またしても、露土戦争か━。先月のトルコによるロシア軍機撃墜事件をめぐり、ロシア‐トルコ間で軍事的な緊張が高まっている。共に帝国時代には何度も交戦してきた両国だけに、露土戦争の再発可能性は決して大げさな憶測ではない。
しかも、NATOや米国がトルコの自衛権を尊重するなどとして、トルコの撃墜行動を擁護する動きを見せているのは、戦争危機を煽る危険な行為である。いまだに冷戦時代やそれ以前の軍事的同盟思想が残されているのだ。
今のところは、軍事的報復を選択しないロシア側の比較的自制された対応のおかげで戦争危機が抑止されているように見える。ロシアがこのような態度をとるのは、平和主義だからではなく、仮に戦争となった場合、NATO加盟国であるトルコに対する勝算が立たないからという戦略的な理由もあるだろう。もし、これが冷戦時代であれば、第三次世界大戦の危機さえ招来しかねない重大事態である。
旧ソ連時代にはNATOの対抗同盟としてワルシャワ条約機構の盟主だったのも今は昔、現在のロシアには真の同盟国がない。旧ワルシャワ条約機構加盟諸国も、今やその条約署名地ポーランドも含め、みなロシアから離反し、NATOやEUに走っている。旧ソ連構成諸国で今もロシアと独立国家共同体を結成する中央アジア諸国は言語・文化的にはトルコに近い親トルコ圏である。
しばしば協調行動をとる中国もロシアの忠実な同盟国とは言えず、戦争まで共にする強固な中露同盟の可能性も乏しい。となると、万一露土戦争が起きても局地戦にとどまり、世界を二分する第三次世界大戦に発展する可能性はあるまい。これは冷戦終結の成果面である。
とはいえ、共に強大な軍隊を持つ露土両国間の戦争にNATO軍が加勢すれば、相当な戦禍が生じる大規模な戦争にならざるを得ないだろう。そのような戦争は回避しなければならず、第三国が戦争を煽るような挑発的言動も慎むべきである。
同種事態の再発防止のためには、中立的な国際調査委員会による公正な真相解明とともに、事件の引き金ともなったシリアへの錯綜した軍事介入というロシアも一枚噛んでいる守旧的な問題解決手法を見直すことも考える必要がある。