ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

ノーベル化学賞に「クリックケミストリー」の3氏が決定

2022-10-08 11:08:37 | 化学
今年もノーベル賞の発表の時期になりましたが、残念ながら日本人の受賞は今のところありません。

医学生理学賞に注目していたのですが、今回受賞内容はあまり興味を引くものではありませんでした。化学賞は簡単な化学反応により多彩な機能を持つ分子を作る技術である「クリックケミストリー」を開発、発展させた欧米の3氏が受賞しました。

このうちスクリプス研究所のシャープレス教授は、2001年に野依先生らと受賞していますので、2度目のノーベル化学賞となります。

今回の受賞の対象となったクリックケミストリーという言葉は聞いたことがあるという程度ですが、シャープレス教授が2000年ごろ、簡単な化合物を使って反応が迅速に起こり、不要な副産物をほとんど作らない反応の概念を提唱したものです。

その代表例が「銅触媒によるアジド-アルキン付加環化」と呼ばれる反応です。この反応は創薬や生命科学、材料開発などに広く利用されています。その後生体の正常な働きを乱さないように改良され、進行ガン患者向けの医薬品開発などに利用されています。

シャープレス教授は天然の高分子が単純なパーツをつないだだけの分子で、生命活動を運営できるほど複雑な機能を実現することができることに注目しました。

この自然のシステムに学び、比較的単純な部分構造どうしを高い反応性と選択性を持った炭素‐ヘテロ原子(炭素以外の原子)結合反応によって結びつけることで、新たな機能性分子を創出することを提案しました。

この反応の代表的なものが先に述べた、アルキンとアジド化合物による付加環化反応です。これはフーズケン反応として1960年代に開発されたもので、アルキンとアジド化合物が反応してトリアゾール環を作るものです。

この反応をクリックケミストリーの中心的な反応として位置づけた理由は以下のようなものです。
・アルキンとアジドは多くの有機化合物に導入が可能な官能基であり、基本的に安定である。
・アルキンもアジドもその他の官能基にはほとんど反応せず、お互いとだけ反応する。
・この反応は多くの有機溶媒や水中でも進行する。
・生成したトリアゾールは安定な官能基であり、再び分解することはない。
・収率よく進行し、余分な廃棄物を出さない。

こういった特徴によりこの反応は、クリックケミストリーの理想に最も近い反応とみなされています。近年はこのクリックケミストリーが医薬候補化合物など有用な化合物の探索に用いられています。

また高い官能基許容性を生かして、細胞内などでの分子修飾に応用されています。アジド基を持たせた糖誘導体を細胞内に取り込ませ、ここにアルキンと結合した蛍光色素を結合させることで、細胞内組織の可視化に成功しています。

たぶんこの辺りが評価されてノーベル化学賞受賞となったと思われます。ここでは内容の一部を紹介しましたが、あまり分かりやすい文章にはなりませんでしたが、有機化学者にとっては興味ある業績といえます。