2019-08-01
安倍首相が吉本新喜劇に出演、官民ファンドが大阪・沖縄で吉本興業に出資、大阪市は吉本興業と包括連携協定締結
安倍首相の2019.4.20.吉本新喜劇出演以後、吉本興業のニュースを追っていて、吉本興業はわたしが思い込んでいた芸能プロダクションではなくて、実際は、政治や行政とコラボレーションしている(悪く現れるときは「癒着」している)スケールの大きいエンタメ企業なんだと認識をあらためました。
2019.6.7.発売の週刊誌「フライデー」が人気芸人宮迫博之さんが反社会的人間の主催するイベントに出演したと報じました。これに始まって吉本興業の芸人管理やタレント契約のあり方について内部騒動がもちあがっています。
吉本興業は政治・行政とも手を結んでいて、社会的影響力の大きいエンタメ大企業です。この問題について毎日新聞が吉本興業HD大崎会長にインタビューをしています。テレビを見て笑っているだけではわからなかった、吉本興業トップの考え方です。
批判は差し置いて、記事(毎日新聞 2019年7月14日 05時01分)を転載します。
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吉本興業HD・大崎会長「ウソは一番アカン、原因突き止めチャレンジ」 一問一答 詳細 毎日新聞 2019.7.14. 05:01
所属芸人が反社会的勢力のパーティーに会社を通さず出席して謝礼を受け取っていた問題などについて、大崎洋・吉本興業ホールディングス(HD)会長に聞いた。一問一答は次の通り。【聞き手・油井雅和】
■謹慎期間、本人が決める手伝いを
――これまでコンプライアンス対策に力を入れてきたが、今回の件をどう思うか。
◆よりによって、お年寄りをだました金を、知ってる知らなかったでなく、結果として受け取ったというのは、大バカ野郎ですし、ウソついたことない人間はいないでしょうが、ここ(宮迫博之さんらが金は受け取っていないと主張していたこと)は一番アカンやろ、ということ。それが若者だったらいざ知らず。これは、うーん、残念無念です。
――今の段階で社内ではどんな作業をしているのか。
◆(謹慎中の芸人)13人は毎日会社に来て、自分でまず考えること、担当マネジャーと話して考えること、みんな集まってグループで考えることを繰り返している。そもそもの原因や、気の緩み、問題点、今後どうするのか、被害者へのおわびなど。修正申告は済ませた。
◆(宮迫さんらの)謹慎期間をどれぐらいにするかとか、進退をどうするかとかは、本人が決めることだと思う。会社も一緒になって悩み、考え、本人が決めることの手伝いをしたい。フリーダイヤルで24時間のホットラインを設けて、何か不安があったらすぐに電話をと、10年近くやってきた。でも、この結果なんで、まだまだ道半ば、何事も完璧にはならないとはいえ、緊張感を持って、管理していくというイメージではなく、のびのびと自由な発想の場で、芸人たちを遊ばせながら、社会にも少しは役立てるよう、日々改良していくということしかない。
■コンプライアンス対策「忘れず続ける」
――コンプライアンス対策で足りなかった部分があるとしたら、なにか。
◆結果としてこのようなことがまた起こった。100%完璧ではなかった。それを目指して非上場化したり、やってきたつもりだが、まだまだ足りないところがあると強く思った。コンプライアンス研修を実施し、小冊子も作り、定期的に警察の方を迎えて、毎年毎年、47都道府県、全芸人に繰り返して話をしてきたのに、まだ漏れがあった。より徹底する、日々それを忘れないで形骸化することなく続ける、あとは社員を含め、それぞれが社会人として自立する、強い意識を持つ、ということを毎日繰り返すということしかないと思っている。
――仕事相手が反社(反社会的勢力)といっても見分けがつかない。芸人の仕事に会社がタッチしていれば反社の可能性は小さくなる。どこから手を付けるか。
◆反社なのか半グレなのか、最近ますますわからなくなっている。かっこいいアイドルみたいな兄ちゃんだって、反社の人ということもある。非上場にして、反社を断ち切ったが、また今回、残念ながらこういう事件が起こってしまった。今一度、社員、芸人、一丸となって、共同確認書を作ることにした。これをひとりひとりに手渡して、文面を読んで、会話をして、ということを、7月中にやろうというのを始めたところだ。
■「直の仕事はダメ」言ったことない
◆会社を通さない仕事、「直(ちょく)」「ショクナイ(内職)」の件だが、今までも「直の仕事はしたらダメだ」と、会社は言ったことはない。もちろん会社として、「直接仕事取って自由にやったらええで」と声に出して言ったことはないが、「ダメだ」と言ったこともないと思う。それは、「親戚のめいっ子の結婚式の披露宴の司会頼まれたので行ってきます」、あるいは、「お父ちゃんの行ってる会社の20周年のパーティーで漫才してって言われたんで行ってきます」、それに対して「そうなんや、気いつけて行っておいでな」という形でずっとやってきたので、程度の問題だし、芸人やマネジャーのそれぞれの判断ではあるが、「『直』したらあかん」と言ったことはない。もちろん、勧めたこともない。
◆ただ、今回残念だったのは、反社のところだった。直接頼まれた仕事でも、会社を通してくれれば、反社チェックをやるので、これからはすべて、会社に事前に報告してね、ということだ。
■契約書を超えた信頼関係
――「ほとんどの所属芸人が紙で契約書を交わしてない。それが原因の一つだ」との意見もある。
◆会社と芸人との専属実演家契約に関しては、文書で契約書を作る形と、口頭で契約する「諾成契約」がある。吉本の場合、ほとんど諾成契約でやってきた。それは100年以上の歴史で、劇場を中心とした家族的な付き合いの中で、わざわざ身内でそんな契約書交わしたって意味ないだろうし、紙で書いた契約書を超えた信頼関係、所属意識があって、吉本らしさがあるのだから、そんな内輪で紙書いたってなあ、という認識でやってるだけで、契約はある。
――今回の件を受けて、諾成契約から紙の契約書にするという考えはあるか?
◆ない。それは身内で水臭いということがあるし、もちろん、両方ともに、メリットもデメリットもあると思う。芸人って80(歳)になっても90(歳)になってもいてるんで、吉本のドアをノックした時から、一生の付き合いやな、という関係ができているので、そういう意味ではこの方が吉本らしいし、かつ僕はマネジメント、エージェントとしてもいいと思っている。
■マネジャー増やせば門戸を閉ざす
――1人の社員が何人もの芸人を担当している。「社員が足りていないのでは」との批判もあるが。
◆もちろん、アーティストマネジメントの一番正しい形はマンツーマンだと思うが、ではマンツーマンでその人のマネジャーの給料や管理費を払えるかといえば、払えない子がいっぱいいる。その中で、複数を担当する、という中で、吉本しか行くところがない、吉本が大好きなので、どうしても吉本に来たい、という子供たちに門戸を閉ざすというのは、僕は違うと思う。その子が行き場を失うということにしかならない。なんでもかんでも、ではないが、熱意があってお笑いが好きで吉本が好きで、いつかスターになってみんなを笑わしてお金持ちになりたい、という子は、おいで、どうぞ、というスタンスだ。
――生活のためにアルバイトをしている芸人もいる。最低限の生活保障をすべきだとの意見もある。一方、芸の世界は競争社会。保障したら芸がダメになるということもあると思うがどう考えるか。
◆それ(生活保障)も一つの方法かもしれないが、それが本当に果たしてその子のためになるかといえば、ならないと思う。いつか一本立ちできるよう頑張ろうと、思い悩みながら日々努力を重ねている中で、何十年かかって自分の芸を完成させようとしている。
◆じゃあ何十年、生活費を毎月20万、30万、渡しましょうか、というのは、論理的にもおかしい。温室育ちの植物よりも、自分の手で風に乗って荒れ地に種が飛んで根をはやし水分を吸収し、太陽を受け大きくなった植物の方が強い、おいしいと言われる。たとえがよくないかもしれないが、芸人もそうだと思う。それを温室に入れて、生活費は心配しないで毎月30万払いますから、一生頑張りなさいというのがいいかといえば、そうではない。もちろん、つらい仕事もいっぱいあると思うが、それを乗り越えて、特に表現する人たちは一生かかって自分のスタイルができる、それを目指すというのが、正しい芸の道だと思う。
■「政府ヨイショ」は違う
――先日、安倍晋三首相が、大阪・なんばグランド花月に出演した。公的機関との仕事も増えている。「お笑いの政治利用だ」などの批判もあるが。
◆安倍首相が花月に出て、今の政権のプロパガンダに利用されているのではないか、とか、意見があるが、別に体制におもねってるわけでも、体制の手先になってるわけでもない。あれはG20で大阪府民、市民に交通規制などで迷惑をかけるので理解してほしいという安倍首相の思いに、より広く伝える方法として吉本新喜劇を選んでいただいた。確かに大阪の人たちは吉本だったらよく見てくれてるし、安倍さんが出たら話題になるし、テレビでも放送されて、視聴率もよくって、少しは周知が広がる。僕たちでよければ、お役に立てるなら花月に来てくださいとお招きをしたわけです。それは政府をヨイショしてるとかとは全く違うこと。権力に対して正しいことは正しい、お手伝いさせてもらえるならさせてもらいたいと明言しますし、それは違うんじゃないですかということがあれば、違うじゃないですかと、普通のことをしたいと思う。
◆もちろん芸能は、ヒトラーの時代、戦争の時代も含めて、利用されやすいという過去の歴史があった。だからといって、それとこれを一緒にされるのは嫌だなと思う。
◆公的機関から、お手伝いの話があれば、受けているし、そういう仕事が増えている。芸人の意識も変わってくると思うし、(地方公共団体などとの仕事で)地元の人と苦労して課題を解決しようという子がいれば、悪さをしなくなるだろうし、間違ったこともなくなると思う。こんなお笑いの会社でも小さなことしかできないけれども、少しでも役に立てるならありがたい。
――まさか(新喜劇のベテラン)池乃めだかさんや(座長の一人)すっちーさんが安倍さんと共演する日が来るとは思わなかった。
◆聞いた話だが、めだかさんと安倍さんのツーショットが動画や写真で世界中に広がって、安倍さんが次に行かれた国の大統領さんか偉い人が、たまたまそれを見ていて、「この人はどういう人ですか?」と聞かれ、話が盛り上がったそうだ。バカバカしいというか、そんなことでもお役に立てたというなら、めだかさんも新喜劇の連中も喜んでくれていると思う。
■「ギャラが安い」言われる理由は
――所属芸人は「吉本はギャラが安い」とよく話す。会社もその発言を止めることはないが、吉本のギャラについての基本的な考え方は?
◆僕たち社員はサラリーマンなので、蛇口をひねれば水が出る。でも芸人は「井戸掘り当てたろ」と考えている。喉かわいてるけど井戸掘り当てたら浴びるほど水飲める、そっちを選んだ、あるいは選ばざるを得なかった。
◆「劇場に出て最初のギャラが100円、200円やった」と、芸人は笑いを取ろうと話すが、お客さんはトップの芸人を見に来ている。漫才3分しても一度も笑いがない。それでも舞台に出してもらっている、プロとして吉本の舞台に出たんだから、たとえ1円でも払ってあげないといけない、その200円だと僕は思っていて、そうした発言をニコニコ見てる。芸人が吉本に不平を言ってることも、甘えてるということもあるだろう。そこには先輩たちへの感謝は忘れていないと思うが、その200円だけ番組で切り取られて、「えーっ?」となることもある。それをいちいち呼んで、「それはこうだよ」というのも嫌なので。
◆テレビの番組で、同じランクの吉本のタレントと別の事務所の子が出ていて、「他の事務所はギャラ10万、吉本は5万、どういうこと?」「吉本取りすぎちゃうの?」ということがある。吉本はこのタレントは10万で交渉して5万払った、ある事務所は50万で交渉して10万払ったとする。これはいろんな考え方があって、「50万で交渉したマネジャーがすごい」というのも事実だし、「うちの社員は10万で売ったけれど、この芸人は今、数をこなすほうが経験も増やせていいと思い10万で交渉した」ということもあり、一概に同じ番組で同じランクの芸人で、「オレ5万だけどあいつ10万だった」というのはそもそも違う。
◆もっと言うと、CM1本出て1億円の芸人がいれば、同じランクだけど「1000万円でいいです、でも10本やります。その方がいいです」という芸人もいて、それはそれぞれやり方がある。それは会社と芸人さんの信頼関係というか、あうんの呼吸だと思う。
◆(9対1=会社の取り分が9割、芸人1割、などと言われることがあるが)本当に9対1なら、国税か労基署か公取委かが来るでしょうし、契約がホントにないなら、みんな勝手にやめたらいいわけだし、他事務所に行ったり、あるいは自分でやればいいわけです。でも、ほとんど誰もやめてない。やめたって、B&Bや(太平)サブロー・シローのように戻ってきたりしてますからね(現在はサブローのみ吉本所属。シローは2012年死去)。
◆そうしたことを、ことあるごとに、会社から発言するのも、ダサい話だし、芸人本人たちも嫌だと思う。
■「反省して強く」若い子のパワー頼り
――芸人が、会社に相談したいという場合も増えてくると思うが。
◆寄席小屋、劇場は芸人と社員、お客さんが一堂に集まるところなので、もっと活用したいし、小規模を含めもっと劇場を増やしたいとも思う。舞台袖や楽屋でコミュニケーションをできる、お互いを知り合う、悩みを聞ける場を作りたい。
――今後、何が変わったか、目に見える改革が必要だと思うが。
◆チャレンジして失敗して、怒られて、反省して、またチャレンジして、また失敗してたたかれて、またチャレンジして……。
◆今まだそんなことをいう時期ではないかもしれないが、怒られて謝って、またやった、また失敗して、というのを繰り返すのかもしれない。でも、そのたびに強くなって、今回も、社員のみんなは働き方改革なのに寝不足になりながら仕事をしてくれている。
◆やっぱり、立ち止まることなく反省して強くなって、もう一度顔を上げて、進むしかないと思っている。また失敗したら、反省して、原因を突き止めて解消して、またチャレンジして、をやり続けるパワーが、幸いにも、現場の子たちは毎日の仕事に励んでいる。若い子のパワーを頼りにチャレンジしていくしかない。
安倍首相が吉本新喜劇に出演、官民ファンドが大阪・沖縄で吉本興業に出資、大阪市は吉本興業と包括連携協定締結
安倍首相の2019.4.20.吉本新喜劇出演以後、吉本興業のニュースを追っていて、吉本興業はわたしが思い込んでいた芸能プロダクションではなくて、実際は、政治や行政とコラボレーションしている(悪く現れるときは「癒着」している)スケールの大きいエンタメ企業なんだと認識をあらためました。
2019.6.7.発売の週刊誌「フライデー」が人気芸人宮迫博之さんが反社会的人間の主催するイベントに出演したと報じました。これに始まって吉本興業の芸人管理やタレント契約のあり方について内部騒動がもちあがっています。
吉本興業は政治・行政とも手を結んでいて、社会的影響力の大きいエンタメ大企業です。この問題について毎日新聞が吉本興業HD大崎会長にインタビューをしています。テレビを見て笑っているだけではわからなかった、吉本興業トップの考え方です。
批判は差し置いて、記事(毎日新聞 2019年7月14日 05時01分)を転載します。
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吉本興業HD・大崎会長「ウソは一番アカン、原因突き止めチャレンジ」 一問一答 詳細 毎日新聞 2019.7.14. 05:01
所属芸人が反社会的勢力のパーティーに会社を通さず出席して謝礼を受け取っていた問題などについて、大崎洋・吉本興業ホールディングス(HD)会長に聞いた。一問一答は次の通り。【聞き手・油井雅和】
■謹慎期間、本人が決める手伝いを
――これまでコンプライアンス対策に力を入れてきたが、今回の件をどう思うか。
◆よりによって、お年寄りをだました金を、知ってる知らなかったでなく、結果として受け取ったというのは、大バカ野郎ですし、ウソついたことない人間はいないでしょうが、ここ(宮迫博之さんらが金は受け取っていないと主張していたこと)は一番アカンやろ、ということ。それが若者だったらいざ知らず。これは、うーん、残念無念です。
――今の段階で社内ではどんな作業をしているのか。
◆(謹慎中の芸人)13人は毎日会社に来て、自分でまず考えること、担当マネジャーと話して考えること、みんな集まってグループで考えることを繰り返している。そもそもの原因や、気の緩み、問題点、今後どうするのか、被害者へのおわびなど。修正申告は済ませた。
◆(宮迫さんらの)謹慎期間をどれぐらいにするかとか、進退をどうするかとかは、本人が決めることだと思う。会社も一緒になって悩み、考え、本人が決めることの手伝いをしたい。フリーダイヤルで24時間のホットラインを設けて、何か不安があったらすぐに電話をと、10年近くやってきた。でも、この結果なんで、まだまだ道半ば、何事も完璧にはならないとはいえ、緊張感を持って、管理していくというイメージではなく、のびのびと自由な発想の場で、芸人たちを遊ばせながら、社会にも少しは役立てるよう、日々改良していくということしかない。
■コンプライアンス対策「忘れず続ける」
――コンプライアンス対策で足りなかった部分があるとしたら、なにか。
◆結果としてこのようなことがまた起こった。100%完璧ではなかった。それを目指して非上場化したり、やってきたつもりだが、まだまだ足りないところがあると強く思った。コンプライアンス研修を実施し、小冊子も作り、定期的に警察の方を迎えて、毎年毎年、47都道府県、全芸人に繰り返して話をしてきたのに、まだ漏れがあった。より徹底する、日々それを忘れないで形骸化することなく続ける、あとは社員を含め、それぞれが社会人として自立する、強い意識を持つ、ということを毎日繰り返すということしかないと思っている。
――仕事相手が反社(反社会的勢力)といっても見分けがつかない。芸人の仕事に会社がタッチしていれば反社の可能性は小さくなる。どこから手を付けるか。
◆反社なのか半グレなのか、最近ますますわからなくなっている。かっこいいアイドルみたいな兄ちゃんだって、反社の人ということもある。非上場にして、反社を断ち切ったが、また今回、残念ながらこういう事件が起こってしまった。今一度、社員、芸人、一丸となって、共同確認書を作ることにした。これをひとりひとりに手渡して、文面を読んで、会話をして、ということを、7月中にやろうというのを始めたところだ。
■「直の仕事はダメ」言ったことない
◆会社を通さない仕事、「直(ちょく)」「ショクナイ(内職)」の件だが、今までも「直の仕事はしたらダメだ」と、会社は言ったことはない。もちろん会社として、「直接仕事取って自由にやったらええで」と声に出して言ったことはないが、「ダメだ」と言ったこともないと思う。それは、「親戚のめいっ子の結婚式の披露宴の司会頼まれたので行ってきます」、あるいは、「お父ちゃんの行ってる会社の20周年のパーティーで漫才してって言われたんで行ってきます」、それに対して「そうなんや、気いつけて行っておいでな」という形でずっとやってきたので、程度の問題だし、芸人やマネジャーのそれぞれの判断ではあるが、「『直』したらあかん」と言ったことはない。もちろん、勧めたこともない。
◆ただ、今回残念だったのは、反社のところだった。直接頼まれた仕事でも、会社を通してくれれば、反社チェックをやるので、これからはすべて、会社に事前に報告してね、ということだ。
■契約書を超えた信頼関係
――「ほとんどの所属芸人が紙で契約書を交わしてない。それが原因の一つだ」との意見もある。
◆会社と芸人との専属実演家契約に関しては、文書で契約書を作る形と、口頭で契約する「諾成契約」がある。吉本の場合、ほとんど諾成契約でやってきた。それは100年以上の歴史で、劇場を中心とした家族的な付き合いの中で、わざわざ身内でそんな契約書交わしたって意味ないだろうし、紙で書いた契約書を超えた信頼関係、所属意識があって、吉本らしさがあるのだから、そんな内輪で紙書いたってなあ、という認識でやってるだけで、契約はある。
――今回の件を受けて、諾成契約から紙の契約書にするという考えはあるか?
◆ない。それは身内で水臭いということがあるし、もちろん、両方ともに、メリットもデメリットもあると思う。芸人って80(歳)になっても90(歳)になってもいてるんで、吉本のドアをノックした時から、一生の付き合いやな、という関係ができているので、そういう意味ではこの方が吉本らしいし、かつ僕はマネジメント、エージェントとしてもいいと思っている。
■マネジャー増やせば門戸を閉ざす
――1人の社員が何人もの芸人を担当している。「社員が足りていないのでは」との批判もあるが。
◆もちろん、アーティストマネジメントの一番正しい形はマンツーマンだと思うが、ではマンツーマンでその人のマネジャーの給料や管理費を払えるかといえば、払えない子がいっぱいいる。その中で、複数を担当する、という中で、吉本しか行くところがない、吉本が大好きなので、どうしても吉本に来たい、という子供たちに門戸を閉ざすというのは、僕は違うと思う。その子が行き場を失うということにしかならない。なんでもかんでも、ではないが、熱意があってお笑いが好きで吉本が好きで、いつかスターになってみんなを笑わしてお金持ちになりたい、という子は、おいで、どうぞ、というスタンスだ。
――生活のためにアルバイトをしている芸人もいる。最低限の生活保障をすべきだとの意見もある。一方、芸の世界は競争社会。保障したら芸がダメになるということもあると思うがどう考えるか。
◆それ(生活保障)も一つの方法かもしれないが、それが本当に果たしてその子のためになるかといえば、ならないと思う。いつか一本立ちできるよう頑張ろうと、思い悩みながら日々努力を重ねている中で、何十年かかって自分の芸を完成させようとしている。
◆じゃあ何十年、生活費を毎月20万、30万、渡しましょうか、というのは、論理的にもおかしい。温室育ちの植物よりも、自分の手で風に乗って荒れ地に種が飛んで根をはやし水分を吸収し、太陽を受け大きくなった植物の方が強い、おいしいと言われる。たとえがよくないかもしれないが、芸人もそうだと思う。それを温室に入れて、生活費は心配しないで毎月30万払いますから、一生頑張りなさいというのがいいかといえば、そうではない。もちろん、つらい仕事もいっぱいあると思うが、それを乗り越えて、特に表現する人たちは一生かかって自分のスタイルができる、それを目指すというのが、正しい芸の道だと思う。
■「政府ヨイショ」は違う
――先日、安倍晋三首相が、大阪・なんばグランド花月に出演した。公的機関との仕事も増えている。「お笑いの政治利用だ」などの批判もあるが。
◆安倍首相が花月に出て、今の政権のプロパガンダに利用されているのではないか、とか、意見があるが、別に体制におもねってるわけでも、体制の手先になってるわけでもない。あれはG20で大阪府民、市民に交通規制などで迷惑をかけるので理解してほしいという安倍首相の思いに、より広く伝える方法として吉本新喜劇を選んでいただいた。確かに大阪の人たちは吉本だったらよく見てくれてるし、安倍さんが出たら話題になるし、テレビでも放送されて、視聴率もよくって、少しは周知が広がる。僕たちでよければ、お役に立てるなら花月に来てくださいとお招きをしたわけです。それは政府をヨイショしてるとかとは全く違うこと。権力に対して正しいことは正しい、お手伝いさせてもらえるならさせてもらいたいと明言しますし、それは違うんじゃないですかということがあれば、違うじゃないですかと、普通のことをしたいと思う。
◆もちろん芸能は、ヒトラーの時代、戦争の時代も含めて、利用されやすいという過去の歴史があった。だからといって、それとこれを一緒にされるのは嫌だなと思う。
◆公的機関から、お手伝いの話があれば、受けているし、そういう仕事が増えている。芸人の意識も変わってくると思うし、(地方公共団体などとの仕事で)地元の人と苦労して課題を解決しようという子がいれば、悪さをしなくなるだろうし、間違ったこともなくなると思う。こんなお笑いの会社でも小さなことしかできないけれども、少しでも役に立てるならありがたい。
――まさか(新喜劇のベテラン)池乃めだかさんや(座長の一人)すっちーさんが安倍さんと共演する日が来るとは思わなかった。
◆聞いた話だが、めだかさんと安倍さんのツーショットが動画や写真で世界中に広がって、安倍さんが次に行かれた国の大統領さんか偉い人が、たまたまそれを見ていて、「この人はどういう人ですか?」と聞かれ、話が盛り上がったそうだ。バカバカしいというか、そんなことでもお役に立てたというなら、めだかさんも新喜劇の連中も喜んでくれていると思う。
■「ギャラが安い」言われる理由は
――所属芸人は「吉本はギャラが安い」とよく話す。会社もその発言を止めることはないが、吉本のギャラについての基本的な考え方は?
◆僕たち社員はサラリーマンなので、蛇口をひねれば水が出る。でも芸人は「井戸掘り当てたろ」と考えている。喉かわいてるけど井戸掘り当てたら浴びるほど水飲める、そっちを選んだ、あるいは選ばざるを得なかった。
◆「劇場に出て最初のギャラが100円、200円やった」と、芸人は笑いを取ろうと話すが、お客さんはトップの芸人を見に来ている。漫才3分しても一度も笑いがない。それでも舞台に出してもらっている、プロとして吉本の舞台に出たんだから、たとえ1円でも払ってあげないといけない、その200円だと僕は思っていて、そうした発言をニコニコ見てる。芸人が吉本に不平を言ってることも、甘えてるということもあるだろう。そこには先輩たちへの感謝は忘れていないと思うが、その200円だけ番組で切り取られて、「えーっ?」となることもある。それをいちいち呼んで、「それはこうだよ」というのも嫌なので。
◆テレビの番組で、同じランクの吉本のタレントと別の事務所の子が出ていて、「他の事務所はギャラ10万、吉本は5万、どういうこと?」「吉本取りすぎちゃうの?」ということがある。吉本はこのタレントは10万で交渉して5万払った、ある事務所は50万で交渉して10万払ったとする。これはいろんな考え方があって、「50万で交渉したマネジャーがすごい」というのも事実だし、「うちの社員は10万で売ったけれど、この芸人は今、数をこなすほうが経験も増やせていいと思い10万で交渉した」ということもあり、一概に同じ番組で同じランクの芸人で、「オレ5万だけどあいつ10万だった」というのはそもそも違う。
◆もっと言うと、CM1本出て1億円の芸人がいれば、同じランクだけど「1000万円でいいです、でも10本やります。その方がいいです」という芸人もいて、それはそれぞれやり方がある。それは会社と芸人さんの信頼関係というか、あうんの呼吸だと思う。
◆(9対1=会社の取り分が9割、芸人1割、などと言われることがあるが)本当に9対1なら、国税か労基署か公取委かが来るでしょうし、契約がホントにないなら、みんな勝手にやめたらいいわけだし、他事務所に行ったり、あるいは自分でやればいいわけです。でも、ほとんど誰もやめてない。やめたって、B&Bや(太平)サブロー・シローのように戻ってきたりしてますからね(現在はサブローのみ吉本所属。シローは2012年死去)。
◆そうしたことを、ことあるごとに、会社から発言するのも、ダサい話だし、芸人本人たちも嫌だと思う。
■「反省して強く」若い子のパワー頼り
――芸人が、会社に相談したいという場合も増えてくると思うが。
◆寄席小屋、劇場は芸人と社員、お客さんが一堂に集まるところなので、もっと活用したいし、小規模を含めもっと劇場を増やしたいとも思う。舞台袖や楽屋でコミュニケーションをできる、お互いを知り合う、悩みを聞ける場を作りたい。
――今後、何が変わったか、目に見える改革が必要だと思うが。
◆チャレンジして失敗して、怒られて、反省して、またチャレンジして、また失敗してたたかれて、またチャレンジして……。
◆今まだそんなことをいう時期ではないかもしれないが、怒られて謝って、またやった、また失敗して、というのを繰り返すのかもしれない。でも、そのたびに強くなって、今回も、社員のみんなは働き方改革なのに寝不足になりながら仕事をしてくれている。
◆やっぱり、立ち止まることなく反省して強くなって、もう一度顔を上げて、進むしかないと思っている。また失敗したら、反省して、原因を突き止めて解消して、またチャレンジして、をやり続けるパワーが、幸いにも、現場の子たちは毎日の仕事に励んでいる。若い子のパワーを頼りにチャレンジしていくしかない。