Dutch Life 備忘録

オランダのミュージアム、コンサート、レストランなどについて記録するノート。日常的な雑記も…。

本「テロリストのパラソル」

2017-01-18 09:31:54 | Book
藤原伊織著「テロリストのパラソル」を読了。
1995年の作品で、乱歩賞と直木賞のW受賞作ということで、おもしろいのかなと思って読みだしました。ハードボイルド小説であっという間に読めました。
主人公は全共闘世代で当時東大生で闘争に関わっていたため、大学を中退して、今はしがない小さなバーの店主。アル中で独り身でひっそりと身を隠すように暮らしていたが、ある日新宿の中央公園で爆発事件があり、その場近くにいたことで、その惨劇現場を目にします。そして、事件の犠牲者に、学生運動を共にした女友達がいたこと、また親友で長い間行方不明だった男がいたことから、自分との関係性を感じ、この爆破事件の真相究明に乗り出すという物語。
どうなるのか先が読めず、以外な展開で、いろいろ小道具も斬新で面白かったです。
この作家の作品は以前に「シリウスの道」を読んだことがあります。そのときのブログを読むと、「機会があれば、処女作『テロリストのパラソル』も読んでみようかなと思います」と書いていましたが、それからもう6年も経っていました。

本「クリュセの魚」

2016-12-04 15:24:01 | Book
東浩紀著「クリュセの魚」を読了。
ラブストーリーを含めたSFで、火星が舞台です。SFはまったく読み慣れていないので、難しい概念はあまり理解できず読みとばしましたが、未来の壮大な物語でした。地球には日本国はもう存在せず、大きく三つの連邦に分けられており、火星は人が住んでもう一世紀以上が経過しているという未来(25世紀)の設定です。太陽系よりもずっと向こうの、人類よりもずっとずっと進んだ知的生命体のようなものとの接触が描かれています。そんな先でも、人は親と子、血筋の問題に捉われていて、それはまた愛情の問題でもあるのです。愛するとはどういうことなのか、ひとつの偶然にすがりつくことなのか、故郷とは何なのか、などなどいろいろと考えさせられる部分がありました。
著者のSF前作「クォンタム・ファミリーズ」も面白かったですが、雰囲気はずいぶん違っていて、「クリュセの魚」のほうがヤングアダルトが好みそうな雰囲気です。主人公が最初は11歳ですし。
コンピュータなどの緻密な計算で出された理性的な答えを反故にするような答えを出すのが人間というものなのだとも思いました。


本「ゲンロン3」

2016-11-04 11:06:19 | Book
東浩紀編集「ゲンロン3」を読了。
「脱戦後日本美術」特集の雑誌です。様々な執筆者が寄稿しています。ちょっと私には難しすぎて訳がわからないのもあります。
興味深く読めたのは、共同討議「野ざらしと外地--戦後日本美術再考のために」(会田誠、安藤礼二、椹木野衣、黒瀬陽平)、1945年以前の「沖縄美術」?(土屋誠一)、ダークツーリズム入門(井出明)などでした。
ぜんぜん知らなかった韓国の美術界の様子や、タイの現代文学についてなどの話もあり、それはそれで面白かったです。
もちろんこの雑誌にずっと連載されている、「ディスクロニアの鳩時計」(海猫沢めろん)というヘンな小説も、毎回読むのが楽しみです。
この雑誌、何かを考えるきっかけになるところが良いと思います。どこかでひっかかるところがあればいいかなという具合で。
年に何回か定かじゃないんですが、たまに発行される雑誌です。「ゲンロン4」が近日刊行されます。これも読むつもりです。

本「パリの日本人」

2016-10-14 11:50:20 | Book
鹿島茂著「パリの日本人」を読了。
開国期、明治と、海外に日本人がほとんどいない頃に、パリに行き住んだ人の記録。自費で行った人もいれば、国費留学で行った人もいます。それぞれが、日本とパリの差を目の当たりにし、その中でパリが大嫌いになった人もいれば、パリを思いきり楽しんだ人も。
西園寺公望、原敬、東久迩宮稔彦、獅子文六などなど、あの人もパリ帰りなんだと、新しい発見がありました。
知らなかった人でいちばん興味深く読んだのが、林忠正。美術商で、パリでの日本ブームに貢献した人物。印象派の画家などパリの芸術家との交流も深く、日本人芸術家と彼らの橋渡しをしたそうです。浮世絵など日本美術の良さを流暢なフランス語で解説でき、フランス人の評論家や作家とも絆をきずきました。
文庫版だと最後に「パリの昭和天皇」の項があり、これも興味深かったです。
なかにはくだらないなーと思った項もありました。


本「キアズマ」

2016-10-05 13:47:42 | Book
近藤史恵著「キアズマ」を読了。
この著者はいろんな本を書いていますが、私は自転車ロードレースをテーマにした作品だけをずっと読んでいます。今回は大学の自転車部が舞台です。
とても読みやすい青春小説ですが、恋愛はかけらもでてきません。自転車にかける男の子たちの話です。
自転車ロードレースにあまり興味がなければ、それほど面白くない、よくあるタイプのお話かもしれませんが、私はこのシリーズをずっと読んでいるのでそれなりに面白かったです。ただ、「サクリファイス」「エデン」「サヴァイヴ」などに出てくる登場人物はまったく出てこず、プロのチーム名に聞いた名前が出てくるくらいです。
この本の中でのもう一つのテーマは、子どものころに身近な人が死んだり、障害が残るような大けがをしたとき、それをどうとらえ乗り越えていくかということです。まあ子どもだけではなく、大人になってもこういう事態に遭遇した時、どう心の中で処理をして前に進んでいくのかといのは大きな問題だと思います。
「キアズマ」という単語は初めて知りました。生物学用語です。
今年の自転車ロードレースの季節はほぼ終わりました。私はツールドフランスくらいしかきちんと見ませんし、自分自身、自転車にそもそも日常でさえ乗りませんが、子どもの頃はよく乗っていたので、自転車は好きなんです。


本「調律師」

2016-09-21 11:17:54 | Book
熊谷達也著「調律師」を読了。
短編の連作小説です。熊谷達也という作家は以前に「邂逅の森」を読んでとても良かった印象があります。
東北に住んでいる作家で、この「調律師」を連作中に東日本大震災が起こり、この小説の中でも主人公が仙台に出張中に大震災に遭遇します。
この本に興味がわいたのは、主人公が共感覚の持ち主であるということでした。音を聞くと色を感じる「共感覚」が有名ですが、この主人公は音に匂いを感じる「共感覚」の持ち主です。
クラシックの作曲家ニコライ・リムスキー=コルサコフが音に色が見える色聴の持ち主であったそうです。他にも調べると色んな共感覚があります。
私自身はそんな特別な感覚は残念ながら持っていません。でも音が聞こえて同時に色が見えると素敵だろうなあと思います。
海堂尊著「ナイチンゲールの沈黙」も色調を扱った小説で、この本を読んだときにはじめて共感覚について知りました。
「調律師」は短編集なので、乗り物の中で読んでいたのですが、読みやすくよかったです。

本「銃・病原菌・鉄(下)」

2016-05-19 15:55:28 | Book
ジャレド・ダイアモンド著「銃・病原菌・鉄(下)」を読了。
「銃・病原菌・鉄(上)」を読んだのは、2012年10月のこと(自分のブログを検索するとすぐわかるのでほんと便利。ブログは自分の記憶代わりだと思っています)。面白い部分もあったけれど、データが多くて読みにくい感じもあって、下巻に手が伸びるまでかなり時間がかかりました。
下巻のほうが読みやすいと思いましたが、それでも同じことが繰り返し語られたりして、少し読み飛ばしたところもあります。
ただ、ニューギニアの話や、アフリカの話が面白かったです。ニューギニアってあまり興味がなかったけれど、かなり大きな島で日本の面積の2倍もあるそうです。そして言語数がひじょうに多い。山岳民族が独自の文化を保っている、などなど。
海洋民族のオーストロネシア人の大移動の話もまったく知らなかったので、とても面白かったです。東南アジアから、アフリカ沿岸のマダガスカル島まで行っていたのですね。すごいなあ。
アフリカは、鉄器をもった民族がサハラより南で隆盛を極め、他の民族を圧倒して支配を進めていったが、なぜか現在の南アフリカ共和国の部分には進まなかった。これは何故かということがわかりやすく説明してあってよかったです。鉄器をもたない別の民族だけだったため、オランダが攻め入って植民地化(入植)が簡単に起こったというのです。でも、それより拡大しようとしたとき、かなりの抵抗にあいました。
- 各大陸の広さの違い、東西に長いか南北に長いかの違い
- 栽培化や家畜化可能な野生祖先種の分布状況の違い
が、長い歴史のなかで文明の発達、技術の発達に大きな違いを与えたポイントでした。
確かにためになる本でしたが、こんなに長くずらずらと書かずに要点だけ書いてくれたら、もっと薄くて読みやすくなったのにと思いました。
体調は良好です。




本「ゲンロン2」

2016-05-04 08:42:58 | Book
雑誌「ゲンロン2」を読了。
東浩紀が編集長の批評誌です。「ゲンロン1」も読みましたが、2のほうが面白かったし、読みやすかったです。
今回はだいたいどれも興味深かったのですが、中でも印象に残ったのは、「神は偶然にやって来る」(千葉雅也+東浩紀)、「他の平面論」(黒瀬陽平)、「ダークツーリズム入門」(井出明)、「独立国家論」(速水健朗)、「ロシア語で旅する世界」(上田洋子)でした。知らないことが多く、いろいろと考えさせられる部分がありました。
もちろん、筒井康隆や中沢新一とへのインタビューも示唆に富んでいました。
また、この雑誌はロシアのことに強く、ロシアについての新しい知識が得られます。読んで、ロシアってとても奥深いなあと思いました。
それにしても「神は偶然にやって来る」のメイヤスーの著書『有限性のあとで』も原書より10年遅れの和訳出版、クレイグ・オーウェンスの「アレゴリー的衝動」は1980年の作品。世界水準の思想は、日本語ではかなりの後追いなんですね。
「ゲンロン3」はいつ出版されるのかな。この雑誌を読むとかなりの頭の体操になるので、次も読むつもりです。
天気も体調も良好です。






本「ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉」

2016-04-27 09:50:14 | Book
リチャード.P.ファインマン著「ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉」を読了。
子どもの頃から好奇心旺盛で、何でも疑問に思ったら答えがわかるまでところんやらないと気が済まない性格のファインマン。
子どものときはラジオの修理で才能を発揮し、ハーバードに入学してからは物理学を専攻しながら、数学にも興味をもつ。大学卒業して入った会社では、プラスチックに金属メッキする仕事で化学分野の才能を発揮する。
何にでも興味をもち、行動力もあり、ものおじせずに誰にでも話し、いたずらが好きで、たぶん近くにいたらとても魅力的な人物だろうけれど、実際にいたずらされたら、すごく迷惑な人物だろう。
個性的な考え方で、職場職場で研究にブレークスルーをもたらし、若くして大学の教授になる。
戦争中はロスアラモスで、原爆の開発にも携わっている。
公明正大で、上下関係なんて気にしない人物。彼のエピソードは痛快で、面白いです。
どんどん読めてしまうけれど、わたしが勝手に思っていたタイプの本ではなかったです。
もっと、理系の知識を結構絡めたエッセイなのかと思ったら、もっとユーモラスな感じの自分が過去にやったことの回顧録的なものでした。
下巻を読むかどうかは微妙なところ。
体調は良好です。


本「The Noise of Time」

2016-04-20 14:59:43 | Book
Julian Barnes著「The Noise of Time」を読了。
ショスタコーヴィチが主人公の小説ということで、興味を持ちました。
スターリン時代を生き抜いたロシアの大作曲家ショスタコーヴィチ。彼の人生がどんなものだったのかがこの本を読むと、なんとなく理解できたような気がします。
彼が若い頃に書いたオペラ「Lady Macbeth of the Mtsensk District(ムツェンスク郡のマクベス夫人)」は国外で高評価を受けましたが、スターリンがボリショイ劇場でこれを観劇した際にうまく行かず、プラウダ紙で酷評され、このオペラは禁止になり、その後スターリンが死ぬまで、彼はオペラを書くことができませんでした。
同業者が殺されたり、強制収容所に送られたりするなか、いつ自分にその手が及ぶのかとどきどきしながら、彼は作曲を続けていきます。
作中には、プロコイエフやラフマニノフ、ナボコフなどについての話も出てきます。
おそらくショスタコーヴィチが最終的に望んだことは、自分の音楽が、ソビエトという国、共産主義などと絡めて語られずに、純粋に音楽として聞かれることではないかと思います。
ソビエトは楽観を強いり、ロシアは悲観を強いる。だから、この二つは相いれない。などなど、魅力的な文がところどころにあり、自分の力を超えたところで翻弄される人生について考えさせられました。
また、プロコイエフとスターリンが同じ日に亡くなったことなど、知らない歴史上の事実も面白かったです。
ショスタコーヴィチに興味がある人にはおすすめの一冊です。
体調は良好です。