ごっとさんのブログ

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「らせん高分子」と光学活性体 続

2019-02-08 09:43:37 | 化学
前回立体異性体(光学異性体)について簡単な説明を行い、そのD体とL体は光を当てた時の旋光性以外は全く同じ性質を持つことを書きました。

炭素原子は通常立体的構造を持っていることを述べましたが、実際に化学反応を行うときに活性化した炭素原子は平面的な構造となります。

そこに新たに結合させる分子が表側から攻撃するとL体となり、裏側から攻撃するとD体となります。通常の有機化学反応ではこの裏表を区別することはできませんので、同じ確率で新しい結合ができ、D体とL体が1:1となった化合物が生成します。

これをDL体とかラセミ体と呼んでいますが、これは1種類の化合物と考えられていました。ところが薬のように生体に作用する場合は、タンパク質でできた受容体や酵素は立体的に結合部位ができています。

つまりこういた結合部位は右手の手袋のようなもので、右手のようなD体はすっぽり結合しますが、左手のL体は全く入ることできないということが分かってきました。

それでも40年ほど前までは、DとLを分離する手段やその混合比を分析する手段がありませんので(その研究は進んでいましたが)、DL体を50%同じ構造で何の作用もないものが入っている薬として認められ使用していました。

ところが薬として右手の受容体だけではなく、全く別の受容体が左手の構造を持つ場合があることが分かったのです。その代表例がサリドマイドです。

D体のサリドマイドは非常に良い鎮静作用があり、睡眠薬として使用されていましたが、L体のサリドマイドは胎児に奇形を起こす作用があると判明しました。この事件もあり、薬はDL体ではなく一方のみ(これを光学活性体と呼びます)が望ましいことが分かりました。

そこに登場したが昨日紹介した「らせん高分子」で、これをカラムに詰めて液体クロマトグラフィーという操作を行うと、全く同じ性質のはずのD体とL体が分離できたのです。

なぜ分離できるのかはかなり難しい理論となりますので省略しますが、このカラムを使うことで簡便にD体とL体の比率(光学純度と言います)なども分析可能になりました。この後立体選択的な有機合成法などが飛躍的に進歩しましたが、これはらせん高分子カラムがあったことが大きく貢献したと思います。

私が酵素を使った立体選択的合成について学会発表した時、業界紙の記者の取材を受けましたが、この光学活性体の説明に非常に苦労した記憶があります。今回2回にわたってブログ記事としましたが、なるべく優しく書いたつもりですが専門外の人にも分かってもらえることを期待しています。