20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
毎日更新。児童文学情報・日々の暮らし・超高層からの眺望などニュース満載。

『円空流し』(松田悠八作・冨山房インターナショナル)

2009年12月25日 | Weblog
 句会のお仲間、松田悠八さんの新刊です。
 小島信夫文学賞を受賞され、現在映画化も進んでいる『長良川スタンドバイミー1950』の続編ともいえるのが、この『円空流し』です。
『長良川スタンドバイミー1950』は、いわば松田さんの自叙伝的小説とでもいえる物語です。
 主人公の「ユウチャ」という少年をとりまく世界には、実にたくさんの魅力的な大人たちが存在していました。
 そのひとりひとりが、まるですぐそこに生身の人間がいるようなリアリティがあり、貧しくまだ戦争の傷跡の残っていたあの時代を鮮やかに描いていました。

 そして今回の、この『円空流し』では主人公の「ユウチャ」が高校生になったところからスタートします。
 1950年代。その時代の、岐阜の町での人びとの暮らしや、進学校である高校での演劇部の生徒たちの問題意識や,性へのかすかなあこがれ、みんなで歌うロシア民謡、政治への語らいなど、あの時代の空気や雰囲気がとてもよく描写されています。
 岐阜高校の演劇部の人間模様を縦軸に、横軸には僧である円空の彫った円空仏にまつわる物語が・・・。
 
 印象的な記述は、円空とアイヌのつながりについてのところ。また円空の彫った仏像をみながら円空が木を彫る意味について、主人公が思索するシーン。ニーサマの彫った尼僧と、円空が彫った尼僧を対面させるシーン、山登りをしていて雷に打たれたシーン、ラストの野外劇の描写など、文章の力を感じる読み応えのあるシーンが随所に光っています。
 そしてなにより、この自叙伝的な小説ともいえるこの作品には反戦のまなざしが根底を流れていて、1950年代をまっすぐに駈けぬけた青春群像が描かれています。
(個人的には、東京の俳優養成所に入ったミタさんが,その後どうなったのか知りたいところです)
 そしてあの有名な「白線流し」が、この岐阜の飛田高校の話だったということを知ることもできました。

 私の高校生だった時代より、10年弱くらい前の時代のお話ですが、たしかにあの時代、我々もそんな熱き語らいをしたという記憶をまざまざと、そしてなつかしく蘇らせてくれました。
 皆さま、どうぞお読みになってください。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする