ザ・コミュニスト

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アメリカ憲法瞥見(連載第13回)

2014-11-06 | 〆アメリカ憲法瞥見

修正第一七条

1 合衆国の元老院は、各州から二名ずつ選出される元老院議員でこれを組織する。元老院議員は、各州の州民によって、六年を任期として選出されるものとする。元老院議員は、それぞれ一票の投票権を有する。各州の選挙権者は、州の立法府のうち議員数の多い院の選挙権者となるのに必要な資格を備えていなければならない。

2 州の選出元老院議員に欠員が生じたときは、その州の行政府は、欠員を補充するための選挙実施の命令を発しなければならない。但し、州の立法府は、立法府の定めるところに従って州民が選挙で欠員を補充するまでの間、行政府に対して臨時の任命をする権限を与えることができる。

3 この修正は、この憲法の一部として効力を発する前に選出された元老院議員の選挙または任期に、影響を及ぼすものと解されてはならない。

 連邦両議院のうち州代表院としての性格の強い元老院(上院)は20世紀に入るまで直接選挙制ではなく、州議会による複選制であったが、1913年制定の本修正条項により、直接選挙制に改められた。
 しかし、このことによって有権者層に直接的な基盤を獲得した元老院の発言力は強まり、上下両院で多数政党が異なるいわゆる「ねじれ」が生じると、党派対立の中で重要法案が議会で成立しない「決められない政治」を招来する要因ともなっている。

修正第二三条

1 合衆国政府の所在地を構成する地区は、連邦議会が定める方法により、つぎの者を選任する。この地区が州であるならば選出することができる連邦議会の元老院および代議院の議員の総数と等しい人数の大統領および副大統領の選挙人。但し、その数は、いかなる場合でも人口の最も少ない州から選任される選挙人の数を超えてはならない。これらの選挙人は、各州が選任した選挙人に加えられ、大統領および副大統領の選挙の目的のためには、州によって選任された選挙人とみなされる。これらの選挙人は、同地区で集会して、修正第一二条に規定される義務を遂行するものとする。

2 連邦議会は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を有する。

 合衆国政府の所在地を構成する地区、すなわち連邦首都ワシントン・コロンビア特別区(以下、特別区という)の住民は、長い間大統領の選挙権を与えられていなかった。しかし、かつては政治上の首都として人口も希薄だった特別区も20世紀半ばになると、小さな州レベルの人口規模に達したことから、1961年に至って人口最少州に準じた大統領選挙権が付与されることになった。
 ただ、特別区が州に準じて扱われるのは大統領選挙のみであり、連邦議会議員の選挙権が依然として与えられていないのは、未解決の公民権問題とも言える。

修正第二七条

元老院議員および代議院議員の職務に対する報酬を変更する法律は、つぎの代議院議員の選挙が行われるまで、その効力を生じない。

 本条が修正条項中最も新しく、1992年に成立したものであるが、提案されたのは合衆国独立間もない1789年のことで、実に200年ぶりの成立であった。改憲に四分の三の州の承認を要する極めて厳格な硬性憲法であるアメリカ憲法ならではの異例のことである。
 この修正条項が承認されないまま放置されていたのは、議員報酬の変更時期の制限という議員既得権の制約に関わる内容であったためであろう。ただし、本修正条項発効後も、連邦最高裁は年間生活費調整という名目で本条と無関係に議員報酬が実質増額されることを合憲と判断しており、本条は半ば骨抜きとなっている。

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アデュー、オバマ

2014-11-06 | 時評

米国の中間選挙で、民主党が上下両院とも大敗したことで、オバマ政権のレームダックが残り任期一年以上を残して決定的となり、実質上オバマ政権は終わった。しかし、これは予定された結末であった。

元来、彗星のように現れ、史上初のアフリカ系大統領として歴史的勝利を収めたが、それは弁舌と容姿に優れた改革者というイメージ先行の勝利であった。彼の決め台詞であったYes We Canという文は、助動詞canの後に本動詞が続かない。何ができるのか、白紙だったのだ。これはまさにオバマ政権の性格を示していた。

結局のところ、格別なことは何もできなかった。ただ自身の初当選の要因ともなった大不況からの脱却はひとまず達成した。しかし、その法策は米国以上の破局に見舞われたアイスランドとは異なり、金融機関の責任を厳しく問うことなく、血税を投入して救済するという米国民のみならず、米国経済を通じて世界民衆の将来にも大きなツケを回す方策であった。

その一方で、金融危機再発防止のための金融規制改革も打ち出したが、頓挫している。こうした両義的曖昧さこそ、すべてに中途半端なオバマ政権の特徴である。同様の中途半端さは、公的医療保険制度の創設を回避しつつ民間医療保険への加入を義務付けるという医療保険制度改革に関しても見られた。

もっとも、寛大な見方をすれば、オバマ政権が内政面で目指したことの多くは、米国の下部構造である資本主義市場経済の原理に修正を加えようとするものであったがゆえに、大きな拒絶反応に直面したのだとも言えるが、そうした拒絶反応を排除できるほどの強力な権限をアメリカ大統領は与えられていないのだ。

外交安保面でも、核兵器なき世界を訴えつつ、中途半端に軍事介入も企てるオバマ政権の両義性は軟弱な消極主義と批判されるが、これは、米国民の通念に反して、世界にとっては幸いであった。結果的に米国の覇権は陰り、「唯一の超大国」の地位を滑り落ちたからである。

次期大統領選では共和党が政権を奪回する可能性は高いが、共和党にも傑出した人材は見当たらず、新共和党政権にオバマ政権以上の成果を期待することはできない。政争と資金集め競争に明け暮れる古典的な二大党派によるたらい回し政治の限界は、今後ますます露呈してくるだろう。

オバマはそうした古いアメリカの終わりの始まりを画する曖昧な改革者であった。その点では、旧ソ連末期に現れ、やはり中途半端な改革者として挫折したゴルバチョフに相当するような人物であった。

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