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近未来日本2050年(連載第17回)

2015-08-21 | 〆近未来日本2050年

四 弱者淘汰政策(続き)

国民皆勤労政策
 努力主義と結びついた「社会強靭化計画」は労働政策の面にも及び、「国民皆勤労政策」と呼ばれる強制的色彩の強い労働政策を導いている。ここでは、そうした強制性をオブラートに包んだ「失業ゼロ社会」がキャッチフレーズである。
 この政策において第一の標的となるのは路上生活者である。この点、街頭デモの規制にも発動される公共秩序維持法に路上での寝泊りの禁止が盛り込まれ、この規定に基づき、路上生活者に対しては警察官が保護拘束という強制手段で排除することが認められている。こうしたやり方は導入当初、差別的な「ホームレス狩り」として支援団体などから強い批判を受けたが、当局はそうした支援団体も公共秩序法違反で摘発する強硬措置で臨み、批判を封じ込めている。
 保護拘束された路上生活者は、厚生労働省所管の就労訓練センターに強制登録される。このセンターは保護拘束された路上生活者のほか、生活保護申請を却下された貧困者も強制登録し、就労訓練生として求人企業に派遣し、労働させることを目的としている。
 ちなみに、生活保護は申請に当たって自治体嘱託医による就労困難証明書の提出が義務付けられるうえ、反社会的または反国家的活動に従事している者は受給欠格者とされるなど、「国民皆勤労政策」に沿って受給条件が格段に厳格化されている。
 就労訓練センターには寮が付属しており、訓練生は無料で利用することができるが、寮はセンターが借り上げ、民間委託されており、しばしば劣悪な環境にある。しかも、訓練生は無断外出を禁じられるなど、規律も厳格なうえ、刑務官や警察官経験者が指導員に採用されるケースが多いため、「貧困者刑務所」という悪名もささやかれる。
 その訓練も名ばかりで、訓練生を経て正式に就労できる者は一部にとどまると見られるが、政府はこの点の正確なデータを公表していない。また訓練労働に対しては法定最低賃金も社会保険も適用されないなど、労働法の規制が一切及ばない。そのため、「訓練」名下に一種の奴隷労働を強いる悪制との批判が野党や法曹界からは根強いが、人口減少の中、深刻な労働力不足に直面している経済界からは好評を得ている。

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