■■【経営コンサルタントのお勧め図書】外国人から見た日本(1)
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
■ 今日のおすすめ
『イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」』
(著者:デービッド・アトキンソン 講談社+α新書)
■ 「日本」、「日本人」とはについて謙虚に考えてみよう(はじめに)
戦後70年を迎えた今日、日本は「失われた20年」から抜け出せるのか、まさに、その大切な節目に置かれていると言えるのではないでしょうか。このような時期に、「日本」、「日本人」について『強み』『弱み』は勿論、日本の文化、日本人の特性等について客観的に理解し、経営に生かしていくことは、P・E・S・T(政治・経済・社会・技術)の大切な課題ではないかと考え、「外国人から見た日本」というテーマで、シリーズでご紹介したいと思います。
初回は、日本に25年在住しているイギリス人デービッド・アトキンソンの見た日本・日本人論です。著者はゴールドマン・サックスやアクセンチュア(旧アーサー・アンダーセン・コンサルティング)等のコンサルタント、アナリストを経て、現在は文化財補修の最大手「小西美術工藝社」の社長を務めています。著者は「小西美術工藝社」のオーナー(会長)から引き抜かれて、社長に就任するわけですが、このオーナー(会長)が自社の経営を託せる外国人を後継者として探していたこと自体が、明日の日本企業の成長・発展への一つの鍵を示していると思いました。それはまさに、著者のいう『弱み』を『強み』に変えていくマネジメントの一つの手法そのものでした。横道にそれてしまいましたが、早速、著者の見た日本の『強み』『弱み』のポイントをご紹介しましょう。
■ イギリス人の見た日本の『強み』と『弱み』
【日本の戦後の高度成長は当然の帰結】
著者は、日本人(労働者・サラリーマン)の、細部にこだわる「真面目さ」、手先の器用さによる「高い技術力」、怠けず高いモラルを持って仕事に取り組む「勤勉さ」は肯定します。しかし、それが日本の戦後の奇跡的な成長神話に繋がったという考えには同意しないのです。日本の経済成長は人口増加要因という好運によるものと結論付けるのです。
同じ敗戦国という点から、ドイツとの比較をしますと、GDPの増加についてみると、戦後(1945-2013年)において日本は+4,865%、ドイツは+2,605%と日本が驚異的な伸びを示しています。戦前の1939年(1939-2013年)と比較してみると、日本が+25,002%、ドイツが+15,080%とここでも日本が大きく伸びています。しかし、同じ戦前を起点とした期間(1939-2013年)の一人当たりGDPで見ると、日本は+1,437%、ドイツは+1,482%とむしろドイツのほうが高い伸びをしています。このことは何を意味しているのでしょう。著者は、数字に基づき客観的に見ると、日本の「奇跡的成長」は戦後の人口の激増(人口増〈1945-2013年比較〉:日本+76,6%、ドイツ+24,0%。〈1939-2913年比較〉日本+74,0%、ドイツ+1,8%。)という特殊要因によるところが大きく、「優秀な日本人」論は非現実的と主張します。
【日本人の「なあなあ文化」は『強み』か『弱み』か】
著者は、日本の『弱み』の象徴的数字として、日本の一人当たりGDPを挙げます。世界第3位のGDP、世界第10位の人口を誇りながらも、一人当たりGDPは27位(2014年)と低い。しかも年々順位が下がっていく。この事実を著者は「効率性」「生産性」の悪さの現れと見ます。
その要因として著者が挙げるのは、「面倒くさい文化」または「なあなあ文化」と表現しています。著者はそれを「woolly thinking(散漫な思考)」と位置づけ、対極に「good reasoning power(論理的に判断する力)」を置いています。その具体的事例として、「『数字・結果とかけ離れたプロセス(こだわり)』の重視、「『(本質的な議論を避け)その場の空気を大事にする』会議」、「『先人の生き様などの精神性に重点を置き、科学的な数字を軽視する』経営」、「終身雇用制(経営者と労働者のなあなあの産物)」、「『インテレ(intellectual)層(企業経営者、官僚、政治家などの支配層)の議論の焦点が定まらず、本質の特定もはっきりせず、改善などの進歩がなく、問題発生の後処理をする』政治・経営」などを挙げています。
つまり著者は、「good reasoning power」に弱い日本のインテレ層の存在を、日本の『弱み』と厳しく指摘しているのです。しかも、日本のインテレ層には、「good reasoning power」に強い理系の出身者が少ないと指摘します。
「woolly thinking」は、人口増加時代は、社会秩序を治めていく点で『強み』として作用したかもしれないが、「より良い社会、より良い企業を目指した運営」をしなければ、持続性が維持されない時代では、『弱み』となっていると著者は主張します。
【日本人の「自己中心文化」は『強み』か『弱み』か】
著者は、「海外では、日本人は単一民族で協調性があり、自己表現が乏しいと言われています。しかし25年も住んでみると、欧米に比べて『個人主義』が強い印象を受ける。」と語っています。『個人主義』は幅の広い意味を持っていますので、「自己中心文化」とすると、著者の意図に近づくと思います。
「自己中心文化」の結果として著者が挙げる事例は、「町並みが綺麗になるより自分の土地を守るほうが優先される行動」、「自分の庭は綺麗にするが、隣が汚くてもあまり気にしない行動」、「成田空港の滑走路の真ん中に個人所有の土地が残っている事実」、「(官の省益を優先する)非効率な縦割り行政」、「行過ぎた『職人魂』が作るガラパゴス商品」などを挙げています。
また、IMD(国際経営開発研究所)の「世界競争力ランキング(2015年27位)」の順位の下がり続ける一番の要因になっている日本の財政の世界最悪の赤字については、「(個人主義の)国民の支持を得るため、減税を行い結果OECDの平均より5%低い税率でありながら、社会福祉支出の対税金比率はOECDの平均より15%も高く、それが世界最高レベルの貯蓄と世界トップの国債の両建てを生んでいる」と指摘し、「自己中心文化」の結果であると著者は言います。
元国連高等弁務官の緒方貞子氏の「孤島に繁栄はない」と言う言葉が浮かんできます。今こそ、視野の狭い思考・文化という『弱み』から抜け出す時ではないでしょうか。
【人口減少の時代こそインテレ層の『弱み』を『強み』に変えるとき】
著者は、woolly thinkingをするインテレ層の『弱み』も、人口が増加している時代は、日本人(労働者、サラリーマン)の「真面目さ」「高い技術力」「勤勉さ」と言う『強み』に支えられ、表面化することなく、日本全体として順調に歩んできたと言います。
しかし、バブルの崩壊に続く労働力人口減少時代に突入すると、インテレ層の『弱み』が表面化し、「失われた20年」に突入したと著者はいいます。ここから脱出するためには、インテレ層の『弱み』を認識し、意識改革と構造・仕組改革をする時に来ていると著者は主張します。
■ 明るい未来に向けて(むすび)
著者は最後に言います。「高度経済成長時代にもてはやされた過去の栄光にひたることなく、ましてや身内同士で褒め合うことではなく、事実を客観的に見つめて、この日本の何が成長できて、何に将来性があるのかを、感情論を抜きにして冷静に話し合うことが大切ではないでしょうか。そうすれば、日本の素晴らしい基礎能力を最大限に発揮でき、明るい未来があります。」
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm
http://sakai-gm.jp/
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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