内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

紫式部の生涯(十)― 千年後の今の世にも生き永らえる

2024-02-06 23:59:59 | 読游摘録

 『紫式部日記』の注釈書類から紫式部の生涯について記述された部分を摘録する作業は昨日で終えた。
 一般向けの書籍のなかで紫式部の生涯を知る上で私がもう一冊欠かせないと思っているのが山本淳子氏の『紫式部ひとり語り』(角川ソフィア文庫、2020年)である。
 紫式部の独白という「冒険的な」形をとった本書は、学術書ではもちろんなく、式部が自身の心情を語っている箇所には著者の文学的想像力に基づいたフィクションの要素が入り込んでいることは否定できないが、全体として、紫式部の生涯を知る上での絶対的第一次資料である『紫式部日記』と『紫式部集』に依拠しつつ、同時代の文学作品、紫式部をめぐる歴史資料、国文学・国史学の研究成果を十二分に取り入れて構成された「本人による証言、言わば打ち明け話」になっており、紫式部の「心」に近づく確かな道筋を読者に示してくれる。
 その「文庫版あとがき」に、この冒険的な方法は、「研究者として熟考の末に選んだものだった」と著者は記している。『紫式部日記』や『紫式部集』という、「紫式部が直接読者に語り掛けた作品を土台にする以上、それらと同じ方法をとることこそが、研究者として誠実だと考えたのである」とその選択の理由を説明している。その試みは見事に成功していると私は思う。
 同じあとがきの最終段落で著者が述べていることからは、その研究者としての誠実さ伝わってくる。

生き長らえば憂さばかりが募る、世というもの。しかし私たちの身には、ここ以外に居場所がない。だからただ生きていくのだと、紫式部は詠んだ。だがそうではないと、私は紫式部に伝えたい。あなたの作家としての人生は、千年後にまでその作品が読まれることで、今の世にも生き永らえている。だから私もあなたの思いを、一人でも多くの人々に伝え続けたいのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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1 コメント

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マルテンサイト千年ものづくりイノベーション (グローバル鉄の道)
2024-08-22 16:40:22
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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