中日新聞Web11/26(火)5:05
出版した「地球スケッチ帖」を紹介する川田さん=日進市南ケ丘で
ページをめくると、ベネズエラやインドの少数民族、モンゴルの遊牧民、ルクセンブルクの城などが次々と登場する。日進市南ケ丘の画家、川田きし江さん(81)はこれまで世界100カ国ほどを旅し、現地の人々や風景を水彩画と文章で紹介してきた。
「知らない世界に踏み込むことで、いつも新鮮な驚きがある。大変さよりも興味が上回る」。10月末に「地球スケッチ帖 第1集 記憶と追憶の旅路」を出版。旅に生きた人生は充実感に満ちている。
川田さんは、作家だった故生駒忠一郎(本名・川田正)さんの妻。取材に同行し、1994年ごろからアジアやアフリカを中心に旅してきた。愛知学芸大(現愛知教育大)で美術の教員免許を取得した川田さんが絵を、生駒さんが文章を担当し、2002年から毎月、メールマガジン「地球スケッチ紀行」を知人らに無料で配信してきた。
05年に生駒さんが亡くなってからも、遺志を継いで川田さんが一人で配信。今月15日の配信で263号に達した。これまでメルマガの内容をまとめた画文集「地球スケッチ紀行」を計4冊出版した。
今回の「地球スケッチ帖」は、メルマガの156号(15年11月)から208号(20年3月)の53編をまとめた。従来の「地球スケッチ」は各編の文章が800文字と長いため、4分の1ほどに凝縮した。「今回は画文集というより画集に近い構成」と紹介。刺激的な現地の様子を、落ち着いた色調で丁寧に描いている。
特に思い出深いと振り返るのが、ベネズエラで暮らすアマゾンの先住民族ヤノマミ族の村。伝統的に男性は体に模様を描き、女性は唇の両角と下唇の下に短い棒を差している。17年ごろに知人のカメラマンやガイドらと2週間旅し、ヤノマミ族のシャーマニズム文化も知ったという。
「言葉は通じなくても、人と人は分かり合える」と川田さん。子どもたちは紙に似顔絵を描いてあげると、心から喜んでくれた。最初は遠巻きに見ていた母親たちも、徐々に集まり輪を広げていく。「身ぶりや手ぶり、笑顔で距離は縮まっていく」と実感を込める。
世界各国で知り合った人たちとは、メールで連絡を取り合うことも。メルマガは英語で配信もしており、「世界中に友人がいる。たまに配信がないと『大丈夫か』と心配してくれるのがうれしい」。旅で出会った世界中の人々とのきずなは、かけがえのない財産だ。
今では家族が心配していることもあり、遠方への旅は難しい。それでも今年7月から2カ月間、モンゴルで過ごした。地球スケッチ帖の「まえがき」には、こう記している。「出会いの数々の瞬間が私の生きる喜びとなり、生きがいとなり、『悔いなき人生を歩もう』とわたしを支えてくれています」。もっと世界を旅したい−。情熱と好奇心は全く尽きていない。 (青山直樹)
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尾東地域で活躍するさまざまな人たちの歩みや取り組み、伝えたい思いなどを紹介します。
かわた・きしえ 1943年生まれ。名古屋市出身。80歳で学芸員の資格を取得した。清須市にある母方の実家には、モンゴルの民具の収集品を保管。モンゴルの民俗博物館としてオープンする計画がある。「地球スケッチ帖」は人間社(名古屋市千種区)発行。B5変判の112ページで、税込み2750円。
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/chuplus/region/chuplus-991391