20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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『真夜中のパン屋さん』(大沼紀子・ポプラ文庫)

2011年11月30日 | Weblog
            

 今夜は仲間うちの読書会「Be―子どもと本」です。
 テキストは『真夜中のパン屋さん』
 いますごく売れている評判の本です。

 なにしろこの本の売れない時代に、今年の6月に出版されて、9月ですでに11刷いっているのですから。
「なぜ、こんなに売れるのか。読まれているのか」
 今夜はみんなで、そのあたりの分析になるかもしれません。
 
 登場人物は、イケメンのパン屋さんと、女子高生。そこに、生きづらい世の中を生き悩んでいるさまざまな人たちが絡んできます。

 キャラクターや状況設定は「ヒリヒリ感」満載。
 現代の「縮図」をデフォルメしたような設定です。
 いつでしたか、評論家であり読書運動家のHさんと「もうヒリヒリしているだけの作品はいらない」というお話をしたことがあります。
 先日の毎日新聞の夕刊の「特集ワイド」には、ポスト・ロスジェネ世代の若者像について、こんな風に書かれていました。
「日本の将来より世界の将来に関心があり、バブル世代の若者より、実は社会や政治にも関心も高い。そしてキーワードは「自己充足」。
「自己が満足し、今ここで生きていく。それでいい。20代の70%が、今の生活に満足している」と。
 一方で、今の生活に不満の20代も63%に。
 満足なのに不満、というのは矛盾しているようです。しかし逆に、これ以上幸せになれないと思うから、今に満足するというのです。
 20代、老成しすぎです。

 この作品が読まれているのは、状況としての「ヒリヒリ感」,現状への不満感はあるけれど、それをすりぬける「ゆるい」ところがあるからではないかと思います。
 逆にブンガク好きには、そこが物足りないところかもしれませんが。

 そして、さらには作者の人間を見つめるあたたかなまなざしがあります。
 こうした作者の、人間を描くときの「包容力」のようなものが、読者を惹きつけているのかもしれません。

 おいしそうなパンの焼ける匂いと、登場人物たちのあたたかさ。
 ぬくもりを求める現代の人たちの胸に、直球でそれらは届きます。
 売れる本には、売れる理由というのが、ちゃんとあるんだということを教えてくれます。

 さて、今夜はどんな議論になるでしょう。
コメント (2)
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