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テレビのニュースは、ニュース映画を参考にしていました。
ニュース映画では、項目毎に違う音楽がかぶさっていました。
テレビニュースでも、ニュース頭の、とりきりのテロップからLPレコードの音楽を
かぶせていました。
明るい話題は軽快で明るいもの、悲しい話題は沈んだ音楽が流れました。
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主調整室のニュース送出卓には、ニュース技術者に交じって、
LPレコードを流すAさんがいます。
Aさんは、ニュースをプレビューして、レコード室のレコードを選んでいます。
Aさんはクラシック愛好家で、市内の音楽会によく出かけていました。
彼はクラシック、軽音楽を問わず、多くの曲のイメージがメモリーされています。
ニュースのプレビューで曲目が即座に選び出せます。
しかも、彼は、ひとつのニュースの項目に2種類のレコードを用意していました。
LPプレーヤーは二連です。ターンテーブルは直径50センチほどの大きな砲金製です。
分厚いフェルトが敷いてあります。LPレコードは30センチですから、
ターンテーブルの方が一周り大きいです、
Aさんはターンテーブルにレコードを乗せて、オイルダンプのピックアップを
目的の溝のあたりに乗せてターンテーブルのフェルトを左手で正逆に少し回します。
プレーヤーのモニタースピーカーから、「ブーッ…」曲の頭が聞こえます。
そこがニュースの項目で使う曲の頭が出ます。
横のプレーヤーも同じようにレコードの頭出しをしてスタンバイします。
プレーヤーに別の曲を頭出しをする理由は、他局のネットニュースの音楽と
ダブらないようにするためです。かって、他局のネットニュースで
Aさんが選んだ曲を先に使われたことがあったそうです…。
ニュース送出が近づいてくると、ターンテーブルのフェルトを左手で押さえたまま、
プレーヤーのモーターのスイッチを入れます…。
フェルトを左手で押さえていますから、ターンテーブルは回っていますが、
フェルトでスリップしてレコードは回っていません…。
とりきりテロップに映像が切り替わったとたんに、右手でプレーヤーの
アッテネーター(音量調節のツマミ)をさっと上げて、
フェルトから左手を離します…。
見事、テロップに合わせて音楽がスタートしました…。
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LPレコードのことを皿といっていました。
Aさんの仕事を「皿回し(さらまわし)」というのが業界用語です。
厳しい仕事なのに、いやな用語です…。
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