川本ちょっとメモ

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原発学習(13) 高線量被ばく死亡――染色体全破壊、すなわちDNA全破壊の実例

2011-06-15 10:00:47 | Weblog


05/04 ■ 原発学習(1)初歩の初歩から勉強をすることにしました
05/05 ■ 原発学習(2)固体1立方センチにびっしり詰まっている原子とサハ
     ラ砂漠を5メートルの高さで埋め尽くす砂粒

05/06 ■ 原発学習(3)「原子番号」は陽子の数を示し、アイソトープとは
     日本語で「同位元素」のこと

05/13 ■ 原発学習(4)原子は崩壊して放射線を放つ、そして元素が変わる
05/14 ■ 原発学習(5)原発使用済み燃料に1mまで近寄ると1分で死にま
     す!

05/22 ■ 原発学習(6)放射能・放射線の単位、人体への影響の測定用語
06/05 ■ 原発学習(7)ベクレル(Bq)からシーベルト(Sv)への換算方法
     解説

06/06 ■ 原発学習(8)「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」とは、
     「いつかは影響がある」ということか?

06/08 ■ 原発学習(9)目安の数字は1時間当たり0.12と2.29マイクロ
     シーベルト

06/12 ■ 原発学習(10)放射線はDNAを傷つける
06/13 ■ 原発学習(11)放射線――ガンは若い人ほど起こりやすい、ガンの
     成長は数年後から数十年後

06/14 ■ 原発学習(12)お腹の中の赤ちゃんと放射能
06/15 ■ 原発学習(13)高線量被ばく死亡――染色体全破壊、すなわちDN
     A全破壊の実例

06/16 ■ 原発学習(14)高線量被ばく死亡――皮膚も内臓粘膜も筋肉もすべ
     て壊れた

06/17 ■ 原発学習(15終)半減期 半分じゃダメ ゼロになるのはいつ?
06/18 ■ 原発学習のためのリンク集
06/29 ■ 電力十社 十大株主リスト 機関投資家は原発をどうする‥‥



「原発学習(10) 放射線はDNAを傷つける」のノート元の本は、1986年4月26日チェルノブイリ原発事故の後、1988年に書かれました。

1999年9月30日午前10時35分ごろ、茨城県東海村にあるJCO(住友金属鉱山子会社)の核燃料加工施設内で臨界(核分裂連鎖反応)事故が起きました。

新潮文庫「朽ちていった命――被曝治療83日間の記録」(NHK「東海村臨界事故」取材班)は、このとき至近距離で中性子線を被ばくした大内さんについての貴重な医療記録です。被ばく線量は20シーベルト(=2万ミリシーベルト)くらいと推定されました。わが国や世界の人々に役立つよう、このような悲しみに遭遇する人が出ないよう祈りをこめて、ご遺族が実名記録の公開に同意されたのだと思います。

いま現在進行形、2011年フクシマの「低線量被ばく」被害とは異なりますが、放射線本来の恐ろしさにがくぜんとする記録です。ここに染色体全破壊、すなわちDNA全破壊を記述している場面がありますので、転記して紹介します。「P56」というのは本書中のページ数です。小見出しは私がつけました。

「染色体」‥‥染色体は、DNAとタンパク質が集まった棒状の構造体で、アルカリ性塩基の色素によく染まることから「染色体」と名付けられた。 生物の体をつくりあげている細胞の核の内部にあり、遺伝情報の保存と発現を支配している。(Weblio)

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被ばく6日目 東大病院 染色体全破壊がわかる
P12 核分裂反応が起きると大量の中性子線が放出される。中性子線は人体の中にあるナトリウムをナトリウム24という放射性物質に変える。

P56 10月5日、被曝から6日目。無菌治療部の平井(※副部長、造血幹細胞移植の権威)のもとに、転院の翌日(※被曝4日目)に採取した患者の骨髄細胞の顕微鏡写真が届けられた。そのなかの1枚を見た平井は目を疑った。

写真には顕微鏡で拡大した骨髄細胞の染色体が写っているはずだった。しかし、写っていたのは、ばらばらに散らばった黒い物質だった。平井の見慣れた人間の染色体とはまったく様子が違っていた。

染色体はすべての遺伝情報が集められた、いわば生命の設計図である。通常は23組の染色体がある。1番から22番と女性のX、男性のYとそれぞれ番号が決まっており、順番に並べることができる。しかし、患者の染色体は、どれが何番の染色体なのか、まったくわからず、並べることもできなかった。断ち切られ、別の染色体とくっついているものもあった。(※本書にはこの写真があります)

P57 染色体がばらばらに破壊されたということは、今後新しい細胞が作られないことを意味していた。

血液を専門とする医師になって20年、平井はいろいろな病気の治療に当たり、さまざまな染色体を見てきた。これまでは「異常がある」といっても、何番の染色体がどういう異常を起こしているのか想像がついた。しかし、大内の場合は、どの染色体がどこにあるのかもわからなかった。それは平井の知識と経験をはるかに超えるものだった。

平井は語る。「病気が起きて、状況が徐々に悪くなっていくのではないんですね。放射線被曝場合、たった零コンマ何秒かの瞬間に、すべての臓器が運命づけられる。ふつうの病気のように血液とか肺とかそれぞれの検査値だけが異常になるのではなく、全身すべての臓器の検査値が刻々と悪化の一途をたどり、ダメージを受けていくんです」

患者の染色体写真を手に、「放射線というのは、なんと恐ろしいものなのだろうか」と平井はしばし呆然とした。


被ばく7・8日目 東大病院 造血幹細胞移植
P65 (患者の妹から)取り出された造血幹細胞は160ミリリットル。ただちに患者の病室に運ばれ、午後3時13分、移植が開始された。患者の静脈から妹の細胞が入っていった。

P66 翌日もほぼ同じ量の造血幹細胞が採取され、移植された。妹の細胞が患者の体に根付くかどうか、結果が出るのは10日後だった。


被ばく18日目 東大病院 造血幹細胞移植成功
P89 医療チームに検査結果が伝えられた。採取された骨髄細胞の性染色体は二つとも垢に染まっていた。XX、女性の染色体だった。患者の体の中で、妹の細胞が息づいていたのだ。さらに、骨髄の細胞の一部を調べると、若く、生まれたばかりの白血球が確認できた。妹の細胞が生み出した白血球だった。


被曝26日目 東大病院 またも染色体異常
P92 末梢血幹細胞移植が成功して八日たったこの日、平井は16日に採取した患者の骨髄細胞に関する検査結果のくわしい報告書を検査会社から受け取った。その報告は平井の思いもよらないものだった。

検査は患者の腰と胸の骨から採取された細胞、それぞれ30ずつ、あわせて60の細胞についておこなわれた。それらの細胞はすべて妹から移植された細胞だと報告書にはあった。しかし、胸骨から採られた骨髄細胞の検査報告書には但し書きとしてつぎのように記されていた。「なお、染色分体のbreakが、30細胞中3細胞に認められました」

患者の体内に根付いたばかりの妹の細胞、その10パーセントに異常が見つかったというのだ。平井は顕微鏡写真を凝視した。たしかに1番と2番の染色体に傷がつき、折れ曲がっていた。移植し、新たに根付いた細胞が1週間ほどの短時間で傷ついてしまうことは、血液の専門家の平井にとって、まったく考えられないことだった。

P94 この染色体の傷については医療チームのなかでも議論になった。ひとつの推測として、患者の体を貫いた中性子線が体内の物質を放射化し、染色体を傷つけたのではないかという考え方があった。中性子が体内のナトリウムやリン、それにカリウムなどに当たると、これらの物質の性質が変化し、自ら放射線を発するようになる。これが放射化だ。

しかし、この考え方には、反対意見もあった。放射化された物質のうち、もっとも放射線を強く出し、体内に均等に存在するナトリウム24でさえ、半減期(放射能が半分になるまでの時間)はわずか14.96時間である。また、ナトリウム24は尿や汗などから対外に排出される。したがって放射化された物質から出る放射線のエネルギーでは、染色体を傷つけることはできないというのだ。

P95 東大病院で集めた健康な人の染色体15万あまりのなかで染色体が傷ついていたのはわずか2つだけだった。染色体に傷がつくということはそれほどめったにないことなのだ。いずれにしろ、被曝による影響であることは間違いない。そう考えながら、平井は、放射線の恐ろしさをまざまざと感じていた。


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