私の地元は、もう十分に都市化しているのですが、先年の全国市町村合併推進にも乗れなかった。人口の大半である昭和40年代以降にできた住宅地の住民は、市制を望みつづけてきました。
でも、各町の町長を頭にする三役、町議会議員、町役場公務員などは、本音では合併反対だったようです。それで、各「町」で世論誘導をはかった、と私は見ています。
誘導の第1のポイントは、各「町」の財政格差、課税格差でした。この点で自分の「町」が他「町」よりすぐれている点を自慢し、合併後は他「町」の悪い点の水準にサヤ寄せされて今より悪くなると、示唆するのです。はっきりは言わない。そう思わせるようなデータを提供し、「どうなるかわかりません」と言って、不安をあおります。
誘導の第2のポイントは、観光、伝統、商業、交通の点で長所を持つ「町」当局がわが町の優位性と誇りを住民に訴えました。確かに格差がある。それは否定できない現実でした。優位にある「町」の住民も市制を強く望んでいました。しかし、住民の心の底に潜んでいた「ウチはあっちより上だ」という格差意識を刺激した。
各「町」何度も行われた議会説明、自治会での説明、住民集会での説明、……くりかえされた集会などで、わが町の良さが当局側によって説明されました。合併によるメリットは語られなかった。こうして、①他「町」合併による不利な点、②行政の広域化による不利な点、③格差意識が、住民に浸透していきました。
財政的に優位に立ち、しかも商業・交通の点で優位にある一つの「町」で、住民投票が行われました。住民が選んだ結論は「合併反対」でした。その「町」は合併対象の数カ町のうちで、もっとも優位に立つと見られる「町」でありました。