東京西部の国立市議会が19日、「ヘイトスピーチを含む人種及び社会的マイノリティーへの差別を禁止する法整備を求める意見書案」を採択した。国連人種差別撤廃委員会が8月末、人種や国籍などの差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)を法で規制するよう日本政府に勧告したことを受け、全国の自治体に先駆けてのアクションという。
このところ、地方議会議員の不祥事が相次ぐ中、久々のまともな地方政治ニュースであり、同市の問題意識の高さには敬意を覚えるが、懸念される点もいくつかある。
この意見書は、国に対して法整備を求めるものであるが、すでに自民党内では憎悪表現規制に便乗して、国会周辺のデモを取り締まる立法制定を敢行しようとするような動きが出ている。国連の勧告を逆手に採り、あざ笑うかのような便乗立法の企てである。
現在の改造安倍内閣・自民党執行部には、先般「民族浄化」を呼号する日本のネオナチ団体の代表者と写った写真が問題視された二人に加え、まさに憎悪表現の取り締まりに当たる警察を所管する国家公安委員長(大臣)が、国連勧告の一因ともなった在日コリアンを標的とする憎悪表現の中心団体として訴訟沙汰にもなっている政治団体関係者とのコネクションが報じられるなど、憎悪表現規制を真摯に検討するとはとうてい考えられないメンバーが含まれている。
反差別どころか親差別派政権が議会の安定多数を占めるという世界にも例を見ない恐るべき事態になっている時に、この意見書の真意はどこにあるのだろうか。もし、意見書を通じてやんわりと現政権を牽制する趣旨なら、それも一つの方法だが、本気で法整備を要望しているとしたら、疑問も感じる。
現状では、国に対して法整備を要望するよりも、まずは市が独自に条例を制定するほうが現実的なように思われる。幸い、地方自治法では最大で懲役二年を上限とする罰則を定める権限が自治体に与えられているので、小規模な憎悪表現規制条例を制定することは可能である。
それとともに、憎悪表現規制は刑罰だけで完結するものではなく、まだ差別を知らない小学校低学年段階からの徹底した反差別教育を通じて体得させなければ(拙稿参照)、憎悪表現者が顔を出すつど叩いて回るもぐら叩きのような結果に終わるだけである。自治体の教育裁量の範囲内で反差別教育の実践を条例化するなどの策も必要だろう。
近年は民族差別にとどまらず、このところ相次いで表面化している視覚障碍者・盲導犬に対する身体的な攻撃すら伴う排斥の動きも含め、かねてより差別が野放し状態であったこの国は今や差別者天国となりつつある。親差別派政権の登場は、そうした社会情勢を政治面でも勢いづけている。
残念ながら、現在国レベルでは真摯な反差別政策の積極的な展開を全く期待できない状態であるので、地方自治体レベル、とりわけ小回りの効く合意形成が可能な市町村自治体レベルでの反差別政策の展開が期待されるところである。