■老年学会・老年医学会の提言 高齢者の年齢区分の呼び名変更
2017.1.5.付で「高齢者の定義と区分に関する提言(概要)」が日本老年学会・日本老年医学会のワーキンググループから発表され、翌日の新聞などで一斉に報道されました。提言の区分は下の通りです。
65~74 歳 准高齢者
75~89 歳 高齢者
90 歳~ 超高齢者
一方で、医療保険制度では下の高齢者区分が使われています。
65~74歳 前期高齢者
75歳以上 後期高齢者
「准高齢者65~74歳」は、医療保険の年齢区分と同じなので、わざわざ新しい呼び名に付け替えることに疑問を持ちます。
医療保険の「後期高齢者」年齢区分・呼び名を、「高齢者75~89 歳」、「超高齢者90歳~」に変更する理由は何なのか? これにも疑問を持ちます。
■高齢者年齢区分・呼び名変更 提言の理由
表記「提言(概要)」では、変更の理由を2つあげています。
一つ目の理由は、肉体年齢が同じ65歳でも昔にくらべてかなり若いこと。
二つ目の理由は、65歳以上の高齢者層に、70~75歳以上を高齢者と考えている人が多いことにあります。
二つ目の理由の裏付けには内閣府・平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果―8.その他(1)自分が高齢者だと感じるかを採用しています。
<若くない年令の人たちは常に「実年齢より若い」と思いたい思われたい>
今の65歳の主流が昔より元気なのは事実です。仮に、六十代の方に「年を行きますとねえ」とか「年行きましたね」という声かけで話を始めますと、「まだそんな年やないわ」とか「まだ若いです!」とかの反応が、冗談めいた明るい口調で返ってきます。元気な人からは必ずと言ってよいほどの反応です。
この提言(概要)を取り上げた1月6日のNHKニュースでは、繁華街の声を拾っていました。いずれも70歳前後の方々で、「高齢者なんてとんでもない」と元気はつらつとした人ばかりでした。元気いっぱいの反応でしたが、テレビで見ている私にはやっぱり年令相応に見えました。それよりも、NHKテレビの電波に乗った人が特別に元気であることが気にかかります。
若くありたい、若く見られたいという意欲を持って元気にやっていくことはけっこうなことです。しかし、若くない年令の人々に特有の、「若くありたい」、「若く見られたい」という願望あるいは自分自身への励ましの気持ちを、一つの方向に誘導しようとするニュース報道には敏感になります。
■高齢者年齢区分・呼称変更 提言の目的
提言(概要)では、高齢者の定義と区分を再検討することの目的として2つあげています。
(1) 従来の定義による高齢者を、社会の支え手でありモチベーションを持った
存在と捉えなおすこと
(2) 迫りつつある超高齢社会を明るく活力あるものにすること
そして提言(概要)は、「われわれの提言が、明るく生産的な健康長寿社会を構築するという、国民の願いの実現に貢献できることを期待しております」と結んで終わっています。
<各人がいきいきと毎日を暮らしていける健康長寿>
今、高齢者自身が望んでいるのは、「自分がいつまでもいきいきと毎日を暮らしていける健康長寿」です。高齢者の息子さんや娘さんも同じことを願っているでしょう。そして私が運営委員会の一員を務めさせていただいている居住地の地域包括支援センターが力を入れているのも、65歳以上の「高齢住民がいつまでもいきいきと毎日を暮らしていける健康長寿」です。「健康長寿」は今やどこでも定着している合言葉になっています。
高齢者本人が望んでいることと地域包括支援センターが鋭意取り組んでいることとは同じものです。それは、高齢者の「いきいきとした各人の暮らしの実現」を願っています。高齢者個人の生活の質を維持し高めることが主眼になっています。それが社会のためにもなるという考え方です。
<生産的な社会の支え手である健康長寿>
しかし、提言(概要)では、高齢者を「社会の支え手である」ととらえ直し、「生産的な健康長寿」社会の構築を目指しています。
どこに違いがあるのか? 結論を言えば、「社会の支え手」も「生産的な」も、高齢者の年金食い生活をあらためて、労働力生活に転換を勧めるものです。
では、いつまで働けというのか? 提言(概要)では、高齢者ではない「准高齢者65~74歳」区分を設けています。これで言えば、74歳まで働けということに繋がっていきそうです。
老年医学会は、高齢者の終末期の医療およびケア」に関する日本老年医学会の「立場表明」 2012に見るように、高齢者の終末医療などに情熱を注いている学会です。それゆえ提言(概要)に政治的意図はないかもしれません。そうとすれば、何らかの人脈の示唆によってうまく利用されたのではないかと猜疑心を持ちます。それほど政治的な背景を感じさせる提言なのです。
■「人生100年型年金」と言う小泉進次郎氏
今回の老年学会・老年医学会の高齢者に関する提言(概要)と自民党の小泉進次郎小委員会の提言が、時期・意味する方向性ともに符節が合い過ぎていて、提言される側の神経が尖ります。
下の毎日新聞記事をご覧ください。「痛み伴う改革」とは、父親・小泉純一郎氏が首相現職当時によく言ったことばです。多くの国民が小泉改革の痛みを受けています。小泉元首相は不人気な消費税上げを行わないと宣言して人気を取り、消費税上げという嫌な仕事を後の総理大臣に送りこみました。
小泉純一郎元首相は現職総理大臣の当時に、「100年安心年金」と言いました。しかしその実は、年金支給額減額と年金支給開始年齢を遅らせることでした。その後の経過を見れば100年安心というよりは、100年忍耐というものでした。
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<毎日新聞 2016.10.27.記事>
自民党・小泉氏ら若手が社会保障で提言 「痛み伴う改革」
自民党の小泉進次郎農林部会長ら若手議員による「2020年以降の経済財政構想小委員会」は26日、社会保障制度全般の改革に関する提言をまとめた。「痛みを伴う改革から逃げてはならない」として年金支給開始年齢の引き上げを求め、非正規を含めた企業の全労働者が社会保険に加入できる「勤労者皆社会保険制度」(仮称)の創設や、解雇規制の緩和、定年制廃止を主張している。
提言は「人生100年時代の社会保障へ」と題し、次期衆院選公約に入れるよう党執行部に働きかける。現制度では社会保障は維持できなくなるとして中長期的な改革を求めた。