80年代当時は金銭面や時間的制約で、ピックアップした曲しか聴けなかったアルバム。それらを1枚通して聴き直している昨今。
受験というしがらみだらけでひもじい少年期。そんな苦しい中聴いていた曲、カセットテープやレコードはどうしても離れられない。
OMDの「プロミス」もそんな中の一曲。
OMDとの出会いは、コーギスと同様、1981から1982年に渡る冬。
1981年12月クロスオーバーイレブンでエアチェックした1曲が「プロミス」。2枚目アルバム「オーガニゼーション」のB面に収録された曲。
受験に向けてくらくらするくらいに精神を切り詰めた日々の中で、この1曲は想い出深いものだった。
スペーシーに飛び散る電子音、調子っぱずれで下手なヴォーカル、、、。
全体は陰鬱なようにみえるのに、ほの明かりを感じる不思議な魅力があった。
何かにすがらないとバランスが保てない時期に、毎夜安息と救いをもたらしてくれる曲だった。
VIDEO
■OMD「Promise」'80■
・・・受験に慣れる為にしょっぱな受けた高校は、その年・春に開校される予定の新設校だった。下見を兼ねて受験要綱を取りに、とある辺鄙な駅で初めて降りた。そこは果てまで何も無く、冬の荒野があるばかり、といった具合の土地で唖然とする。
その日は、学校が終わってすぐそこに向かったのだけど、早々容赦なく日没が迫ってきた。初めて入ったその新設校で資料を貰い、くるっと帰路に入ってからの駅への一本道は、急激に冷え込んできた。この暗い帰り道に脳裏を「プロミス」が流れていた。たぶん数日前エアチェックしたんだろう。この曲には、あの一本道と冬かじかむシーンが焼き付いている。
今日もあくまで個人的な追憶。
「オーケストラル・マヌーヴァース・イン・ザ・ダーク」。。。英語で「Orchestral Manoeuvres in the Dark」。実に長いバンド名であるゆえに「OMD」と短縮した名前で呼ばれるようになる。とある音楽雑誌では「OMID」と書いている人がいたが、確かになぜ略語が「OMD」となるのか?いまいち納得がいかなかったが、その後すっかり「OMD」で定着してしまった。
バンド名に「オーケストラ」と入っているのは「YMO」の影響に違いない、と当時すぐ思った。
後に「ロッキンオン」のインタビューで、当人はそれを否定していたが、確実にYMOを聴いていて、何らかの影響を受けていて、それは曲の構成やメロディに出ていた。(後の「ジェネティック・エンジニアリング」に出てくる「中国女」そのままのフレーズには笑った。)
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OMDには大好きな曲・素晴らしい曲がいくつもあるし、想い出もたくさんあるのだが、はっきりしたバンドイメージの焦点が絞れない。出会いから今に至るまで、このふわふわした感じが続いている。アンビエント的な側面を当初から持っており、そこが彼らの強みという利点もあるが、反面では何かになり切れていないようにも思える。アンビエント的側面は、クラフトワークを愛し・彼らに影響を受けていたから持ち得たものだろう。
「エノラ・ゲイ」というヒットに恵まれ、一般的なロックやポップスのフィールドで扱いを受けることになったが、元々は違うフィールドの人々。
OMDの刻むテンポの遅さやもたつき具合や弱さは、ロックでもポップスでも無いように響く。元々、ドラムやリズムで構成していく曲作りなども考えていなかったのだろうし、一般的なポップス世界に彼らの音を置いてみると奇異な印象を感じる。1曲、3分や4分だけで決着をつけるつもりは当初無かったように思うが、結果論として、ヒットしたせいもあり、一般的なポップス寄りに軌道修正したように思える。
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よくピコピコサウンド、とテクノポップは当時表現されていたが、OMDには余りピコピコ感を覚えない。
クラフトワークを尊敬していて、確かにエレクトロニクス楽器を使ってはいるのだが、ついついメロディアスだったり、音のエッジを丸く削ってしまうからだろうか?しかし、メロディ中心曲とは別の方向性として、実験的、ノイジー、アヴァンギャルド、そんな類へ手を伸ばす試みもあり、そこにオリジナリティを感じる。
OMDは音楽のみならずジャケットデザインも含めて、ストレンジなイメージがある。じぶんがニューウェイヴに期待していたものは、別世界へいざなってくれる要素があることだった。ニューウェイヴには、見かけ倒しに終わってしまったものも多いが、OMDが異世界へと足を踏み込んだ作品をいくつも生んだことは事実だ。
OMD 「Organisation」
A面
1/「Enola Gay」
・一般的には、これがOMDで一番有名な曲かもしれない。日本では1984年から始まった深夜番組「CNNデイウォッチ」のテーマ曲だった。
この番組は、残念ながら亡くなってしまった久和ひとみさんや現在もTVにラジオに活躍されている小西克哉さんがキャスターをしていた。特別な番組ファンではなかったが、久和さんも小西さんもこの番組で初めて知った。「エノラゲイ」とは広島の原爆を投下した米軍機名称のため、レコードの邦題は「エノラゲイの悲劇」となっている。そんないわくつきの曲がニュース番組のテーマだったとは・・・。
曲名の主題を除けば、音自体はわかりやすいおおらかなポップスになっている。
2/「2nd Thought」
・鐘の音が響き、その後長く続くトーンのシンセ音が不安定でいつか止まってしまうように思える。そのふらつき感がとても素敵、と思ってしまう。
3/「VCL XI」
・まるでスティーヴ・ライヒを思わせるミニマルなリピート音から始まる。だが、木琴風の音がころころしたメロディを奏で出したら、現代音楽とは無縁な世界となる。どんどこさっさどんどこさっさ。。。と曲が進行する。素朴なポップス風の曲。
4/「Motion And Heart」
・スパイ音楽風のメロディ、野太いシンセベースの音などを交え、A-3に続いて実にポップな曲に仕上がっている。
5/「Statues」
・陰鬱に沈んだ曲が元々とても好きなので、陰鬱なまま始まり・陰鬱なまま終わっていくこの曲が個人的には好きだ。しばらく、この曲だけを繰り返し聴いた日があった。一瞬、同時期にシンセサイザーを取り込んだバンドとしてデペッシュ・モードの音楽がよぎったが、まあ、あくまでよぎるだけで相互関係はない。また、キュアーの大好きな「灰色の猫」に気配感が非常に似通っている。これもただ単に似ているだけである。そもそもキュアーのこの曲が入った「フェイス」は1981年の作品。
一方このOMDのアルバムが発表されたのは1980年10月。この曲「Statues」は当年1980年5月に亡くなったイアン・カーティスについて歌った曲、と言われている。それこそジョイ・ディヴィジョンのカバーをOMDがやるとこうなるんだろう。
彼らは「自分らが音楽を創るとどうしてもメロディアスになってしまう」と自画自賛気味に言っていた事があったが、この曲にはそれが無い。良い意味でのシリアスさが漂っている。
B面
1/「The Misunderstanding」
・最初一分あまり、不穏なアトモスフィアが続くので、ついレコードはちゃんと回っているのか?と不安になって確認してしまう。ここでも、不安定なシンセサイザー音が背後でギュンギュン唸っている。この曲もデペッシュやキュアーをつい想起させる箇所が多い。
2/「The More I See You」
・OMDのオリジナルと思いきや、クリス・モンテスという方の1966年の作品のカバー。原曲の乾いた感じとは全く違うねっとりした曲に仕上がっていて、ヴォーカルがそれこそイアン・カーティスみたいな歌い方に聴こえる。
3/「Promise」
・隠れた名曲。
4/「Stanlow」
・OMDの曲には、よく船の航行を見ているような感じを覚えるものが多くあり、美しいたゆたいに酔う。この曲の冒頭も海辺の風景が浮かぶ。その船はどこから来て、どこへ行くのかも不明なまま、音を立てて通り過ぎる。