
死のうと思いました。
死ぬのが本当だ、と思いました。
前方の森がいやにひっそりして、漆黒に見えて、そのてっぺんから一むれの小鳥が一つまみの胡麻粒を空中に投げたように、音もなく飛び立ちました。
ああ、その時です。
背後の兵舎のほうから、誰やら金槌で釘を打つ音が、幽かに、トカトントンと聞えました。
それを聞いたとたんに、眼から鱗が落ちるとはあんな時の感じを言うのでしょうか、悲壮も厳粛も一瞬のうちに消え、私は憑きものから離れたように、きょろりとなり、なんともどうにも白々しい気持で、夏の真昼の砂原を眺め見渡し、私には如何なる感慨も、何も一つも有りませんでした。
「人生というのは、一口に言ったら、なんですか」
と私は昨夜、伯父の晩酌の相手をしながら、ふざけた口調で尋ねてみました。
「人生、それはわからん。しかし、世の中は、色と慾さ」
案外の名答だと思いました。
そうして、ふっと私は、闇屋(やみや)になろうかしらと思いました。
しかし、闇屋になって一万円もうけた時のことを考えたら、すぐトカトントンが聞えて来ました。
教えて下さい。
この音は、なんでしょう。
そうして、この音からのがれるには、どうしたらいいのでしょう。
私はいま、実際、この音のために身動きが出来なくなっています。
どうか、ご返事を下さい。
死ぬのが本当だ、と思いました。
前方の森がいやにひっそりして、漆黒に見えて、そのてっぺんから一むれの小鳥が一つまみの胡麻粒を空中に投げたように、音もなく飛び立ちました。
ああ、その時です。
背後の兵舎のほうから、誰やら金槌で釘を打つ音が、幽かに、トカトントンと聞えました。
それを聞いたとたんに、眼から鱗が落ちるとはあんな時の感じを言うのでしょうか、悲壮も厳粛も一瞬のうちに消え、私は憑きものから離れたように、きょろりとなり、なんともどうにも白々しい気持で、夏の真昼の砂原を眺め見渡し、私には如何なる感慨も、何も一つも有りませんでした。
「人生というのは、一口に言ったら、なんですか」
と私は昨夜、伯父の晩酌の相手をしながら、ふざけた口調で尋ねてみました。
「人生、それはわからん。しかし、世の中は、色と慾さ」
案外の名答だと思いました。
そうして、ふっと私は、闇屋(やみや)になろうかしらと思いました。
しかし、闇屋になって一万円もうけた時のことを考えたら、すぐトカトントンが聞えて来ました。
教えて下さい。
この音は、なんでしょう。
そうして、この音からのがれるには、どうしたらいいのでしょう。
私はいま、実際、この音のために身動きが出来なくなっています。
どうか、ご返事を下さい。