WedgeONLINE 2023年3月10日
米ウォールストリート・ジャーナル紙コラムニストのオグラディが2月12日付の同紙論説‘Cuba Dare Biden to Look Away’で、キューバがイランなどと組んでペルーなどの左傾化を工作しているにも関わらず、バイデン政権は対キューバ制裁の緩和を意図している、と批判している。要旨は次の通り
ワシントンが中国の偵察用気球で大騒ぎをしていた2月4日の朝、イランのアブドラヒアン外相が、ニカラグアとベネズエラを経てキューバを訪問した。バイデンは、数カ月前から、制裁を緩和したい意向を示している。
キューバとイランは、ロシア、中国、ベネズエラ、ニカラグア及びボリビアと同盟を結ぶ反米独裁国家であり、両国とも、シリアや北朝鮮と並んで米国のテロ支援国家リストに名を連ねている。
トランプ前大統領は、2019年にコロンビアの反政府勢力をキューバが支援していることを理由に制裁を強化、2021年にはキューバをテロ支援国家に再指定した。バイデンは2020年の大統領選挙キャンペーンで、キューバが行うと述べたコミットメントを守るのであれば、オバマ大統領のキューバ関与政策に復帰すると公約した。キューバによるそのようなコミットメントの公的な記録はない。
2021年7月、前例のない全国的な抗議行動に対するキューバ政権の弾圧があり、バイデンは、キューバとの和解を遅らせたが、止めはしなかった。
キューバ・イラン同盟の工作により、多くのラテンアメリカ諸国の政権が転覆させられた。ペルーが最近のケースであり、安全保障の専門家によれば、10年以上にわたってペルーに侵入し民主主義を破壊しようとする工作があった。
2015年3月、ペルーの元内務次官で政治・安全保障アナリストのダルド・ロペス・ドルスは、米国下院小委員会で、キューバ、ベネズエラ及びボリビアの影響下にあるペルーの活動家とイランとの間につながりが構築されており、キューバとベネズエラの組織は、ペルーの民主主義制度を破壊し弱体化させ、社会主義的なイデオロギーを広めることを目的として、少なくとも2005年から活動していたと述べ、その脅威を明らかにした。
ロペス・ドルスの証言記録から、この地域におけるキューバ・イランの脅威をより完全に理解でき、キューバを米国のテロ支援国家リストから外すことを正当化する余地のないことが分かる。
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ラテンアメリカには、レバノンやパレスチナのアラブ系移民も多く、特に、イランの支援を受けたレバノン・シーア派のヒズボラが、活動資金獲得のため南米で、商業的あるいは非合法の麻薬取引などに関与しているとの疑いは既に2000年代から指摘されていた。
そのような活動を、反米の立場を共有するイランとキューバが支援し、更にベネズエラやボリビアが地域の内政に秘密裏に介入しているとの憶測を呼んでいる。
昨年12月以来のペルーにおける反政府活動については、もちろん自然発生的な部分もあろうが、先住民や貧困農民が何日も抗議活動に参加し、また、遠く離れたリマに動員する費用を誰が負担しているのか、また、特定の鉱山や工場、銀行などの襲撃は、自然発生的とは考え難く、誰が扇動しているのか疑問がある。
最近のペルーの騒擾は、極左政党のペルー・リブレをボリビアからの工作員や元諜報担当大佐の在ペルーのキューバ大使らが支援している。更にその資金源や手足となっているのは、鉱物資源の違法採掘業者や大麻栽培麻薬組織であるとの現地筋の情報もあり、彼らはイラン政府やその配下にあるヒズボラと密接な協力関係にあるという。
トランプの失敗から対話に舵を切ったバイデン
バイデン政権としては、ラテンアメリカの独裁主義国家に対するトランプの最大限の圧力政策が結果的に何らの成果も挙げなかったことに鑑み、キューバやベネズエラを含むラテンアメリカ全体との関係を圧力ではなく対話と外交によって改善しようと意図しているのだろう。
キューバに対する長年の経済制裁はもっぱら国内のキューバ系政治家や有権者に対する政治的配慮によるものでもあったが、これらの措置がキューバの民主化に貢献したとは言えない。オバマは、そのような対キューバ政策を転換しようと関係正常化に着手したが、トランプはこれを覆し、更に政権の置き土産のように2021年1月にキューバをテロ支援国家リストに加えた。
キューバ側の要求は、テロ支援国家から外すことであるが、同年7月の反政府抗議運動に対するキューバ政府の弾圧という事態に、バイデン政権は、キューバに対する制裁措置を緩和することが難しくなった。米側が新たな措置をとる可能性としては、キューバ側から何らかの歩み寄りがある場合、あるいは、キューバ政府ではなくキューバ人一般を対象とした制裁緩和措置を取ることであろう。
キューバがイランなどと共謀してラテンアメリカの左傾化や反米化を図る工作に対しては、元ペルー内務次官の証言を鵜呑みにはできないまでも、バイデン政権としては必要に応じ対応するであろう。そのような動きとは別の次元で、バイデンは、ラテンアメリカの独裁政権に対して制裁圧力による硬直的対応から、外交上の対話により民主化を求める路線に切り替えようとしていると見られる。
もっとも、キューバのテロ支援国家リストからの解除は象徴的な問題となってしまっているので、キューバ側が相当な歩み寄りを行わない限り、米国内で納得を得ることは難しいだろう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29610