入院することになった身内のため、ここ数日神保町をほつき歩いていた。唐突に時間が出来て久しぶりに歩いた神保町は、また前回よりがらりと変わっていた。歩く人たちを含めて、街全体がホワイト社会に犯され、漂白されたみたいにきれいになっていく。その分、さらにそっけなく見え出した令和の街。
神保町との付き合いは初めて歩いた小学生時代に始まり、浪人時代には毎日居た。また大人になってからも週末には毎週ココに居る時期があった。そんな長年付き合った時代は遠くになった。
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この数日 延々と変わっていく変化に呆然としながらも、まだ昔ながら続く古本屋さんや路地を巡り、偶然出会えた本やレコードを買った。
その後お腹が空いて昼食場所をさがして歩いたが、油そばにラーメンに・・カラダに悪そうな高い麺類のお店がいっぱいで、ふつうのお店が無い。外には学生等が並んでいた。寒空の下、座りスマホで待つ人までいる始末。私には入りがたい店だらけ・・。歩き疲れて迷った末、やはりここは安定の日高屋にしようと諦め、いつもの店を目指した。。。しかし、その店に行くと、そこは空き地になっていた。
仕方なく妥協して、次に目指したのは安定の中華屋さん。そこならスカは引かないだろうと探して、手近な店に入る。中国人の店員に案内され、カベに向かう一人席に通されたが、テーブルからスマホで注文するシステム制と知りオロオロ・・etc・etc・・。
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過ぎ去りし日々を思いながら、その過去と似て非なる街を歩く。そんな中聴いていたのが、ロバータ・フラックのアルバム。最近たまたまめぐり合わせで手に取ったCDは、彼女の1970年作品だった。2枚目のアルバム「第二章(Chapter Two)」。iTunesに取り込んだはいいが、なかなか聞けずじまいだったこのアルバムを取り出し、神保町を歩く道で初めて聴いた。8曲入り約38分。何度も繰り返し聴くうちなじんでいく。
まるで胃薬が胃の粘膜を覆って修復していくように、音がトゲトゲした日々の暮らしで傷み切ったココロに、優しくそっと触れてくる。とがったキズを丸く覆ってくれる。私にとってこのアルバムは、予定調和的にもっともらしい静かな部屋で聴くよりも、昔過ごした街の雑踏の中で、或いは歩き過ぎ行く風景の中で聴く方が沁み入るようだ。ジャズボーカルのテイストと文字にして分類してみせることは可能だが、語ってしまうと消え入りそうな微細な音のニュアンス。そこに向かい合う。
■Roberta Flack「Until It's Time for You to Go」1970■