)円 ※( )内は前売りおよび20名以上の団体料金。
美術館HPはhttps://www.teien-art-museum.ne.jp/。
(写真・文/麻生雅人)
http://megabrasil.jp/20180708_39574/

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