張り替えたばかりの弓毛には、どんな松脂でもかなりの回数を塗らないと松脂が乗りません。
それは弓毛に油分が含まれていて、松脂が滑って食いつきが悪いからです。
それでも、20回くらい塗ると何とか松脂がついていきます。
ところが、弓毛の中でも本当に乗りにくいものがあります。
これは、既存の松脂全てにおいてでもです。
通常、ヴァイオリン用の弓に使われる弓毛はそのほとんどが軽く脱色したものです。
塩酸や硫酸などを使って、軽く脱色しています。
馬毛そのものは普通茶色のものが多く、弓に使われているような白い馬毛というのは殆どありません。
それらの馬毛の中で、比較的白っぽいものを擦弦楽器の弓毛にしています。
ですから発売されている馬毛のブラシなどは茶色が多く稀に黒もあります。
デザイン的に少し白っぽ毛を使ったりはしていますが。
その比較的白に近いものを軽く脱色してヴァイオリンの弓に使います。
全体に同じくらいの白さですね。
ヴァイオリン用の物を脱色するのは見た目の問題で毛ではありません。うろこ状になっているキューティクルの先端が少しだけ丸くなり楽器を弾いた時に音に滑らかさが出てきます。
ところが、チェロやコントラバスなどですとその太い弦の鳴らし引っ掛かりが多少弱くなります。
そこでかなり多く使われているのが、無脱色の馬毛です。
少しづつ茶色っぽい毛が混ざっています。
無脱色の馬毛はかなり強い引っ掛かりを感じられます。
ところがです、無脱色ですから、馬毛は集めた時に多少お湯で洗うくらいなのです。
当然、元の馬の油が多く残っています。
馬は、数十年お風呂へ入ったりしませんから。
この油分が今度は松脂を付ける時に邪魔をします。
同じ無脱色でも、日本の業者さんの物は、業者さんが日本に仕入れてからも再度洗ったりしているようですが、たまに中国から来たそのままの無脱色を張っている工房もあるようなのです。
希にですが、全く松脂が乗っていかないものもあります。多分そんな経験をした方もいらっしゃるのではないでしょうか?
右の物のように周りに油分と松脂の粉が固まってしまうようなこともあります。
このような時には、細かい紙やすりでこの周りの固まった松脂をこすり取ってください。
そして、以前から勧めていますように、アルコール系の眼鏡拭きで塗っていた弓毛を何回か、、3,4枚使って拭き取ってください。
なかなか松脂を紙ヤスリで削るなど、やったことも無い人もたくさんおられると思います。
そんな時にはどうぞ光舜堂へ、お問い合わせください。
info.koshundo @gmail.com
弓毛を触るなというのは西洋楽器の弓を扱う時の鉄則になっています。
それは松脂を付けて馴染んだ後の事です。
指で触ればその部分の松脂が乱れて演奏に差し支えるからです。
なにしろ擦弦楽器の最初の音は松脂が引き出すのですから。。
ところが、新しい馬毛は、職人さんが素手で触って、ブラシで整えるのです。
そして、洗ってもいません。無脱色の場合はなおさらです。
最近は工房によっては弓毛を通性洗剤で洗ってから張る工房も増えてきています。
ですから、却って最初にアルコール系の眼鏡拭きで弓毛を拭くというのは良い事なのです。
汚れやほこりを取り去りかえって松脂本来の性能を活かすことなのです。
再度言います。
張り替えたばかりの弓毛は、馬毛の汚れや作業場のほこりなどが付いている状態です。特に無脱色の物は。
それらを取り去ることの方が音的には良いのでしょう。
但し、松脂を塗って馴染んでからは弓毛に触らない方が良いでしょう。
チェロやコントラバスの弓毛を張り替える時には、脱色か無脱色かは工房に聞いてみたらいかがですか?
松脂工房光舜堂西野和宏&ほぉ・ネオ