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共産法の体系(連載第33回)

2020-05-09 | 〆共産法の体系[新訂版]

第6章 犯則法の体系

(5)矯正処遇の諸制度②
 前回触れたように、矯正の必要度が高い反社会性向の進んだ犯則行為者には矯正施設での矯正処遇が実施される。この矯正処遇の細分類については、政策的に様々なものを想定できるが、処遇制度は簡明かつ人権上も配慮されたものであるほど望ましい。
 その点、共産主義的犯則法における矯正処遇は刑罰とは異なり、罪の重さに比例した懲罰ではないので、その期間ははじめからx年、y年・・・・というように数字的に提示されるものではない。
 しかし、人権の観点からすべての処遇を無期限とすることも適切ではないので、予め法定された期間を一単位=タームとし、矯正の進展度に応じてタームを更新していく「更新ターム制」が適切と考えられる。
 ここで、タームは予め法律で期間を定められた矯正プログラムの一単位を意味する。そしてタームの基本単位は対象者の矯正の必要度に応じて第一種から第三種まで三段階のランクが設けられ、ランクが上がるごとに1タームの年数も二年きざみで長くなる。
 例えば、第一種矯正処遇のタームは一年、第二種矯正処遇のタームは三年、最大級である第三種矯正処遇のタームは五年といった按配である。このタームを矯正の進展に合わせて、更新していくことになる。
 こうした矯正の必要性の度合いに応じた細分類と同時に、個々の犯則行為者の犯行原因として精神疾患やパーソナリティ障碍のような精神医学的要因が認められる否かを基準とする細分類が与えられる。
 鑑別の結果、それらが認められない場合をA処遇、認められる場合をB処遇と名づけるとすると、上掲各級の矯正処遇のそれぞれをA処遇とB処遇とにふるいわけるのが、最も細密な分類となる。
 最大限の矯正処遇をもってしても社会復帰可能な程度にまで矯正が進まないケースを想定して、対象者を終身的に拘束する終身監置は矯正処遇の限界点を示すが、これとて終身刑のような刑罰とは異なるので、一切の矯正的働きかけを放棄することなく、矯正が進んだ時点での社会復帰の余地は残される。

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共産法の体系(連載第32回)

2020-05-08 | 〆共産法の体系[新訂版]

第6章 犯則法の体系

(4)矯正処遇の諸制度①
 共産主義的犯則法は刑罰制度を持たない代わりに、犯則行為者の矯正及び更生を促進するための処遇諸制度を用意する。それらはいくつかの観点から分類整理することができるが、まずは対象となるものが人か物かにより、対人的処遇と対物的処遇の区別がある。
 このうち対物的処遇は没収のみである。没収は不法に取得された物を取り上げることにより一定の訓戒を与えて更生を促す処遇であり、万引きのような単純窃盗や禁制品の所持に関しては没収のみで足りる。なお、罰金に相当するような金銭的な剥奪の処分は貨幣経済が廃される共産主義社会では存立し得ない。
 没収以外の各種処遇はすべて対人的処遇である。これを処遇が実施される場所の観点から分類すれば、矯正施設で実施される拘束的処遇と一般社会で実施される非拘束的処遇とに分けられる。そのふるいわけは矯正の必要性、すなわち反社会性向の進行度による。
 大部分の犯則行為者は反社会性向がさほど進んでいないため、非拘束的処遇に相当するであろう。非拘束的処遇の代表は保護観察であるが、保護観察下での社会奉仕労働もこれに加えることができる。
 また、精神疾患を抱えるが、反社会性向は進んでいない犯則行為者に治療を義務付けつつ、観察下に置く医療観察も例外的な非拘束的処遇として用意される。
 これに対して、矯正施設で集中的に矯正する必要のある一部の者が拘束的処遇の対象となる。これは現行の懲役刑の制度に外見上は類似するが、あくまでも「処遇」であって、「刑罰」ではないので、端的に「矯正処遇」と呼ばれる。
 このような矯正処遇にも、対象者の反社会性向や精神疾患ないしパーソナリティ障碍の有無などの特性に応じて、さらに細分類が存在するが、これについては次回稿を改めて論じる。
 ところで、通常の矯正処遇をもってしては矯正し得ない矯正不能者に対する究極の処分としての致死的処分の制度を持つべきかどうかであるが、「矯正不能」の科学的・医学的証明は不可能に近く、過誤のない公正な処分としてこのような制度を運用することは困難であるので、致死的処分の制度は除外される。
 ただし、極めて矯正困難な反社会性パーソナリティ障碍が認められる者に関しては、矯正処遇を打ち切り、社会防衛上終身間にわたり拘束する終身監置の制度が用意されるが、矯正処遇の技術を研究開発する矯正科学の発達につれ、これに該当する者はごく例外的となるだろう。
 
:ただし、ジェノサイドのような反人道犯罪を組織的に、かつ指導的または主導的に実行した者に対しては致死的処分が与えられるが、これは反人道犯罪の再発防止を徹底する趣旨から、民際的な世界法に基づいて行われる根絶処分である(第6章(1)の脚注参照)。

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共産法の体系(連載第31回)

2020-05-03 | 〆共産法の体系[新訂版]

第6章 犯則法の体系

(3)犯則行為の分類
 古典的な刑法では、犯罪を生命・身体・財産等の被侵害法益に応じて分類することが多いが、これもまた、犯罪と刑罰の対応関係を予め個別的に法定することに照応した体系の組み方と言える。
  しかし、処遇を矯正の必要度によって定める共産主義的な犯則法ではこのような被侵害法益による形式的な分類方式は採用されない。その代わりに、犯則行為の社会的な性質による分類が採用される。
 そのような分類として、経済事犯・生活事犯・人身事犯・政治事犯の四種を区別することができる。
 経済事犯は経済的秩序を乱す犯則であり、共産主義経済の柱となる経済計画に違反する生産・流通行為や無主物となる土地に対する不法占有などが代表例である。
 こうした経済事犯は組織ぐるみで実行されることも多いため、犯行者個人と並んで、組織体に対する強制解散や業務停止といった懲罰的処分が付加されることもあり得る。
 生活事犯は市民生活の平穏を侵害する犯則であり、窃盗のような財産犯のほか、住居侵入や盗聴・盗撮のようにプライバシーを侵害する行為など幅広い犯則が含まれる。数的には、当カテゴリーに分類される犯則が最も多い。
 とはいえ、このカテゴリーに分類される犯則は反社会性が軽微なものも多いため、全体として保護観察のような保護的処遇で済むケースが大半を占めるだろう。
 人身事犯は人の生命・身体を侵害する犯則であり、暴行、傷害、殺人をはじめ、性的犯行もここに含まれる。
 犯行者の病理性という点においては、この事犯が最も深刻で、反社会性パーソナリティ障碍(害)のような難治ケースも含まれるため、矯正処遇においては中心的な位置を占めるであろう。
 政治事犯は内乱や破壊活動のように、社会の政治的安定性を破壊する特殊な犯則ある。その犯行手段として上に掲げた三つの事犯に属する何らかの犯則が実行されるため、たいていは複合的な事犯となる。
 このカテゴリーに属する犯行者は特定の思想・信条・信仰を抱懐していることが多いが、いわゆる「思想犯」という特待的地位は保障されず、複合的事犯としての矯正処遇が与えられる。

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共産法の体系(連載第30回)

2020-05-02 | 〆共産法の体系[新訂版]

第6章 犯則法の体系

(2)犯則行為の本質
 共産主義的犯則法における犯則行為は、道徳に背反する背徳行為ではなく、共同社会の秩序を乱す反社会的な行為として把握される。その点で、犯則行為者に与えられる処遇には道徳的非難の意味合いはなく、そうした非難と処遇とは本質上別個のものである。
 より詳細に犯則行為の本質に立ち入れば、それは法益侵害の物理的結果と犯則行為者の故意行為との物心複合体として把握される。この点で、共産主義的な犯則の把握は唯物論的な行為結果主義と唯心論的な行為者心理主義のいずれにも偏らない。
 このように犯則行為とは特定の物理的な被害を生じさせる故意行為を基本型とし、過失行為は基本的に犯則行為とみなされないが、過失の程度が重い重過失行為及び高度な注意義務が課せられる業務者の業務上過失行為は故意行為に次いで反社会性が強いため、犯則行為として把握される。
 一方、正当防衛に代表される防御的な反撃行為は生物として自然の反応であるから、そもそも犯則行為に該当しない。また医師による外科手術のように正当な業務行為として適正に行なわれた侵襲的行為もまた然りである。こうした正当業務行為は反社会的どころか、社会的に有益な行為だからである。
 なお、ここで言う則行為は、行政的則行為とは区別される。行政的反則行為は、行政的な取締規定に違反する行為であり、その法的効果は一定の資格/免許剥奪や公民権停止/剥奪のような行政罰であって、矯正処遇ではない。その代表例は、道路交通法規違反である。
 ところで、伝統的な刑罰制度には「責任なくして刑罰なし」という標語に象徴される責任主義のテーゼが埋め込まれている。つまり、刑罰は過去の犯罪行為に対する行為者の責任を根拠に科せられる法的反作用であるとされる。
 そのため、犯行当時心神喪失状態にあった責任無能力者は犯罪を犯しても責任を問えず、法的には無罪の扱いとなり、しばしば社会的な波紋を呼び起こすことがある。
 共産主義的犯則法にあっても、「責任」は否定されないが、それは過去の行為に対する回顧的な責任ではなく、犯則行為者が将来へ向けて改善・更生していくべき展望的な責任である。
 従って、責任無能力ゆえに無処遇という扱いはなく、犯行当時精神疾患等の影響性が強く認められたとしても、処遇が全く免除されることはないのである。後に改めて論及するように、そうした場合には、精神医学的な治療プログラムを組み込んだ治療的処遇が与えられることになる。
 ただし、犯則行為者の精神障碍や知的障碍が重度かつ回復困難であるため、矯正処遇の実質的な効果を期待できないと判断された場合には処遇不能ゆえに免除とし、医療福祉的保護措置に付せられるということはあり得るが、それはかなり例外的な場合である。

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共産法の体系(連載第29回)

2020-05-01 | 〆共産法の体系[新訂版]

第6章 犯則法の体系

(1)刑法から犯則法へ
 真の共産主義社会は、刑罰制度を持たない。刑罰は国家主権を前提としてのみ成り立つ国家権力による究極的な権利剥奪処分であって、国家が廃される共産主義社会ではその存立基盤を失うからである。
 反対に、共産主義を公称しながら、刑罰制度は完全に存置されている体制があるとすれば、それは真の共産主義社会ではなく、いまだ国家の骨組みを残した標榜上の名目的共産主義社会にとどまっていることになる。
 しかし、刑罰制度の不存在はもちろん、犯罪の解決を法外のリンチや復讐に委ねることを意味しない。そうではなく、刑罰に代えて犯罪行為者の矯正及び更生を図る新たな制度が導入されるのである。
 その点では、改良主義的な刑罰制度の枠内ですでに現われている応報刑主義から教育刑主義への進歩の道程をさらに進め、刑罰という枠を取り去り、犯罪行為者の矯正及び更生を直截に目的とする処分に転換されるものと考えることができる。
 しかし、「教育刑」というとき、そこにはまだ刑罰としての性質が残されていることになるが、犯罪行為者の矯正及び更生を直截に目的とする処遇に転換された場合には、犯罪はもはや道徳的な「罪」ではなく、特殊な処遇を要する重大な犯則として把握されることになる。
 従って、共産主義社会において、犯罪と刑罰を定める「刑法」は存在せず、犯則行為と犯則行為者に対する処遇を定めた法という意味で「犯則法」と呼ばれる法典が「刑法」に相当する。「犯則法」はどのような行為が犯則に該当するかを予め法定し、かつそれに対して選択し得る処遇とその内容とを定める法律である。
 こうした事前法定主義の原則に関しては、伝統的な刑法と比べて大差はない。しかし、犯則行為に対する処遇はそれによって侵害された法益の重さではなく、行為者の矯正の必要度に応じて決まることから、個々の犯則行為に対する処遇が予め個別的に対応するわけではない。その限りで、杓子定規な形式的法定主義は否定される。
 簡単な実例として傷害についてみると、例えば現行日本刑法では「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」として、犯罪行為とそれに対応する刑罰が予め個別的に定められている。
 これに対して、共産主義的犯則法では傷害行為は犯則行為として法定されるも、個々の傷害行為者に対してどのような処遇を与えるかは当該行為者の特性を考慮して決定されるので、処遇の種類やその重さは個別的には法定されず、総則的に法定される。

:最終的に、法的な犯罪として残されるもの―言わば、最後の犯罪―は、ジェノサイドに代表される人道に反する罪である。ただ、この種の犯罪は世界法(条約)上の犯罪として民際的に処理される(拙稿参照)。

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共産法の体系(連載第28回)

2020-04-24 | 〆共産法の体系[新訂版]

第5章 市民法の体系

(5)財産権法②
 相続は通常親族間における財産権の承継であるから、市民権法に含まれる法律関係とも言えるが、共産主義的相続制度は親族間に限らず、人が死亡した場合の財産権の承継法として広く認められるので、市民権法ではなく、財産権法がこれをカバーする。
 資本主義的相続制度は、財産権を親族間(通常は親子間)で継承させることにより、財産の多寡に基づく社会階級制を助長する機能を果たしているが、共産主義的相続制度は、後に残された家族やパートナー(広い意味での遺族)の生活保障を目的とする制度となる。
 そうした共産主義的相続制度には、被相続人の意思表示にかかわりなく発生する法定相続と、生前の意思表示に基づいて発生する約定相続の二種がある。
 被相続人の生前の意志にかかわりなく発生する法定相続は、私有財産として留保される日常的な衣食住に関わる物品の家族間での承継を認め、遺族の生活の便宜及び安定を保証する制度であるので、相続の対象となるのは物権に限られ、債権・債務が相続されるのは、生前の公正証書遺言によって承継が指示されている場合だけである。
 法定相続人の範囲は被相続人と死亡時において同居していたパートナー及びその他の同居親族に限定される。如上のような相続制度の本旨からすれば、相続による生活保障が必要なのは通常この範囲内の同居親族だからである。
 また法定相続人が複数存在する場合の相続は均等割合での共有となる。この割合は被相続人の生前の意思表示によって変更することはできず、持分の変更・調整は事後に相続人間で行なうことができるにすぎない。これも、共産主義的相続の本旨が遺族の生活保障にあることからの帰結である。
 法定相続人以外の別居親族が財産を承継するためには、被相続人と予定相続人との合意に基づく約定相続による必要がある。約定相続は法定相続人が存在しない場合に限って認められる。なお、相続人以外の人(法人)の遺産を継承する場合は、遺言による贈与(遺贈)の方法による。
 約定相続において、被相続人は相続の対象財産や相続人の範囲、またその共有持分を自由に生前決定することができるが、必ず法的証明力のある証書(公正証書)によらなければならず、単なる口約束や私的に作成された遺言書によるものは無効である。

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共産法の体系(連載第27回)

2020-04-23 | 〆共産法の体系[新訂版]

第5章 市民法の体系

(4)財産権法①
 非貨幣経済社会を規律する共産主義的市民法において、財産権法は市民権法よりも比重を下げるが、無になるわけではない。財産権法の体系が大きく債権法と物権法とに分かれることも基本的に変わりないが、その内実は大きく異なる。
 中でも、債権法に属する契約法に関して、貨幣経済下では圧倒的に枢要な売買契約が貨幣経済を前提としない共産主義社会においては消失するため、その内実は一変することになる。
 売買契約の原型でもある交換契約は残存するが、それは金銭による売買に代わる物々交換の法的基礎を提供する。実際、共産主義社会では物々交換が復活するとともに、電子的システムを駆使した交換などその手段も多様化していくため、そうした多様な形態における物々交換取引の安全を保証するための規定が市民法に置かれることになる。
 一方、貸借型契約にあっては、有償の貸借契約である賃貸借契約が消失し、無償の使用貸借契約が基本型となる。使用貸借は多くの場合、慣習的な口約束の世界であるが、共産主義的財産権法においては口頭だけの使用貸借に法的効力は認められず、契約書面に基づく使用貸借に限って法的効力が付与される。
 また貨幣経済下では金銭の貸借関係のように同種同等の物を用立てて返還しなければならないために、しばしば破産など経済的悲劇の要因ともなってきた消費貸借契約という類型も廃される。
 以上に対して、物権法の分野では所有権の概念は維持されながらも、事実上の所持状態である占有権がより優先される。ただし、それは占有状態に所有権の存在が推定されるからではなく、占有そのものを固有の財産権として保障する趣意である。
 共産主義的所有権は、所有という絶対的な支配を内実とするものではなく、広義の占有権の中でも特にその掌握力が強いゆえに妨害排除を主張できる権利を指すにとどまるのである。従って、それは主として日常の衣食住に関わる物品について成立することになる。
 一方、貨幣経済下では金融手段として消費貸借契約と一体的に猛威を振るい、生活手段の喪失にもつながる抵当権・質権をはじめとする担保物権の制度も廃されるので、共産主義的財産権法における物権の種類は限られたものとなる。

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共産法の体系(連載第26回)

2020-04-19 | 〆共産法の体系[新訂版]

第5章 市民法の体系

(3)市民権法②
 共産主義的市民権法の三番目の要素は親族権である。これは住民権・公民権に対して私的な身分にまつわる権利であり、資本主義的法体系では、民法に属する親族法がカバーする領分であるが、その内実は相当に異なる。
 すなわち親族法が婚姻家族関係を中心に組み立てられているのに対して、共産主義的親族法は婚姻制度に代わる公証パートナーシップを中心に組み立てられる。
 近代的な婚姻制度が伝統的な家ではなく、個人間の結合という本質を次第に強めながらも、家と家の結合という前近代的慣習をなお引きずっているのに対し、公証パートナーシップは個人と個人の純粋に対等な結合を本質とする。
 従って、公証パートナーシップは異性同士か同性同士かの性別組み合わせを問わず、かつ両パートナーは異姓を原則とする(任意に同姓を選択することも可)。また、このような公証パートナーの親族間にいわゆる姻族としての親族関係が発生することもない。
 公証パートナーシップはパートナー関係の成立を法的証明力のある合意書で証明されて初めて有効に成立する。自治体への届出は義務的ではないが、届け出ない場合は行政サービス上単身者としての扱いを受けるので、届出が推奨されるであろう。
 離婚に相当する公証パートナー関係の解消も合意書をもってし、自治体に届け出ている場合は、解消の届出も要する。解消の事由に制限はなく、両当事者の合意だけで可能である。
 公証パートナー間の子(養子を含む)は、原則どおりにパートナーが異姓を名乗る場合は両パートナーの姓を名乗る復姓となる。例えば、鈴木氏と山田氏の間の子・某であれば、「鈴木山田某」となる(復姓の順序は五十音順なりアルファベット順なり、各公用語の文字配列順とする)。
 公証パートナーシップにおける親権は両パートナーが共同で保持するが、「子どもたちは社会が育てる」共産主義的教育理念のもとでは(拙稿参照)、親権は社会の付託を受けて子を養育する義務的性格が強いものとなる。
 従って、養育能力の欠如や不適切な養育を理由とした親権の停止・剥奪の余地は広い。反面、子の家庭的保護の制度として、認定里親や保護養子の制度は拡充され、広く活用される。

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共産法の体系(連載第25回)

2020-04-18 | 〆共産法の体系[新訂版]

第5章 市民法の体系

(2)市民権法①
 共産主義的市民法の中核は市民権法にあり、その内容は(1)住民権(2)公民権(3)親族権から成ると述べた。このうち、今回扱う前二者は公的な身分に関わる権利である。
 筆頭の住民権は、居住権と言い換えることもできる。具体的には各領域圏及びその内部の地方自治体への居住の権利である。国家の観念を持たない共産主義社会では当然「国籍」の概念も存在しないため、住民権が国籍に相当するような役割を果たす。
 こうした住民権の上位概念として、地球市民権がある。これは世界共同体(世共)に属する領域圏住民は世共内のどこにでも居住することのできる権利である。
 従って、この地球市民権の内実は移住の自由である。この権利については、世共憲章で定められる。地球市民権は住民権を基礎に発生するため、この地球市民権を行使して他の領域圏に移住するためにも、いずれかの住民権が要求される。
 一方、住民権を前提として、所定年齢に達した住民に公民権が与えられる。共産主義的な公民権とは、いわゆる選挙権ではなく、より積極的に代議員となる権利である。共産主義社会では、抽選制に基づく民衆会議が代表機関となるからである。
 こうした住民権は手続上、現住所を置く自治体に住民登録することで成立する。この登録によって、同時に各領域圏並びにその内部の広域自治体または準領域圏及び世共への居住権(移住権を含む)もすべて包括的に獲得される。
 このように、住民権は公民権、さらには上位権としての地球市民権の法的条件となるため、今日の無国籍に相当する住民権不保持という状態は法的に認められず、すべての人は必ず世界のいずれかの住民権を保持しなければならない。
 また住民権はいかなる事情があっても停止されることはないが、公民権は重大な犯則行為を犯した場合、一定期間停止されることがあり、また代議員として職務上の不正行為を犯した場合は永久剥奪されることもあり得る。こうした例外を除けば、公民権に関する制限は存在しない。

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共産法の体系(連載第24回)

2020-04-17 | 〆共産法の体系[新訂版]

第5章 市民法の体系

(1)共産主義的市民法の内容
 市民法とは市民としての権利及び義務について定める法典であり、資本主義的法体系では「民法」にほぼ相当するが、共産主義的市民法と資本主義的民法の内容は完全に重なるわけではない。
 資本主義は所有権と契約を二大法的基礎概念として成り立つので、この二つの法的な諸規定を収めた民法が法体系上最も重要な意義を持つ。これに対して、共産主義においては所有権と契約の概念は否定されないものの、それらの比重は低下するため、市民法の比重自体も前回までに見た環境法や経済法に比べて劣後することになる。
 共産主義的市民法において中心を成すのは市民権法である。市民権法は民法の一分野である家族法にほぼ相当する内容を含むが、ここには市民としての身分に関する規定、すなわち住民権や公民権に関する諸規定も包括されるので、家族法と完全にイコールではない。
 その意味で、共産主義的市民法は純粋の私法ではなく、公法的な性質を併せ持つ。そもそも共産主義社会には国家という観念が存在しないので、法体系上も国家と国民の関係を規律する公法と私人間の権利義務関係を規律する私法という二項対立的な概念区別は想定されていない。
 共産主義的市民法の編成をより具体的に述べれば、それは住民権、公民権、親族権を内容とする市民権法及び契約法、物権法、相続法を内容とする財産権法とから構成される。
 財産権法は資本主義的民法にあっては個人財産に関する諸規定を収めた中核部分を成すが、これは資本主義において個人財産は憲法上も不可侵と宣言される最大の法的基盤を成すことからして、自然なことである。
 しかし、共産主義的市民法における財産権法は共産主義的に留保・保障される個人財産の内容とその譲渡、貸与、相続を含む承継をめぐる技術的な諸規定を収めた二次的な部分を構成する。

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共産法の体系(連載第23回)

2020-04-11 | 〆共産法の体系[新訂版]

第4章 経済法の体系

(6)土地管理法
 経済法に関連して、特に取り出して検討を要するのは、土地問題である。持続可能的計画経済を基軸とする共産主義社会において、土地は無主の自然物として扱われる。すなわち、法的には私人であれ、公共体であれ、土地はおよそ所有権の対象とならない(拙稿参照)。
 しかし、各領域圏は土地の持続可能な計画的利用を目的として、土地管理権を保持する。この土地管理権は一個の公共団体である領域圏に帰属する公的権利であるので、市民法の規律対象には含まれない。具体的には、経済法の一環である土地管理法に規定される。
 土地管理権は所有権のように譲渡可能なものではなく、領域圏は恒久的に土地管理権を保持することが義務付けられ、それが譲渡されるのは領域圏内の一部土地が他の領域圏に帰属することになった場合だけである。
 こうして土地に所有権は成立しないとはいえ、土地上の建造物に関しては私人のほか、企業体、公共体の所有権が成立する。典型的には、個人の私宅である。この場合、領域圏が宅地として区画・開放する土地について、個人と領域圏の間で土地利用契約を締結することになる。
 この契約は無償の使用貸借契約の性質を持つが、管理権を持つ領域圏との契約という特殊性から、やはり土地管理法によって規律される。そこでは、住宅所有者の居住の安定を基本に、原則として使用貸借期限は無期限とし、借地権の相続も認められる。
 他方、企業体や地方自治体など公共体との土地使用貸借契約については、建造物の用途に応じて期限の有無が決まり、期限付きの場合であっても、契約解除の正当な理由がない限り、更新されていくことになる。
 なお、およそ土地利用権者はその利用権を無断で他人に譲渡・転貸等することは許されず、そのような無断行為は契約解除の正当な理由となるばかりか、領域圏の土地管理権を侵害する経済犯罪として立件されることにもなる。

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共産法の体系(連載第22回)

2020-04-11 | 〆共産法の体系[新訂版]

第4章 経済法の体系

(5)労働関係法
 本章(1)で、共産主義的経済法の体系には労働関係法が包含されることを指摘した。共産主義的企業組織にあっては労働と経営とが結合しているためである。その点で、労働と経営の分離を前提とする資本主義的な労働関係法は、労働者個人の権利を擁護する個別的労働法と労働組合の組織や権利について定める集団的労働法とに分かれることが多い。
 このように労働者が企業の外部で組合を結成して団結しなければ労働者の権利が十全に守られないということが、まさに資本主義的な経営と労働の分離の結果でもあるわけであるが、共産主義的企業組織は、前回整理したとおり、共同決定型にせよ、自主管理型にせよ、企業組織内部に労働者機関が常置されるので、それとは別に組合のような外部団体を基本的に必要としないのである。
 その結果、いわゆる労働者の団結権と呼ばれるものもことさらに観念されることはない。ただし、このことは団結の禁止を意味しない。むしろ団結権は共同決定権や自主管理権の内に含み込まれるような形になると言えるであろう。
 さらに、いわゆる労働三権の中でも最も先鋭的な争議権も必要なくなる。共同決定なり自主決定なりが機能する限り、争議行為に発展するような労使紛争事態はそもそも発生しないはずだからである。仮に万が一深刻な労働紛争が発生した場合でも、企業組織内に設置される第三者仲裁委員会で裁定すれば足りるであろう。
 かくして、共産主義的労働関係法はいわゆる個別的労働法がそのすべてを占めることになるが、同時に、それは狭義の労働基準法に限局されず、労働安全衛生法や雇用差別禁止法のような労働環境法制も包括された統合法となる。
 そもそも貨幣経済が廃される共産主義社会では賃労働は存在せず、すべては無償労働である。従って、労働基準といえばほぼ賃金問題が占めている資本主義的労働基準とは根本的に異なり、共産主義的労働基準は労働時間規制を中核としながら、安全衛生やハラスメント行為防止などの職場環境規制がそれに付随することになる。
 その結果、労働基準監督のあり方も大きく変わり、資本主義下におけるように強制捜査権まで備えた警察型の労働基準監督制度は必要なくなり、労働護民監のような人権救済型のより司法的な労働紛争解決制度が発達していくことになる。

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共産法の体系(連載第21回)

2020-04-10 | 〆共産法の体系[新訂版]

第4章 経済法の体系

(4)企業組織法
 共産主義的経済法の二番目の柱は、共産主義的企業組織のあり方について定める企業組織法である。企業組織法は、資本主義的法制で言えばほぼ会社法に対応するものであるが、共産主義社会にはもとより株式会社に代表されるような営利会社は存在しない。
 従って、共産主義的企業組織の法的な性質は社団法人であるが、営利法人ではなく、非営利的な生産法人である。生産法人には法人格が付与され、法の認める範囲内で一定の権利も保障される。
 共産主義的企業組織法の大きな特徴としては、労働者組織法を内包していることが挙げられる。すなわち、共産主義的企業組織では労働者自主管理または労使共同決定がその運営の基本理念とされるので、それに対応した内部的な労働者機関が常置されるのである。
 共産主義的企業組織として具体的にいかなるものがあるかについては、すでに『持続可能的計画経済論』(特に第4章)にて論及してあるので、ここでは法的な観点からの総まとめにとどめる。
 共産主義的企業組織を法的に分類すると、大きく社会的所有企業と自主管理企業とに分けられ、前者には生産事業機構、後者には生産協同組合が該当する。運営方法から言えば、規模の大きな生産事業機構が共同決定企業に相当する。計画経済が適用されるのは前者の社会的所有企業‐生産事業機構に限局される。
 後者の自主管理企業‐生産協同組合は計画外の自由な生産活動に従事し、ここでは物々交換も行なわれるため、その限りで営利企業に近い性格を持つが、株式会社のように利益を会社所有者としての株主に配分するという法的な意味での営利性は持たないことは、上述のとおりである。
 この両者の中間的な形態として、生産企業法人がある。これは計画外生産に従事する点では生産協同組合に近いが、大規模なため自主管理が技術的に困難であることから、生産事業機構に準じた共同決定型の内部機構を持つ大企業である。
 また生産協同組合よりも小規模な零細事業組織として協同労働集団(グループ)があるが、これは法人でなく、労働者の集団である。ただし公的に登録されている限り、事業展開に当たっては便宜上法人格に準じた一個の法的集団としての資格が与えられる。

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共産法の体系(連載第20回)

2020-04-03 | 〆共産法の体系[新訂版]

第4章 経済法の体系

(3)経済計画法②
 領域圏レベルの経済計画法の執行においては経済計画の遵守状況の監視と違反行為の摘発、中でも後者の摘発が重要である。この点で経済計画法違反の類型を考えてみると、それは大きく(A)計画違反と(B)計画外生産とに分かれる。
 古い型の計画経済にあっては、後者の計画外生産、すなわち「闇経済」の摘発が大きな課題とされていた。なぜなら、旧式の計画経済では経済活動全般の国有化が目指されたため、私的営業行為が広く犯罪行為とされたからである。
 しかし、環境的持続可能性を目的とする新たな環境計画経済にあって、計画経済が適用されるのは環境負荷的産業分野に限られるため、それ以外の経済活動は自由経済に委ねられる。それゆえ、計画外生産として摘発される行為も限定されることになるのである。
 計画違反は生産者側の違反と消費者側の違反とに分かれる。生産者側の違反は計画経済適用対象企業体が意図的に計画に反して過剰生産または過少生産する場合である。従って、意図的ではなく経営判断上の過失により過剰生産または過少生産が生じた場合は、企業組織法によって経営責任が問われることはあっても、経済計画法違反とはならないのである。
 消費者側の違反は、消費者(企業体を含む)が取得数量制限に違反して生産物を独占する場合である。その意味でこれを「独占禁止」と呼ぶこともできるが、もとより資本主義における市場独占規制としての独占禁止とはその意味を全く異にする。
 一方、計画外生産は、計画経済の対象領域に関して、自由生産企業が秘密裏に生産活動を行う場合である。これはある種の闇経済に当たるため、禁圧対象であるが、比較的稀なケースであろう。
 これら経済計画法の執行は、経済計画会議事務局に設置される法執行機関としての計画査察部によって行なわれる。計画査察部は立入り検査や強制捜査の権限をも持つ経済査察機関として機能する。
 経済計画法違反に対するペナルティーは経済計画会議の審問を通じて科せられ、違反にかかわった個人に対する業務資格停止や公民権停止が中心である。
 違反が組織ぐるみでも、計画対象企業は基幹的生産に関わるため、企業体そのものの解散はもとより、営業停止等のペナルティーも適当でない。計画外の自由企業の場合は、営業停止や強制解散のペナルティーもあり得る。

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共産法の体系(連載第19回)

2020-04-03 | 〆共産法の体系[新訂版]

第4章 経済法の体系

(2)経済計画法①
 経済法体系の第一部門は経済計画法であるが、世界共同体における地球全体の総枠的な経済計画をベースに、各領域圏における経済計画が策定されるという計画経済の二段階構造に対応して、その根拠法たる経済計画法も、世界法(条約)と領域圏法の二段階構造を採る。この構造は、環境法とも相似する。
 世界法としての世界経済計画法は、世共機関である世界計画経済機関が策定する総枠的経済計画の内実と策定プロセスを定めた条約法であり、これは世共を構成する全領域圏を法的に拘束する。
 対して、領域圏法としての経済計画法は世界経済計画法に基づく総枠的経済計画の枠内で各領域圏の経済計画会議が策定する領域圏レベルでの経済計画の内実と策定プロセスを定めた法であり、世界経済計画法の支分的な具体化法とも言えるものである。
 これら二段階の法に基づく経済計画の概要は既連載『持続可能的計画経済論』の中で詳論してあるので(特に第3章)、繰り返さず、本連載では特に経済計画法がまさに「法」たるゆえんでもある執行に関わる問題について触れたい。
 経済計画法はまさしく法規範であるが、同法に基づき策定された経済計画自体は法規範ではない。しかしそれは拘束力を持つ準則として経済計画主体を拘束するため、経済計画法は経済計画を実施するための執行プロセスを有する。
 経済計画法の執行も、上記の二段階構造に対応して、世界法レベルと領域圏法レベルとで段階が分かれる。世界法レベルでは世共が策定した総枠を各領域圏が遵守しているかどうかについて、先述した世界経済計画機関自身が監査を行なうことができる。
 他方、領域圏法レベルの執行は経済計画会議が策定した経済計画の遵守状況の監査と違反行為の摘発が中心となり、より強制的な手段をもってなされるが、これについてはいくつか特有の問題があるため、ここでいったん稿を改めることにする。

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