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続・持続可能的計画経済論(連載第2回)

2019-10-03 | 〆続・持続可能的計画経済論

第1部 持続可能的計画経済の諸原理

第1章 環境と経済の関係性

(1)科学と予測  
 持続可能的計画経済の最も基礎的な土台を成すのは、あれこれの経済理論以前に、科学に基づく環境予測である。なぜなら、持続可能的計画経済は将来起こり得る地球の環境悪化、地球の環境的な死滅を本質的に食い止めるための経済構造的な施策だからである。  
 その点で問題となるのが、果たして科学は予測という営為に耐え得るかどうかである。科学は分析的な知的営為の蓄積で成り立っているところ、分析とは通常、すでに発生している何らかの事象の要因や発生機序などを解析し、解明する営為であり、将来発生し得る事象を予測することは必ずしも本意でない。  
 このことは、例えば、地震のような災害の予知という試みが献身的に行なわれながら、的確な予知の方法論が未だに確立されていないことに現れている。災害予知に対する悲観論も根強い。発生した災害の分析はできるが、発生し得る災害を精確に予知することは無理ではないかということである。  
 たしかに、具体的な災害の発生を精確に「予知」することは至難の業であろうが、災害はある日突然に発生するというものではなく、自然の長期的な変動のプロセスを経て、ある時点で災害という形で発現するのであるから、そうした災害に結びつく自然の変動を認知し、長期的な「予測」をすることは可能であろう。  
 これをまとめれば、科学的予知は至難だが、科学的予測は可能ということになる。持続可能的計画経済が土台とするのは、そうした科学的予測としての環境予測である。実際、科学的な環境予測は現在喫緊の問題となっている気候変動をめぐって近年盛んに行なわれている。  
 しかし、こうした気候変動予測は、しばしば懐疑論者による拒絶にあっている。しかも、懐疑論者またはその影響下にある政治家が台頭して、気候変動予測に基づく環境施策を否定したり、緩和したりすることもしばしばである。  
 およそ科学的予測の宿命として、絶対確実な結論を導くことは困難である。この点は、既発生の事象を解析する場合との相違であり、未発生の事象を予測することは、その性質上、修正の可能性を内包した確率論にならざるを得ない。そのため、懐疑論の出現を排除することはできない。  
 そこで、科学的環境予測は、懐疑論の存在を意識しつつ、修正可能性にも開かれた形で、長期予測と短期予測とを区別し、長期予測は一つの可能性の提示にとどめ、確率の高い短期予測を軸に構築するべきであろう。
 そのため、科学的環境予測を個別具体的な経済計画の基礎とするに当たっても、短期予測をベースとした比較的短期の経済計画(3か年計画)に反映させることになるのである。それに対して、長期予測は次期以降の計画の方向性を見通す参照資料となる。

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続・持続可能的計画経済論(連載第1回)

2019-09-20 | 〆続・持続可能的計画経済論

序言

 筆者は地球環境の保全を主要な目的とする持続可能的計画経済という構想に関して、すでにその概要を論じた連載を公表しているが、そこでは実際に持続可能的経済計画をどのような原理に基づいて、どのように策定するかということについては、詳細に論及しなかった。  
 しかし、持続可能的計画経済を理念的な構想に終わらせないためには、実際の経済計画をどのように策定するかということに関する具体的な原理や技法を必要とする。そのため、改めて、如上の問題に特化した前連載の続編を展開する次第である。  
 持続可能的計画経済の原理とは、簡単に言えば、環境経済学と計画経済学とを組み合わせたものであるが、現時点での環境経済学はほぼ例外なく市場経済モデルを当然の前提としたものであって、計画経済モデルと結合させる試みはまともに行なわれていない。  
 しかし、地球環境の保全が喫緊のグローバルな課題となっており、とりわけ地球の平均気温を数値的にコントロールすべきことが科学者から提言されている時代には、生産活動の物量と方法の双方にわたってこれを計画的に管理することが不可欠であり、生産計画を個別企業の利潤計算に丸投げする市場経済モデルでは課題に解を与えることはできない。  
 一方、計画経済の原理を提供する計画経済学については、かつて計画経済のモデル国家とみなされていたソヴィエト連邦(ソ連)における70年近い経験と蓄積があったが、ソ連の解体後はその盟主ロシアを含めた旧ソ連構成共和国の大半が程度差やモデルの違いはあれ、資本主義市場経済へ転換したことにより、忘却されてしまった。  
 とはいえ、ソ連の計画経済モデルは遅れた農業経済国を短期間で工業国へ発展させるための開発計画の一種であり、そこでは環境保全の視点はほとんど無視されていた。しかも、それは国家に経済運営の権限を集中させるという国家全体主義的な政治理論と結びついてもいた。  
 そうした点で、ソ連の計画経済学はすでに時代遅れのものであり、これを単純に復活させることでは解決しない。とはいえ、計画経済の技法という点では、精緻な数理モデルの開発も進められていたソ連の計画経済学の遺産は改めて参照・再利用される価値を秘めている。  
 当連載では、現代の経済理論における最前線の花形でもある環境経済学と、すっかり忘却され、ほこりをかぶっているかに見える計画経済学という新旧の経済理論を結合して、持続可能的計画経済のより具体的なモデルを構築することを目指してみたい。

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