TORJA2023年3月6日
TORJAではこれまでトロントとカナダ全土の良いところや住みやすさ、とにかく愛すべきところをたくさん紹介してきた。パンデミック前から増加傾向にあった日本人の海外移住。カナダは在留邦人数の世界5位を誇っている。2019年の統計では海外で暮らす日本人の数は140万人。そのうち永住権取得者は51万人ほど。日本に住みにくさを感じて海外を目指す人が多い中、トロント/カナダでの生活にも実は住みにくい点や日本人の視点から理解しにくい点があることをここでじっくり紹介したい。
課題1 カナダ中での住宅価格高騰
ミレニアル世代が家を買えるのは夢のまた夢?!
昨年、オンタリオ州の住宅の平均購入価格は90万カナダドルだった。それに比べて州に住んでいる25歳から34歳の平均収入はおよそ5万カナダドル。この購入価格では、ミレニアル世代はなんと20年以上も貯金しなければダウンペイメント(頭金)が払えないという計算になる。働く人口が密集するトロントでは平均価格が110万カナダドル(1.1億円)にも昇っており、ミレニアル世代が家を買いたければは27年も貯金しなければならない。家賃だけでも収入のおよそ半分を占める中、マイホームのために貯金するとなると家計は
厳しいのではないだろうか。
住宅の供給が間に合わない
トロントとバンクーバーでの住宅価値の高騰はニュースで最も取り上げられているが、実は国内の意外なところでも変化が起きている。カナダには一年のうちに引き上げられる家賃の割合や頻度に制限がある(Rent increase capと呼ばれる)。しかし、アルバータ州のみ制限が全くないため、昨年の間に家賃が24%も上がったという例もある。
次に学生の多いオンタリオ州の「Tri-Cities」と呼ばれるキッチナー、ウオータールー、ケンブリッジエリアではコロナウイルスの蔓延が落ち着いた今、海外からの留学生が急増している。学生人口が増える一方、住宅の供給が間に合っていないそうだ。
最後にノバスコシア州の州都ハリファックスでは近年海外からの移民と同じ割合で国内からの移住者の数も膨らんだ。他の州に比べて家賃や家の購入価格が低いほか、パンデミック中の州の対応も評判が良かったため、特にリモート環境で仕事をできる人に人気が出たと言われている。しかし今では賃貸に空きが全くない状況で、家賃高騰に影響している。
クレジットスコア
さてカナダで家やアパートを借りる、または購入する時に必要なのがクレジットスコア。これは日本では普及していないため、カナダで初めて聞いたという人も多いのでは。クレジットスコアとはクレジットカードの支払い履歴(クレジットヒストリー)に基づきその人が信用できるかどうかをスコア化したもの。カナダやアメリカでは車の購入や不動産の手続き、そして新しいクレジットカードを作るために必要だ。支払い期限と限度を守ることや長くクレジットカードを保有することでスコアを良くすることができる。このスコアを高くキープしていないと購入プロセスを始められないので厄介だ。
外国人による住宅購入を2年間禁止・空き家税の導入
昨年カナダでは外国人による住宅購入を2年間禁止する条例が可決された。幸いなことに国内への永住者と留学生は対象外とされている。この禁止令は国内の住宅供給を国民がフル活用するためにできたもの。最近トロントで導入された「Vacant Home Tax」(住宅購入者が長期でスペースを空き家にする場合発生する税金)も同じ目標を目指している。それらの条例だけで本当に住宅の供給が増え、家賃が低くなることに貢献するのかが心配される。トロントでは常に新しいコンドミニアムが建てられているが、その買い求めやすさと競争率もこれから変わっていくであろう。
課題2 政治情勢
国が大きく、州によって政治情勢や直面する課題が大きく異なる
カナダは国の面積が広いが人口はアメリカのわずか10分の1ほど。アメリカに似ている点はというと州によって政権与党が異なり、自由党や保守党の目指すものの違いが人の暮らしを大いに左右することだ。コロナ対策の違いもこの数年で感じられた温度差の一つなのではないだろうか。州によっては密集する人種も違えば年齢層や職業も異なり、直面する課題も変わってくる。住んでいる場所によっては全く関係なく感じるかもしれないが、国内旅行や選挙の時にカナダ全体の情勢を知っておくことに損はない。
エコのイメージが強いカナダだが、州首相の多くが反対という現実
政党制を構えている州では保守党の州首相が多い。自由党リーダーがいるのはブリティッシュ・コロンビア州とニューファンドランド・ラブラドール州のみだ。ノースウエスト準州とヌナブト準州では政党制ではなく個人で選出される議員で構成される「Consensus government 」がある。
ユーコン準州は政党制だが、連邦政府から派遣される官僚である弁務官(Commissioner)が州首相代わりの役目を果たしている。現在、連邦政府は石油やガスから再生可能エネルギーへ移り変わる「Just Transition」プランを掲げている。エコのイメージが強いカナダだが、州首相の多くが反対。例えばアルバータ州では石油産業に経済が委ねられているため、統一保守党のダニエル・スミス州首相はプランを「州の産業を滅ぼし、人々から職を奪うためだ」とバッシングしている。
ノバスコシア州でも去年の選挙で進歩保守派が当選し、12年続いたリベラル派政権に終止符を打った。連邦政府が来年から州に対して「Carbon Tax」(炭素税) を課することを受け州首相ティム・ヒューストンはアルバータ州首相同様、「このような法律はノバスコシア州の人々を苦しめるためにある」と反対。今年7月からガソリンやディーゼル、家庭用暖房燃料などに課せられる税金が上がるが、集められた税金の80%は貧困層とミドルクラスへ、10%は教育機関、先住民コミュニティー、そして中小企業へ払い戻される。
暴力事件の多発
交通機関ガイドアプリの「Moovit(ムービット)」の調査によると、トロント市民が公共交通機関を使って通勤する距離と時間は北アメリカで一番長いという。片道平均56分、およそ12.29kmの移動だ。移動時間全体を比べるとアメリカのシカゴ、ワシントンD.C.、ニューヨークと並ぶが、電車やバスの待ち時間はアメリカに比べて短い。ガソリン代や駐車場代が必要な車移動より安いので、トロントでは公共交通機関を使用する人が多い。しかし悲しいことにTTCではこの数ヶ月で暴力事件が多発。被害は乗客のみならずTTCの従業員にも広まっている。暴行以外にも窃盗やナイフで切りつけるなど、殺人事件さえも起きている。TTCの調査によると、2022年に入ってから乗客が被害にあう事件数は徐々に増えつつあった。年の初めはひと月に60件ほどだったのが、なんと11月には303件に昇ったという。それに比べて従業員が被害にあったケースは最初の6ヶ月は上昇傾向にあったものの、その後は増減していた。アンケートによると、この数ヶ月で起きた事件の急増を受けてオンタリオ州の70%以上の住民は公共交通機関を使うことを不安に思っている。
しかしTTCのまとめによると、暴力事件多発は今になって始まったことではないという。パンデミックが始まってすぐの2020年10月以来、電車やバスでの乗客被害は少なくなったというデータがあるほど以前は事件がよく起きていた。3年前にウイルス蔓延を理由にリモートワークやリモート授業に切り替わり、利用者が減ったことが被害減少と重なる。だが今ではマスク着用義務もなくなり、コロナ前の生活に戻りつつある中、電車やバスに頼る人が多くなり、事件にあってしまう人の割合も増えたのではないだろうか。
ティーン世代による殺人と強盗が増加。アルコール中毒・薬物中毒も増加
マニトバ州首相も炭素税に同じ理由で反対。州都ウィニペグでは治安が悪化している。昨年過去最多53件の殺人事件が起き、そのうち被害者10人は先住民女性だった。トロントに似てティーン世代による殺人と強盗が増加。貧困による人々のストリートギャングとの関わりや薬物乱用が懸念されている。ケベック州でも貧困層が増加。観光で有名なプリンス・エドワード・アイランド州でも貧困とその不安が引き起こすアルコール中毒などが心配されている。ノースウエスト準州では住民の薬物中毒が増える中、治療を終えてリハビリ施設から出た後のサポートを受けるための「Transitional Home」が全く存在しないという。 特に先住民の間ではオピオイド、フェンタニル、カルフェンタニルの中毒者が後を経たないという。
国が大きいほど、国民が直面する問題は様々。「カナダはエコ大国」や「カナダは安全」など国の長所をベースに一括りにしてしまいがちだが、実際に国内情勢はもっと複雑で奥深い。
課題3 揺らぐTTCの安全性
メンタルヘルス・アルコール・薬物中毒・ホームレス問題が関係?!
2月9日にTTCのタウンホールミーティング(経営陣が従業員と直接対話する場、または対話集会)が行われ、ニュースになった。電車やバスの利用者や従業者もターゲットになっていることについてTTCは「原因がまだわかっていないが、この事件の多さはトロント全体の問題である」とコメントしている。住民のメンタルヘルスやアルコール・薬物中毒のケア、ホームレス問題などが関係しているのではと示唆した。
だがミーティング参加者の中には、「もしメンタルヘルスが問題ならばどうして警察の力にお金を注ぐのか?メンタルヘルスサポートの団体に協力を求めるべきなのでは?」と指摘する人もいた。そのほかにも、ホームレスは暴力の加害者なのではなく、多くの場合は被害者なのだと抗議する者もいた。ホームレスを取り締まるのではなくホームレスシェルターとウォーミングセンターを増やすことやドラッグとアルコール中毒者への手当を増やすのが正当という意見も見られた。
このタウンホールミーティングを機会にTTC経営陣と従業員は「安全」とは何かを考えるきっかけになったのではないだろうか。
最近トロントではTTCだけに限らずあらゆる界隈と時間帯で強盗、窃盗、暴力、ひき逃げなど数えきれないほどの事件が起きている。これから市全体が考える安全の形が注目されるであろう。
課題4 物価(プラスアルフア)が高い
カナダ人が退職するには170万カナダドルの貯金が必要?!
日本からカナダに来てすぐに目立つ違いは物価の高さだと想像する。物価の高さを特に感じるのはスーパーだ。2月には牛乳の価格が大幅に高騰し、1月に比べて14.9%も高くなっている。4リットルの牛乳が4.69ドルから5.39ドルに値上げ。牛乳同様、カナダではチーズも高い。どちらも政府が作れられる量をコントロールしているため高値になっている。また、気分転換に旅行でもしたいと思っても航空券もホテルも高騰。家賃も食費も上がるばかり。財布の中身は軽くなる一方だ。
ちなみにBMOが2月に発表した調査によると、カナダ人が退職するにはなんと170万カナダドル(1.7億円ほど)の貯金が必要だという。この数字は2020年の調査結果に比べて20%程度多く、インフレの影響がよくわかる。
カナダ北部で信じ難い現状
ノースウエスト準州、ヌナブト準州、ユーコン準州、この3つの準州とそれらに隣接するサスカチュワン州北部にあるフォンドゥラック・ディネ先住民が住む地域などでは道路や鉄道が整備されていないため食糧などの一般的な必需品は飛行機で運ばれてくる。物流費が高く、食料費がおぞましく高騰している。
例えば24本パックの飲料水が53ドル、サラダ用カット野菜が14ドル、4Lの牛乳が8ドル以上、みかん一袋15ドルなど、都会の物価より3倍ほど高い。健康的なものが買えず糖尿病になる人も多いという。燃料代も上がり、狩りに出かけるのにも一人2000ドルかかるそうだ。「他の町に出て買って帰ればいいのでは?」と思う方もいるだろうが、フォンドゥラックからサスカトゥーンまでの飛行機代は片道900ドルもする。厳しい貧困で心と身体の健康を失われつつある先住民らは、自らの文化を持続していくのも難しく感じるという。
タバコの値段の高さと大麻の買いやすさ
そのほかに日本と比べて驚くのはタバコの値段の高さと大麻の買いやすさではないだろうか。カナダではタバコが一箱15ドルほどで、日本の約3倍する。タバコが買える場所自体も限られていて喫煙者は肩身が狭いのでは。
だが対照的にカナダでは大麻が合法化されており、トロントなどでは至る所にディスペンサリーがある。実は大麻の価格は国境を越えたアメリカより30%も安いそう。供給に余裕があることと、アメリカに比べて大麻にかかる税金が低いことが理由だ。タバコは高くて買えなくても大麻は買い求めやすい、となると残念なことに全体的には喫煙による公害や健康被害問題は解決していない。
チップフレーション(Tipflation = Tip + Inflation)
日本から離れた生活でもう一つ親しみがないことといえばチップ文化ではないだろうか。コーヒーショップやレストランなどで、決して義務ではないが心遣いとして払うチップ。しかし最近ではクレジットカードで決済すると18%、20%、22%、25%など自動的に4択から選ぶシステムになっていたりする。カスタマイズ出来る方法もあるが、店員がずっと見張る中じっくり考える余裕がなくなる人も多いのでは。実はカナダ人はパンデミック前と比べてより多くのチップを支払っていることがわかっている。以前の標準は15%だったが、今では20%だそうだ。コロナでレストランやカフェの経営が苦しくなったのを利用者は理解した上でチップをより多く払うようになったそう。
残念なことに、チップのほかにも気をつけないといけないことがもう一つある。それはいろんな種類の税金だ。カナダにはGST(Goods and Services Tax –連邦消費税)、PST(Provincial Sales Tax –州税)、とHST (Harmonized Sales Tax – GSTとPSTを組み合わせた消費税)が存在する。ケベック州にはQST(Quebec Sales Tax)もある。GSTのみカナダ全土で5%だが、PSTは払わなくて良い州もある。PSTとHSTの税金率も州による上、どの組み合わせで払うかも異なる。ちなみにオンタリオ州は合わせて13%。カナダで生活すると、あらゆるところで出費が嵩んでしまう。
課題5 移民増加で心配されるその影響
96万件近くの求人している職があるが、同時に100万人ほどの無職の人がいる
現在カナダが移民政策で力を入れているのは医療従事者と「Skilled Trades」と言われる建設、メンテナンス関連、電気、農業、林業、シェフなど移民局が指定している職種の人材確保。現在国内には96万件近く求人している職があるが、同時に100万人ほど無職の人がいるという。
無職の人の多くは移民局が希望する「スキル」を持っていない、または求人しているエリアに住んでいないことが原因でポジションが埋められていないという。この先、国は地方活性化プログラムを通じて技能を持った移民を必要とされているエリアに住まわせる予定だという。
カナダは難民受け入れにも積極的に取り組んでおり、毎年発表される新規の永住権保持者の統計と一緒に数えられている。2022年、国はおよそ5万5000人から7万9500人の難民を受け入れることを目標にしていた。今年2月上旬にはカナダ政府がウイグル自治区からの難民を1万人受け入れることが満場一致で可決された。これから増える移民の意思を尊重しながらも国のニーズに合わせてもらわねばいけないことが課題になるだろう。
住宅価格高騰・就職競争激化・公共交通機関の混雑・空気汚染・ゴミ問題
昨年末、カナダ政府は2025年までに移民を年間50万人受け入れる方針を発表。今年から3年間で150万人もの移民が増える予定だ。この方針ではお隣のアメリカと比べて年間受け入れ数が4倍にもなる。近年カナダは日本のように少子高齢化に直面しており、移民を増やすことで人口減少に歯止めをかける考えだ。政治の専門家によると、移民受け入れ政策が成功するために最も大事なのは国民の支持だという。歴史的に見るとカナダ国民は長い間移民増加を祝福してきた。だが最近ではあいにくカナダ全土がこの変化を望んでいるわけではない。
ケベック州知事は移民を年間5万人以上は受け入れないと発表
ケベック州のフランソワ・ルゴー州知事は移民受け入れに対して厳しい目を向けており、州に移民を年間5万人以上は受け入れないと発表。昨年5月に州でのフランス語の使用強化法案が可決され、英語使用が制限されるようになった。移民は入国後6ヶ月以内であれば英語で公共サービスを受けられるが、その期間の間にフランス語を習得せねばコミュニケーションに困る事態になっている。悲しいことにルゴー州首相は移民の苦労を気には留めておらず、5万人以上移民人口が増えた場合公用語のフランス語が危機にさらされるということ信念だけを貫き通している。
人口増加で引き起こされるのはケベック州が心配する文化的な変化だけでない。主要都市のトロントやバンクーバーでは住宅価格高騰もすでに大きな問題になっている。職を探す人も増え、競争率が高まっている。この先電車やバス、空港も混み合うことが予測される。環境面から考えても車を使う人やゴミを出す人が増え、空気汚染や街の衛生面などが心配されるだろう。これら全ての注意点に国や州がどう対応するかが気になるところだ。
ペット数の上昇
ペット数が上昇していることもこれからの注目点だ。2022年のCanadian Animal Health Instituteの調査によると、パンデミック中にペットを買う人が増え、今では国の60%が少なくても犬か猫を一匹飼っているという。2020年から2022年の間、犬の数は770万匹から 790万匹に上り、同じく猫の数も 810万匹から 850万匹に上った。癒されたいと思ってペットを飼うのは万国共通だが、犬の糞の始末などしない人が増えると街が衛生的になる可能性も否定できない。そして始末をしていても、エチケット袋やオムツ、使い捨て防水シーツなどプラスチックゴミが増える。ペットフレンドリーなカナダだからこそ、環境問題は人間だけの問題ではないのだ。
課題6 ひっ迫する医療
オンタリオ州ではおよそ180万人がかかりつけ医(Family Doctor)を持てていない
カナダの医療現場では現在深刻な変化が起きている。現在オンタリオ州ではおよそ180万人がかかりつけ医を持っていないと推定されている。この問題はオンタリオ州で勤めていたファミリー・ドクターのおよそ3%(385人)がパンデミックの始まり(2020年の3月から9月の間)に退職したことが引き金になったと言われている。2010年から2019年で辞めた割合はわずか1.6%で、コロナ禍の半分だった。
かかりつけ医の高齢化。6人に1人が65歳以上
昨年12月の「The Globe and Mail」の記事によると、カナダではかかりつけ医の平均年齢が上っており、6人に1人が65歳以上で定年退職が近い年齢だという。過去20年で40歳から49歳のファミリー・ドクターの人口が34%から22・6%へと減っている中、65歳以上のドクター人口は6.5%から15%へと倍増している。
特にニュー・ブランズウィック州とケベック州で医者の高齢化が進んでいる。後を継いでくれる若い医者がおらず、定年退職できずにいる医者が増える一方だ。医者の人口が激減し始めたのは1992年にもさかのぼる。カナダ全土で医療に使われる出費を抑えるため医学部への合格生を10%減らしたため、それ以来、医科大学の入学生、卒業生とともに卒業後の研修に入る人数も大幅に減少した。
かかりつけ医がいない場合一番困るのは専門家への紹介だ。そんな時に便利なのがWalk-in Clinic。基本的に予約なしで順番を待てば診てもらえるが、コロナ禍のせいで数日前から予約を入れておかないと行けないクリニックもある。Walk-in Clinicで紹介状をもらうこともできるが、婦人科など一年以上の予約待ちが存在する専門もある。かかりつけ医がおらず定期的な検査が受けられずにいると病気にかかった場合救急救命室にいく羽目になったり、入院する確率も高くなったりする。それ以前にも、Walk-in Clinicではどの医者に当たるか分からないので自分の病歴を何度も繰り返し伝える必要があることもしばしば。コロナが広まってからバーチャルケア(電話やビデオ電話を通じて医者に診てもらえるシステム)が広まった。ファミリー・ドクターが急に減った溝を埋めるように増えていったが、医者は心拍や血圧も見ることなく、ほぼ目隠しで医療に携わっている。それでも交通費が浮くので便利、と思う人もいれば物足りないと感じる人もおり意見は分かれている。
カナダの医療で不足しているのはファミリー・ドクターに限らない。
病院やクリニックの様々な場面で人手が足りておらず、それが人の命を救えるかどうかに影響している
昨年12月、ノバスコシア州では37歳の女性が腹痛を訴えER(救急救命室)を訪れた際、CTスキャンで体内出血が見つかったにも関わらず処置が施されず死亡するケースがあった。
それから間もなく今年1月、ノバスコシア州の別の病院で67歳の女性が救急救命室を訪れたところ、7時間も待たされたのち翌日の朝まで医者に診てもらえないと言われ、諦めて帰宅した直後に死亡した。
そのERでは本来は60人の医療スタッフがいるはずなのだが、最近では15から17人しかいない状況が続いているという。
医療従事者の移民増加で解決できる問題ならまだしも、移民が増えれば患者も増える。これではさらにファミリー・ドクターも必要になってくる。この先、持続可能な医療現場を築くには課題が山積みだ。
【おわりに】 日本で県外に越すと方言や風習など文化的な違いを感じることは多いかもしれないが、カナダのようにここまで人々の暮らしが劇的に違うことはあまりないのでは?カナダをもっと深く知ったところで「別に住みにくいとは思わない」と思う読者も「意外」という読者もいると筆者は想像する。どちらの感想にせよ、この記事が読者自ら経験している「日本から離れた生活」そして「カナダ生活」を振り返る機会になれば嬉しい。
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