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「ヒトの組織」を模した抗菌素材を開発

2021-05-21 10:23:04 | 化学
ヒトの組織内に含まれる微量元素である「亜鉛」は、血液や骨、筋肉や肌などに含まれ、細菌やウイルスから身体を守る役割を果たしています。

この仕組みに着想を得て、オランダの企業が亜鉛を独自の方法でポリマーやプラスチックに組み込んだ「サニコンセントレート」と名付けられた添加剤を開発しました。

この記事では免疫という言葉を使用していますが、単に細菌などの「疫」を免れるという意味で、ヒトの免疫システムとは全く関係がありません。

サニコンセントレートは使い方もシンプルで、さまざまなプラスチック製品の原料の3%をこの添加剤に代替するだけで、その製品にウイルスやカビなどに対する抗菌性・抗ウイルス性を与えられるようです。

その性能も高く日本産業規格(JIS)や国際標準化機構(ISO)に準じた試験では、99.9%以上の抗菌性を示しています。ウイルスに対してもISO準拠の実験で、種類や素材によって91〜99.9%の抗ウイルス性を示しており、2021年には新型コロナウイルスへの効果も証明されています。

この技術の肝は「菌を殺さない」という点にあります。サニコンセントレートに使われているのは亜鉛のみで、菌を殺すような殺生物剤やトリクロサン、銀といった物質が含まれていません。この技術の目的は菌を殺すことではなく、菌の付着を防ぐことにあるとしています。

菌の増殖は菌が物質の表面に付着し、栄養分を取り込むことで始まります。さらに菌がある程度まで増えると、クオラムセンシングと呼ばれるメカニズムが生じ、これは菌が集団行動をとり始めるための仕組みで、菌が一定数まで増えると毒素の放出やバイオフィルム形成などの行動を起こします。

この技術はそもそもこの菌を付着させないことによって菌の悪影響を防いでいるのです。この抗菌というアプローチは特に今の時代に大きな意味を持っています。現在世界中で使われている殺菌剤や抗生物質が、薬剤が効かないスーパーバグ(耐性菌)の発生につながっているためです。

この技術はこれまで排水パイプやコロナウイルス対策マスク、再利用可能なタンポンアプリケーターなどに使われてきました。こうした用途に加えて食の分野に進出しようとしています。

この添加剤を原料に混ぜたパッケージがあれば、その抗菌作用によって食品をより長い期間美味しく食べられるようになり、フードロス対策にもなりそうです。

このような菌を殺さないで、付着を阻害する素材というのはなかなか面白い着想のような気もしますが、これが大規模に実用化されるかはコストの問題にかかってくるのかもしれません。


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