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スウェーデン憲法読解(連載第1回)

2014-11-20 | 〆スウェーデン憲法読解

 日本国憲法に始まり、旧ソ連、アメリカと、消滅したソ連を含む主要国の憲法を検証する憲法シリーズの第四弾は、スウェーデン憲法である。スウェーデン憲法はいわゆる社会民主主義の憲法として代表的なものであり、憲法典にありがちな美文調を排し、コンパクトで実際的な法文ながら現代的な水準を満たす先進憲法である。
 単純に図式化すれば、スウェーデン憲法は社会主義の旧ソ連憲法と自由主義のアメリカ憲法の中間に位置し、社会権条項を擁し部分的に社民主義的な要素を持つ日本国憲法と共有する面もある。その意味で、先進的な正しい方向での改憲を構想するうえでも、参照項となるものである。
 ただ、スウェーデン憲法は単一の法典ではなく、2010年に大改正された「統治法」を中心に、「王位継承法」「出版の自由に関する法律」「表現の自由に関する基本法」の四つの法典から成る複数憲法主義を採るが、ここでは最も中核的な「統治法」―他国の憲法典に相当するもの―を取り上げる(よって、以下、単にスウェーデン憲法と言った場合は統治法を指す)。なお、訳文は国会図書館調査資料に準拠するが、一部訳語を変更する。


第一章 国家体制の原則

 スウェーデン憲法は実際的なスウェーデンの特徴を反映してか、前文を持たず、直入に本文から始まる。冒頭の第一章には総則に当たる条項が簡潔に収められており、実質的には本章の冒頭三か条が前文に代わる働きをしていると言える。

第一条

1 スウェーデンにおけるすべての公権力は、国民に由来する。

2 スウェーデンの民主主義は、自由な意見形成並びに普通選挙権及び平等な選挙権を原則とする。スウェーデンの民主主義は、代議制及び議会制の国家体制並びに地方自治を通じて実現される。

3 公権力は、法律に基づき行使される。

 第一条は、国民主権及び議会制民主主義、さらに法治主義を宣言する総則中の総則である。いずれも極めて簡潔ながら、要点を突いた実際的で明快な法文である。特に、民主主義の基礎に自由な意見形成があることを明確にしている点は注目される。また地方自治を民主主義の重要な内容に含めている。

第二条

1 公権力は、すべての人の平等な価値並びに個人の自由及び尊厳を尊重して行使されなければならない。

2 個人の個人的、経済的及び文化的福祉は、公的な活動の基本的な目標とする。特に、公的機関は労働、住居及び教育に対する権利を保障し、社会扶助及び社会保障並びに健康に対する良好な条件のために努めなければならない。

3 公的機関は、現在及び将来の世代のために、良好な環境をもたらす持続可能な発展を促進しなければならない。

4 公的機関は、社会のすべての領域において、民主主義の理念が指導的たるべく努め、個人の私生活及び家庭生活を保護しなければならない。

5 公的機関は、すべての人が社会における参加及び平等を達成できるように、及び子どもの権利が保護されるように努めなければならない。公的機関は、性、皮膚の色、国籍若しくは民族的出自、言語的若しくは宗教的帰属、障碍、性的指向、年齢又は個人に関する事情を理由とする差別に対抗しなければならない。

6 サーミ族並びに民族的、言語的及び宗教的少数派が、自らの文化的及び共同体的生活を維持し、発展させる機会を促進しなければならない。

 第二条は、第六項を別として、すべて公権力ないし公的機関に向けられた個別的な原則規範である。第一項は個人の尊重規定であるが、個人の自由に優先して、すべての人の平等価値が置かれているのは、平等を優先価値とするスウェーデン国家の特質を示している。そうした平等性に根差した個人の尊重のうえに、第二項の福祉国家原則が置かれている。
 福祉国家原則の内容は、日本国憲法の社会権条項以上に努力義務規定にすぎないが、福祉が明確に公的な活動の基本目標として指示されている。特に注目されるのは、日本国憲法には欠けている住居に対する権利が明言されていることである。
 第三項は、環境的持続可能性の原則であるが、いわゆる環境権としてあいまいに権利的に規定するのではなく、公的機関の責務として明言されている。同様にプライバシーの保護を定める第四項も、プライバシー権と権利的に規定せず、公的機関の責務として指示されている。
 第五項はいわゆる反差別の原則である。その第二文は一見法の下の平等を言っているように読めるが、あらゆる差別に対して公的機関が「対抗」するという形で、具体的な反差別の行動を要請している点で踏み込んでいる。これは平等を法の下だけにとどめず、第一文にあるように、すべての人の社会的な平等を目指す積極的な規定である。性的指向による差別への対抗も明言する点で、先進的である。また国籍による差別にも言及されており、通常の国では等閑視されやすい外国人差別にも配慮されている。完全に平等な社会参加の権利を持ち得ない子どもについては、第一文で公的機関にその保護の責務を課している。
 第六項は、前項に関わり、特に最北のトナカイ遊牧民であるサーミ族に代表される少数民族ないし宗派がその文化と共同体を維持していけるよう配慮する規定を別立てしたものである。公的機関のみならず、社会全体に課せられた責務である。

第三条

統治法、王位継承法、出版の自由に関する法律、表現の自由に関する基本法は、国の基本法である。

 序説で述べたとおり、広義のスウェーデン憲法は、上記四法典から成ることが規定されている。そのうち二本を表現の自由に関する新旧の法典が占めているのは、第一条にもあったとおり、スウェーデンが民主主義の基礎としての表現の自由を確信的に追求している証しとなっている。

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