20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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『想魔のいる街』(たからしげる作・あかね書房)

2009年12月27日 | Weblog
 作家、たからしげるさんの新刊です。
 このところのたからさんの作品世界は「死」をモチーフにしたものが目につきます。
 この作品も、交通事故に遭って集中治療室で、まさに生死をさまよっている少年の、生きるか、あるいは死ぬかの狭間での物語です。

 ある日突然、くも膜下出血でお母さんが死に、やっと少しずつ家族がたちなおりかけたとき、今度は主人公の「有一」が自転車事故を起こしてしまいます。
 目がさめて気づいたところは、有一自身が作り出した不思議な世界。
 そこには「ソーマ」と名乗る不気味な人物がいました。
 そこから有一のミステリアスな旅がはじまります。

 おもしろいのは、このファンタジーの世界で有一が出会うさまざまな人たちです。その人たちはいずれも有一の知っている人です。
 あるひとは、すでに亡くなっているのですが、孫を待ち続けている学校の前の文房具屋さんのおばあさんであったり、まだ生きているクラスメートであったり・・・。
「ソーマ」は「この世界は、きみが作った、あるはずのない世界」だと言いますが、結果、この世界に出会うことにより、それぞれの人間の奥底にあるさまざまな感情を知り、有一自身、脱皮していくことになるのです。
 ラスト、死んでしまったお母さんと、「ソーマ」との間でゆれ動く有一の気持ちのバトルは、たからさん渾身の筆の力でぎりぎり読ませ、さすがです。
 このまま死ぬのか。あるいは集中治療室で目覚めることができるのか・・・。
 これは力強い再生の物語です。
 みなさま、どうぞお読みになってください。
コメント
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