第三条(司法府)
本条は、三権のうち司法府に関する規定である。アメリカは連邦制のため、司法権も連邦と州で二元的に構成されるが、通常の民事・刑事裁判権は州にあり、連邦司法権は連邦法上の事件など、特定の事件の審理に限られている。そのため、司法権に関する規定はごく簡略である。
【第一項】
合衆国の司法権は、一つの最高裁判所、および連邦議会が随時制定し設立する下位裁判所に属する。最高裁判所および下位裁判所の裁判官はいずれも、非行なき限り、その職を保持することができる。これらの裁判官は、その職務に対して定期に報酬を受ける。その額は、在職中減額されない。
本項は連邦司法権の所在及び連邦裁判官の身分保障に関する規定である。日本国憲法にも影響し、類似の規定がある。
【第二項】
1 合衆国の司法権はつぎの諸事件に及ぶ。この憲法、合衆国の法律および合衆国の権限にもとづき締結された、または将来締結される条約のもとで発生するコモン・ロー上およびエクイティ上のすべての事件。大使その他の外交使節および領事にかかわるすべての事件。海事法および海事裁判権に関するすべての事件。合衆国が当事者の一方である争訟。二以上の州の間の争訟。州と他州の市民との間の争訟。異なる州の市民間の争訟。同じ州の市民間の争訟であって、異なる州から付与された土地の権利を主張する争訟。一州またはその市民と外国またはその市民もしくは臣民との間の争訟。
2 大使その他の外交使節および領事にかかわるすべての事件、ならびに州が当事者であるすべての事件については、最高裁判所は、第一審管轄権を有する。前項に掲げたその他の事件については、最高裁判所は、連邦議会の定める例外の場合を除き、連邦議会の定める規則に従い、法律問題および事実問題の双方について上訴管轄権を有する。
3 弾劾事件を除き、すべての犯罪の裁判は、陪審によって行われなければならない。裁判は、当該犯罪がなされた州で行われなければならない。但し、犯罪がいかなる州においてもなされなかったときは、裁判は、連邦議会が法律で定める一または二以上の場所で行われるものとする。
本項は、連邦司法権の及ぶ範囲を具体化する定である。ただし第一項で掲げられた事件類型のうち、合衆国の一州に対して他州の市民または外国の市民もしくは臣民が提起した民事訴訟については、修正第一一条で連邦司法権の対象から外された。州の主権免責を認めたものである。
最も特徴的なのは、第三項第一文で弾劾事件を例外として、刑事陪審制度が全米において憲法上義務づけられていることである。これは独立戦争前夜、宗主国英国がしばしば植民地で陪審抜きの不公平な特別裁判を実施したことから、陪審制度の保持は独立の大義の一つだったことに由来していると言われる。従って、アメリカの陪審制度は単なる伝統的な法慣習にとどまらない革命的な意義を持っている。
【第三項】
1 合衆国に対する反逆罪は、合衆国に対して戦争を起こす場合、または合衆国の敵に援助と便宜を与えてこれに加担する場合にのみ、成立するものとする。何人も、同一の外的行為についての二人の証人の証言、または公開の法廷での自白によるのでなければ、反逆罪で有罪とされない。
2 連邦議会は、反逆罪の処罰を宣言する権限を有する。ただし、反逆罪を理由とした私権剥奪の効力は、血統汚損または私権を剥奪された者の生涯の間を除き、財産没収に及んではならない。
本項は司法権そのものよりも、反逆罪という政治犯罪の定義及び処罰条件・処罰内容についての規定である。憲法にこのような刑罰法規を置いた意味は、反逆罪の規定を法律だけで改廃することを許さず、あいまいになりやすい反逆罪の構成要件を絞り込み、かつ定められた証拠によってのみ処罰しようとする趣旨である。