(毎日新聞 2020.10.26.12:00 報道) 大阪市財政局試算 大阪市4分割なら
行政コスト218億円増加 都構想実現で特別区収支悪化も
大阪市を四つの自治体に分割した場合、標準的な行政サービスを実施するために毎年必要なコスト「基準財政需要額」の合計が、現在よりも約218億円増えることが市財政局の試算で明らかになった。人口を4等分した条件での試算だが、結果が表面化するのは初めて。一方、市を4特別区に再編する「大阪都構想」での収入合計は市単体と変わらず、行政コストが同様に増えれば特別区の収支悪化が予想される。特別区の財政は11月1日投開票の住民投票でも大きな争点で、判断材料になりそうだ。
◆人口のスケールメリット失う
国の地方交付税制度は、自治体が一定水準の行政サービスを維持できるよう、基準財政需要額から基準財政収入額(地方税収を4分の3にするなどして算定)を引いて不足分を国が補う仕組みだ。税収の多い東京都は交付税をもらわずに財政運営できるが、大阪市のように交付税に頼る自治体は「交付団体」と呼ばれる。
基準財政需要額は、「社会福祉費」や「商工行政費」など国が定めた分野別の単価に、人口や世帯数などの数と、地域事情に応じた複数の補正係数を掛けて算出する。総務省は「行政事務は一般的にスケールメリットが働き、規模が大きくなるほど経費が割安になる傾向がある」という考えで、人口が多いほど需要額を抑えられる仕組み。
2015年の国勢調査時に269万人だった大阪市の20年度の基準財政需要額は6940億円。市財政局は毎日新聞の取材に対し、人口を4等分して約67万3000人ずつに分割した需要額について、合計すると218億円多い7158億円との試算を示した。都構想で設置される特別区は、現在の地方交付税制度では想定されていない自治体のため、人口規模以外は現在と同じ条件で計算した。
都構想は、市を廃止し、人口60万~75万人の4特別区に分割する制度で、市財政局によると、人口は若干異なるが、今回の試算と同様にスケールメリットは失われ、行政コストは上がることが想定されるという。
制度案を議論する計37回の法定協議会では、特別区の財政見通しを議論する資料として、4特別区の基準財政需要額を示すよう自民党が要望した。だが、事務作業を担う府市の共同部署「副首都推進局」は試算してこなかった。担当者は「職員が増えることによる費用など必要な数字は示している。法定協からは試算の指示がなかった」と理由を説明する。
特別区の交付税は、地方交付税法や都構想の根拠法となる大都市地域特別区設置法に基づいて、4特別区を一つの市町村とみなして計算する。このため交付税の合計は現在の大阪市と変わらず、行政コストだけが増加することになる。制度案では、消防などの事務が府に移管されるため、行政コストの差額は218億円からは縮小し、最終的には200億円程度になるとみられる。 市財政局の担当者は「都構想の4特別区の行政コストが今回の試算と同額になるとは限らないが、デメリットの一つの目安になる。財源不足が生じれば、行政サービスの低下につながる恐れもある」と説明している。
◆副首都推進局、自民市議の要請に法定協で示さず
大阪市を分割した四つの自治体の行政コストの合計を現状と比較した市財政局の試算は、都構想が実現した場合に誕生する特別区の財政運営にも影響を与えるとみられる。「基準財政需要額」と呼ばれるコストは、都構想の制度案をつくる法定協議会でも自民党が今回の試算に近い数字を示し、算出を要請していたが、府市の共同部署「副首都推進局」は「法定協からの指示はなかった」として出さなかった経緯がある。
「特別区にすると行政コストが200億円ぐらい増大する。地方交付税は増額されず、財源不足が生じる恐れがある」。2019年4月の知事・市長のダブル選の結果を受けて再開した同年9月の法定協。都構想に反対する自民の川嶋広稔市議は、独自で試算した数字を根拠に特別区の財政運営に懸念を示し、重点的に議論するよう今井豊会長に訴えた。
これに対し、大阪維新の会の守島正市議は「我々は特別区長のマネジメントなどでコストを削減するという前提に立っている。交付税の総額が変わらなくても、コスト圧縮で自主財源ができる」と述べ、交付税は増えなくても、都構想にはそれを上回る効果があると反論。維新側は川嶋市議に、計算式を示して具体的に指摘するよう求めた。
法定協に関する事務作業は、府と市が共同設置する副首都推進局が担ってきた。川嶋市議は「知事、市長がこの場で提案したら職員が総動員でやってくれるが我々はそういうこともできない。正しい数字に基づいて制度論の議論ができればと思っているので、よろしくお願いします」と行政として計算するよう求めた。
今井会長は「協定書(制度案)をとりまとめるうえで必要となる資料の作成を事務局に指示したい」と応じたが、推進局が作成することはなかった。
基本的方向性の採決を控えた同年12月の法定協で、改めて行政コストが増えることへの懸念を示した川嶋市議は「今更遅いと言われるが、検証するための資料を出してくれと最初から言っている。(行政側が)出してくれないのは問題だ」と指摘した。
だが、維新の横山英幸府議は「行政コストが200億円増えると言われても根拠がないから分からない。過度な不安でしかなく、建設的な提案になっていない」と一蹴。松井一郎市長も「府と市で一元化になることで新たな財源を生み出してきている。そもそも論に戻るから一々言う必要はない」などと答えており、かみ合わないまま法定協での議論が終わった。
法定協で決定した制度案を審査した総務省は今年7月、「特段の意見はない」と承認した。だが、毎日新聞の取材に「特別区の財政が成り立つかどうかについて、お墨付きを与えるものではない」と説明。特別区の財政を巡っては、賛成派、反対派によって大きく評価が分かれている。
(毎日新聞 2020.10.26. 21:21)
新たに表面化した218億円の行政コストを各政党はどう受け止めたのか。
都構想の制度案を議論する計37回の法定協議会で、自民は独自試算として毎年の行政コストが約200億円増えると指摘し、府市の副首都推進局に資料の作成を求めてきた。しかし、法定協で多数派を占める大阪維新の会などはこれに応じず、実現しなかった。財政局が試算した行政コストは、自民が指摘した数字に近い数字となった。
維新代表の松井一郎大阪市長は、報道陣に「特別区は(需要額を算出する)係数が定まっておらず、計算できないため、(実際の事業の)リアルな数字を積み上げて長期的に財政が成り立つことを示した」と話し、財政上の懸念はないとの認識を示した。
(注)松井大阪市長は「基準財政需要額は係数が定まらず計算できない」と言う大阪市 財政局の試算に根拠がないような表現だが、市財政局は係数を定めて計算している。逆に、「リアルな数字を積み上げた」と松井市長は言う。しかしコロナ後は中国頼りのインバウンドが当てにできない一事、鉄道、バス、航空。USJのような業界が大変な業績悪化で、簡単に回復するとは思われない時代です。
維新とともに都構想に賛成する公明市議団の西崎照明幹事長は「行政コストは協定書とは違う話。住民投票で可決されたら、(特別区になる)2025年1月以降も住民サービスが維持されるよう党として主張していく」と話した。
(注)「主張していく」というのはありがたい話ですが、2025年1月以降の住民サービス維持に保障がないことを白状しているようなものです。次期衆院選への思惑から、2019年5月統一地方選後に方針を急転させた公明党ですから、信頼しかねるところです。
一方で特別区の行政コストを独自試算した自民の川嶋広稔市議は「全てオープンにして堂々と議論すべきだったのに、副首都推進局はなぜ数字を出してこなかったのか。本来は法定協で取り上げてほしかった」と憤った。
同じく反対する共産市議団の山中智子団長は「松井市長が計算するよう指示を出して、市民に説明を尽くし、それでも大阪市を廃止・分割するのかを市民に問うべきだった。多くの市民に特別区の本当の姿を知っていただきたい」と話した。
世の中に存在しない架空の数字を発表することは『捏造』と厳しく注意され、この試算が虚偽のものだという認識に至った」という趣旨を語りました。東・大阪市財政局長の追い込まれた姿は哀れそのものです。
毎日新聞の大阪市財政局長「捏造お詫び会見」記事は次の通りです。
(毎日新聞 2020.10.29.22:58 報道)
大阪市4分割コスト試算「捏造」
市財政局 2日で一遍、松井市長面談後
大阪市財政局の東山潔局長は29日夕の緊急記者会見で、市を四つの自治体に分割すると行政コストが現状より年間218億円増加するとした局の試算を撤回した。わずか2日前に毎日新聞の記事について「きちっと書いてある」と述べていた局長は「試算そのものがあり得ない」と見解を一変させた。「大阪都構想」の住民投票を3日後の11月1日に控え、市財政部門のトップは言いよどみながら、自らの試算を「捏造」と表現した。
「誤った考え方に基づき試算した数字を報道してもらったことで、報道各社や市民に誠に申し訳なく、深くおわび申し上げます」。午後5時半から始まった記者会見の冒頭で深く頭を下げた東山局長。中断を挟んで2時間以上に及んだ会見で、謝罪を繰り返した。
会見によると、東山局長は29日午後、大阪都構想を推進する大阪維新の会代表の松井一郎市長と市役所本庁舎で20分ほど面談。事情を説明し、「公務員として捏造と評価されても仕方ない」と厳しく注意され、夕方の会見に臨んだ。
市中枢の財政局が作成した試算は人口減の要素に限定し、それ以外の要素を加味しなかったために市長から「架空の数字」と指摘されたという。このような経緯を「捏造」とすることに報道陣からは疑問視する質問が相次いだ。東山局長は「当初はスケールメリットの参考になると思って算定したが、市長の指摘を受けて捏造だと認識した」と自身に非があると語った。
都構想で設置される特別区の財政運営は11月1日の住民投票で市民の大きな判断材料になる。財政局は毎日新聞の取材に「需要額の試算は特別区のデメリットの一つの目安にはなる」と説明していたが、この日の東山局長は「当初は意味があると思って出したが、間違った方法で出したことに責任を取るべきだと思った」と説明。会見では質問に対して数秒間沈黙するなど、終始厳しい表情を浮かべて、謝罪を繰り返した。
東山局長は、9月下旬に担当者が毎日新聞以外の報道機関から需要額の算出を求められた際、「『プレッシャーで何か出さなければならないと感じた』と話している」と説明。取材者による誘導があったとの認識を示したが、「不都合なことがあったら全て記者の誘導になってしまう」などと報道各社からは反発の声が上がった。
◆大阪市財政局長記者会見の主なやりとり
大阪市財政局の東山潔局長が29日夕、市役所で緊急の記者会見を開いた。報道陣との主なやりとりは次の通り。
財政局長 大阪市を4市に分市した場合の基準財政需要額の資料について、本日、市長に考え方を説明し、市長から厳重な注意を受けた。「世の中には存在しない架空の数字を提供することはいわば捏造(ねつぞう)だ。資料を提供した財政局のガバナンスの問題だ」と。(今回の試算は)いわば虚偽のもので実際はありえないものだという認識に、市長に説明した中で至った。報道各社や市民に誠に申し訳なく、深くおわび申し上げる。
――試算を「虚偽」とした評価の根拠は。
財政局長 当初は人口段階のみの補正を適用することで算出した。ただ市長に説明した折、他の要素を捨象して算定するというものは交付税の実態の算出上考えられず、ありえない架空の数字だという厳しい指摘を受けた。
――今日、市長と話して計算をしたこと自体が間違いだったという認識に至ったのか。
財政局長 そうだ。非常に簡略の方法で架空の数字を出す考え方自体が誤りだった。
――最初に取材対応した時、試算は意義があると思ったから答えたのか。
財政局長 その数字はスケールメリット減の一つの参考になると。意味があると思って出した数字だからこそ、間違った手法で出したことに深く責任を感じている。
◆多角的に取材・報道
毎日新聞は今回、大阪市財政局への適切な取材や提供資料に基づき試算を正確に報じた。
試算は標準的な行政サービスの実施に毎年必要なコスト「基準財政需要額」について、大阪市を単純に四つの自治体に分割した場合に現在よりも約218億円増加するとの内容だった。市財政局の説明を受け、報道では大阪市を四つの特別区に再編する大阪都構想を前提にしたものではないことも明示。市財政局への確認作業や総務省、専門家への取材も重ねた。
今回の試算を巡っては、都構想の制度案を議論する法定協議会で、自民党が同様の行政コストの公表を求めたが、最後まで算出されなかった経緯がある。
報道は都構想の賛否を問う住民投票の告示後だったが、市財政局は毎日新聞の取材に対し、「4特別区の行政コストを考える一つの目安になる」と説明。特別区移行後の財政見通しは賛否両派の主要な争点になっている点を踏まえ、毎日新聞は有権者の判断材料になる有益な情報になると判断した。
(時事通信 2020.10.29.19:48 報道)
都構想コスト増は「大誤報」 維新・馬場幹事長、衆議院代表質問で反論
「重大な誤情報を1面トップに掲載した。あってはならない事態だ」。大阪都構想を推進する日本維新の会の馬場伸幸幹事長は29日の衆院本会議で、11月1日の住民投票を前に、都構想が実現した場合は行政コストが増大するとした一部報道を「大誤報」と批判した。報道を「逆風」と捉え、全国放送される代表質問で反論した形だ。
報道は大阪市の試算として、都構想で市が4特別区に分割されれば、行政コストの目安となる「基準財政需要額」が増大すると指摘していた。これに対し、馬場氏は「基準財政需要額は府と特別区を合算して初めて意味を持ち、現在の府と大阪市の需要額と同額になる」などと主張した。
(注) 公表された大阪市財政局は計算根拠を明らかにしています。これを一方的に国会で非難するのは道理が通らない。まして公表されたものを報道して「大誤報」と罵られてはたまらない。 日本維新の会代表である松井一郎大阪市長と、日本維新の会幹事長である馬場伸幸衆院議員による無法な報道弾圧です。
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