数年前から、昭和三十年代がノスタルジックに回顧されることが多くなった気がする。始まりは「ALWAYS 三丁目の夕日」辺りからだろうか。
私はあの映画を見たけれど、きれいに纏められすぎていて、あの時代のまだ戦後の混沌(汚さと貧しさ)を引きずった空気感が充分に出ていないように思った。
この本の中では「こうあってほしい過去」として歴史は作られるものだと言っていて、まさにその通りだと思った。
この本は本来なら評論として書いてもいいところを、岩波書店の編集者数人と、当時の小説、映画などを参考に共に考えるという体裁をとっている。そこが面白いと思った。編集者はおそらく昭和三十年代よりも後に生まれた人ばかりであろう。
その人たちがその時代の作品に触れてどのように感じるか、それを受けて、著者があの時代とは何だったのかと再び考える相乗効果がうまく機能していると思った。ALWAYS・・・への違和感の答えと読んでもいいと思った。
松本清張、三島由紀夫、サガン、南極探検、北朝鮮帰国運動、裕次郎と日活映画、吉永小百合、東京オリンピックなど、どれもリアルタイムに記憶しているので、この本で相互のつながりなどを再確認し、私の中で整理し直した。若い人には半世紀前のリアルな歴史として読んでもいいと思う。
この中で著者は昭和三十年代は教養の基礎に小説を読むということがあり、今では信じられないことだけど、人々は競って小説を読み、作家の裕福な時代だったそうで。
ノスタルジーに流されることなく、正確に時代を再現する姿勢に好感を持った。中味は濃いけれど読みやすいです。作者の分析力に説得性があるからでしょう。興味ある方にはお勧めの一冊。