ごっとさんのブログ

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ゲノム編集と「人間の領域」

2018-07-10 10:37:01 | その他
クリスパーと呼ばれる新しいゲノム編集技術が登場し、あらゆる生物の遺伝子を意のままに書き換えることが可能になってきました。

この技術はさまざまな生物学現象の解明や食糧生産、遺伝性の病気の治療などへの応用が期待される一方で、デザイナーベイビーやスーパーヒューマンの登場も現実味を帯びているようです。

これまで神の領域とされていた遺伝子情報を人間が自由に操作することの是非が、今後倫理面でも議論されることが必至という意見があります。このあたりは私はあまり問題視していませんが、新しい技術が汎用化されると必ず出てくるような話しかもしれません。

クリスパーは英文の頭文字を取ったもので、直訳すると「クラスター化され、規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し」となります。

これは遺伝子情報のDNAには規則的に同じ配列が現出することを、大阪大学の研究グループが1993年に発見したことに端を発する技術です。この配列の繰り返し自体は、太古の昔細菌が作り上げたウイルスの侵入に対する防御機構であることが解明されていました。

その防衛機構を人為的に操作することで、狙った特定の遺伝子の書き換えに利用する技術が、2013年にアメリカとフランスの研究者によって開発されたクリスパー・キャス9と呼ばれる技術です。

1970年代に登場した遺伝子組み換え技術は食料生産に多く利用されてきましたが、従来の技術では外来遺伝子をゲノムの特定の位置に入れることが難しく、効率も悪いものでした。しかしクリスパーによって、狙ったDNAの書き換えを低コストで短時間のうちに行うことが可能となりました。

しかもその難易度も大幅に低下し、「高校生が学校の課題でできるレベル」という意見もあります。このように遺伝子編集のハードルが劇的に低下し、さまざまな遺伝子編集の実験が容易になったことで、すそ野が大幅に広がることはメリットも多くなってきました。

しかしこれまで一部の研究機関に限られていた遺伝子組み換えが、「誰でも容易にできる技術」になってしまうことで、新たに多くの問題が湧き上がってくることは必至という意見もあります。

例えば遺伝子疾患の予防に有効だとして、この技術を受精卵に用いることが認められれば、特定の身体能力を伸ばすような遺伝子操作を行う誘惑に、人間は勝てないのではないかというようなことです。

私はこのあたりは単なる杞憂で、遺伝子操作というものが始まった時から指摘されていることです。技術が簡単になったかどうかとは無関係な、科学研究の基本的な理念であり、科学者の倫理感は信頼できるものだと考えています。