20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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『朝霧の立つ川』(高橋秀雄・岩崎書店)

2009年11月09日 | Weblog
 昔からの作家の友人、高橋秀雄さんの新刊です。
 作品の舞台は昭和三十年代。
 貧しさのなか、けなげに弟たちを守り、友だちとの関係のなかで自分を見つめていく「ミチエ」という少女の物語です。
 それにしても感心してしまうのが、あの時代のラジオ、テレビ、漫画、遊びなどの娯楽を実に鮮やかに覚えていらっしゃることです。
(リリアンなんて言葉、何十年ぶりに聞いたでしょう。秀雄さんの脳裏には女の子の遊びまでもがくっきり残っていたのですね)
 そんな時代、どっぷりと貧しさに身をゆだね生きているミチエの気持ちが切なくなるほどに描写されています。
 また貧しかったころの、子どもたちのすがたや風景を、画家、小林豊さんの絵が見事に表現していらっしゃいます。
 
 ケストナーがこんな言葉を残しています。
「すぐれた児童文学者は、どれだけ自分自身の子ども時代を忘れないでいるか・・・」
 まさに高橋秀雄さんは作家として、そのディテールに至るまで「子ども時代」を鮮やかに覚えている、すぐれた児童文学者中の児童文学者と言えるでしょう。
 
 驚いたのがこのシーンです。
「福俵さまが通るころ」で「福俵さま」にいくらお賽銭を渡すかで見栄をはりあっている人びとを尻目に、「佐平さん」が立ち向かっていくシーン。
 高橋秀雄は容赦なく、「佐平」さんを通して「福俵さま」なるものの化けの皮を剥がしていきます。
 これでもか、これでもかといった具合に、一瞬のゆらぎも見せずに。
 読みながら「佐平さん、こんなことして、バチがあたらないかしら」と心配しつつ、爽快感を抱いている自分がいました。
 ここまで書き切ってしまう高橋秀雄という作家を、ほんとうにすごいと思いました。
 皆さま、どうぞお読みになってください。
コメント (2)
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