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スウェーデン憲法読解(連載第15回)

2015-02-13 | 〆スウェーデン憲法読解

第六章 政府

 国家元首の規定に続く本章及び次章は、政府とその活動に関する規定である。スウェーデンは、立憲君主制をベースとする議院内閣制を採るため、政府の基本的な仕組みは日本の内閣制度とも類似するが、より「濃厚」な議院内閣制である。

政府の構成

第一条

1 政府は、総理大臣及び他の大臣により構成される。

2 総理大臣は、第四条から第六条までの規定に従い選出される。総理大臣は、他の大臣を任命する。

第二条

1 大臣は、スウェーデン市民でなければならない。

2 大臣は、いかなる雇用もなされてはならない。大臣は、その信用を失墜する可能性のあるいかなる任務も引き受けてはならない。

 政府の構成は日本の内閣とほぼ同じであるが、第二条で大臣はスウェーデン市民であることに加え、厳格な職務専従義務が課せられている点が注目される。

選挙後の総理大臣の表決

第三条

1 新たに選挙された議会は、集会から二週間以内に、表決により、総理大臣が議会において十分な支持を得ているか否かに関する問題について審議しなければならない。議員の過半数が反対を表明した場合には、総理大臣は、辞任しなければならない。

2 総理大臣がすでに辞任している場合には、表決は、実施されない。

 総理大臣は、日本のように新規議会ごとに任命し直すのではなく、辞任しない限り、信任の審議と表決を受けるだけで足りる。これにより、総理大臣の在任期間が比較的長くなり、日本の議院内閣制においてありがちな短期間で頻繁に総理大臣が交代することがなくなる。

政府の形成

第四条

1 総理大臣を選出すべき場合には、議長は、議会内の各会派の代表者を協議のために招集する。議長は、副議長と協議し、その後、議会に提案を行う。

2 議会は、四日以内に、委員会における事前審査を経ずに、当該提案の審議を表決により行う。議員の過半数が当該提案に反対票を投じた場合には、当該提案は否決される。他の場合には、承認される。

第五条

議会が議長の提案を否決した場合には、第四条の規定に基づく手続が繰り返されなければならない。議会が四回議長の提案を否決した場合には、当該手続が中断され、議会の選挙が実施された後、再開されなければならない。通常選挙が三か月以内に実施されない場合には、同期間内に特別選挙を実施しなければならない。

第六条

1 議会が新しい総理大臣に関する提案を承認した場合には、総理大臣は、可能な限り速やかに他の大臣を議会に対し、通知しなければならない。その後、国家元首または国家元首に支障がある場合には、議長の臨席する特別の閣議の際に、政府の交代が行われる。議長は、常に当該閣議に招かれなければならない。

2 議長は、議会の名の下に総理大臣の任命文書を発行する。

 スウェーデン議会は小党にも配慮された比例代表制に基づく多党制であるため、総理大臣の選出に当たっても、会派協議が鍵となり、場合によっては総理大臣が選出されない可能性もあるため、第五条のような再選挙の規定が用意されている。
 一連の総理大臣選出手続を主宰するのは議長であり、最終的に議会を代表して総理大臣を任命するのも議長である。内閣総理大臣の形式的な任命を天皇がする日本とは異なり、スウェーデンの議院内閣制はまさに議院=内閣の制度であると言える。

総理大臣又は他の大臣の罷免

第七条

1 議会が総理大臣又は他の大臣が議会の信任を得ていないと宣言した場合には、議長は、当該大臣を罷免する。ただし、政府が議会に特別選挙を求めることができ、かつ、不信任の宣言から一週間以内に当該選挙を公示する場合には、罷免は行われない。

2 選挙後の総理大臣に関する表決を理由とする総理大臣の罷免については、第三条において定める。

第八条

大臣は、本人が希望する場合には、総理大臣については議長により、他の大臣については総理大臣により、職を免ぜられる。総理大臣は、他の場合においても大臣を罷免することができる。

第九条

総理大臣が辞任した場合又は死亡した場合には、議長が他の大臣を罷免しなければならない。

 第七条第一項は、内閣不信任による議会の解散に相当する規定である。議長はこうした総理大臣や他の大臣の罷免の手続においても、主宰者的な役割を果たす。

総理大臣代理

第一〇条

総理大臣は、他の大臣の中から、総理大臣代理の資格で、支障が発生した際に総理大臣のために総理大臣の職務を遂行する者を選出することができる。総理大臣代理が選出されなかった場合又は総理大臣代理に支障があった場合には、最も長い期間大臣を務めている現職の大臣がその者に代わって総理大臣の職務を遂行する。二人以上の大臣が同期間大臣を務めている場合には、年長の者が代行する。

 総理大臣代理は日本の副総理に相当する代理職である。副総理同様、任命は任意的であるが、任命されない場合の総理大臣代理代行者の順位まで憲法上周到に定めてあるのは、スウェーデン憲法の実際的な特色と言える。

暫定政府

第一一条

政府のすべての大臣が辞任した場合には、その職務は、新しい政府が引き継ぐまで継続する。総理大臣以外の大臣が自らの希望により辞任した場合で、総理大臣が職務の継続を望むときは、後任の者が引き継ぐまで当該大臣は、その職務を継続する。

議長の支障

第一二条

議長に支障が生じた場合には、副議長がこの章の規定に基づき議長が有する職務を代行する。

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