五 「緊縮と成長」政策(続き)
市場拡大政策
「緊縮と成長」の「成長」政策の中核を成すのは、市場拡大政策である。すなわち、かつては「新自由主義」「市場原理主義」などと呼ばれた政策の徹底化である。このように、競争による弱者淘汰を正当化する経済自由主義と強力に結びついていることは、新型ファシズムの大きな特質である。
政権がオブラートに包んで「市場フロンティア政策」と呼ぶこの政策は、従来営利企業の直営が制限されてきた教育・医療・福祉や農林水産などの分野の規制緩和と資本化の推進を内容としている。結果、株式会社営の学校、病院や福祉施設が続々と生まれ、大資本の多くが傘下に大学を含む学校や病院を擁するようになった。
より波紋を呼んだ施策が、農協組織の解体である。これにより、大手食品・小売資本系の農業会社が続々と台頭してきた。反面、旧農家は農地所有者としてこれら農業資本に土地を賃貸し、賃料収入に充てるパターンが急増している。これは、日本における借地農業資本の本格的な始まりとみなされている。政権はこの施策により、食糧自給率を25パーセント以上回復する目標を立てている。
また資本の活動にとって桎梏となる環境規制の緩和にも着手されている。特に日本が地球温暖化防止条約から脱退し、米国と共同歩調を取ったことは、世界に衝撃をもたらした。ファシスト政権は温暖化懐疑論を公式見解に掲げ、未来世代への責任を強調する持続可能な開発論に対しては、「未来世代より現在世代の繁栄を」のキャッチコピーで反駁、米国と事実上の「反エコロジー同盟」を結成している。
原発政策に関しても、2011年の福島原発事故以来の政策を大転換し、新規原発増設に転じた。そして原発の管理運営を中央主導で行なうため、原発を持たない沖縄電力を除く全電力会社及び国を株主とする原発独占企業体として、ジャパン・アトミック・エナジー社(JATOME)を設立した。JATOMEが電力各社に原発設備をリースして委託運営する仕組みである。政権は安全で責任ある原発運営の仕組みと宣伝するが、情報統制により批判は封じ込められている。
JATOMEは海外へ原発設備を売り込み、運転や保守管理まで全工程を請け負う国際事業会社を傘下に擁し、世界30か国以上に現地法人を置く多国籍企業としても展開し、国際的に賛否両面で注目されている。