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人類史概略(連載第17回)

2013-11-13 | 〆人類史之概略

第7章 機械革命と資本制(続き)

資本制の発達
 資本制が最も早くから発達したのはイタリアとされるが、その最も早い完成者はやはり英国であった。その推進力となったのは、18世紀機械革命とその下での工場制度の発達である。
 機械を配備する工場を基盤とした機械制工業は生産財と人材とを集約化した生産体制を備え、それは伝統的手工業の場であった職人工房の非能率を克服し、大量生産への道を開いた。こうして、資本制は新しい工業の発達を物質的な土台として完成される。
 このように資本制の土台に工業が存することは、今日的な「情報資本主義」の時代にあっても不変である。一見抽象的に見える情報産業も一つの「工業」であり、その根底には18世紀以来の機械革命の基礎があるからである。その意味で、しばしば聞かれる「脱工業化」という時代認識はいささか表層的である。
 とはいえ、工業だけで資本制が成り立つわけではなく、商業の飛躍的な発展も重要な要素である。それは交通機関の発達によってもたらされた。さしあたりは19世紀初頭にやはり英国で相次いだ蒸気船、蒸気機関車の発明である。これ以降、海運・陸運の時間が急速に短縮化され、物と人の移動が活発になる。かくして、資本制とは工業的土台の上に築かれ直された商業とも言える。
 資本制はまた、賃労働者という新しい階層を生み出した。賃労働者とは法的には自由民でありながら隷従的であるというアンビバレントな存在であって、ある立場から言えば「賃金奴隷」(賃奴)ということになるが、中世の農奴が真の「奴隷」ではなかったのと同様、賃労働者も真の「奴隷」ではない。
 しかし「自由な隷民」という農奴以上にアンビバレントな賃労働者の特殊性は法と現実の容易に埋め難いギャップを生じさせ、賃労働者を保護する労働法がザル法となりやすい原因を成している。
 とはいえ、表向きは労働法によって「保護」された自由な隷民である賃労働者を大量的に使用することで成り立つ資本制とは、おそらく人類史上最も洗練された形態の隷民制であり、こうした資本制を自国の基軸的な経済体制として構築し得た国家は、最も近代的な隷民制国家と言えるであろう。
 このような近代隷民制国家はやがて帝国主義へと赴く。この場合も、英国―大英帝国―が最初の範例を示したのであるが、ここでの帝国はもはやかつてのローマ帝国が体現したような古代帝国とは異なり、自由貿易の御旗の下、資本投下先として海外侵略・植民地化を企てる帝国であり、その本質は経済帝国であった。
 ただ、近代帝国もローマ帝国のような古代帝国の基盤であった軍事力という物質的土台を欠いていたわけではない。それどころか、18世紀機械革命は兵器の革新の契機ともなり、大英帝国軍は当時世界最新鋭の軍隊として、まさに七つの海を支配するうえでの強力すぎる武器となったのである。

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