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「綴られる愛人」 井上荒野

2019-06-16 | 読書

匿名の文通を通じて出会った二人、35歳の女性童話作家と21歳の地方の冴えない大学生が、身元を偽った手紙のやり取りだけで疑似恋愛をし、女の依頼で夫を襲撃までしてしまう話。

スリリングで面白かった。推理小説として読むと、襲われた夫が事件の時の様子を全く警察に話をせず、警察の捜査もやや詰めが甘いかなと思うけれど、この小説の勘所は、手紙の力だけで、言葉の力だけで人を好きになり、異性として欲情し、自分のものにするために殺人までしようとする、その力の大きさ。

身元を隠して話を少し盛り、ゲーム感覚で手紙のやり取りをするうちに、お互いの心臓をわしづかみするような言葉のやり取りに陥っていくところが特に面白かった。

げに、言葉とは不思議。そしてとてつもないパワーも持っている。

まあこうしてブログを書くのも似たようなものかもしれない。匿名で、読んでもらいたいために楽しい話やきれいで珍しい写真、時には読者に心地よくなってもらうために、疲れたとか、病気がちとか、年金少ないとかの少しだけ不幸な話。大きな不幸は人に伝染してもいけないので、あくまでもプチ不幸。そんなことを私は心がけています。

不幸2割、普通の記事7割、嬉しいことは1割程度にとどめて人の反感買わないようにする。

考えて見れば、今の時代は誰もが誰に向かってでも発信できる時代。ほとんどは世間話の類ということでは日常会話と同じ。いいじゃないの、それで気が晴れるなら。


小説の話に戻ると、言葉の魔力というものに焦点を当てた力作。担当編集者である夫のパワハラぶりも読みどころ。この人、なんでこんなに夫におどおどするのと歯がゆい。

でもそれも一つの愛の形。逃げないうちは逃げられない。でもどうしても逃げるのだと決心すれば、すぐに逃げられると思う。彼女の場合、逃げ場所が匿名の文通、大学生は普段の生活はいい加減なのに、真に受けて彼女のために何とかしようとする。メールだとこんなに込み入った話はなかなか打てない。字数制限もあるし、読み直すうちに正気に戻ってあほらしくなるかもしれない。

手紙という古典的コミニュケーションのツールの特性をよく生かした設定だと思う。

日本の警察はもう少し優秀と思うので、人妻を愛してしまった人もくれぐれも真似されませんように。

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