ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

持続可能的計画経済論[統合新版](連載第74回)

2025-02-25 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第4部 持続可能的計画経済への移行過程

 

第16章 経済移行計画Ⅰ:経過期間

(1)経過期間の概要
 最終的に全世界での貨幣経済の廃止に至る持続可能的計画経済体制の構築を目指す経済移行計画の出発点となるのが、経過期間である。この時期は、資本主義市場経済を脱却する初めの一歩に相当する最も重要かつ微妙なプロセスである。
 歴史上見られた経済システムの全般的な移行事例においても、この経過期間に相当する初めの一歩で大きな混乱が生じやすい。それは、移行を急ぐ政治主導で、しばしばショック療法的な一気呵成の移行が強行されるからである。
 そうした混乱を避けるためには、妥協なき漸進的な手法による計画的・段階的な移行準備のプロセスを確立する必要がある。ここで、漸進的な手法と言うと、しばしば妥協的と同義となり、移行が不完全になることが多い。しかし、漸進と妥協は同義でない。ここで言う漸進とは性急さを避けた着実な前進を意味している。
 具体的に言えば、持続可能的計画経済の柱を成す計画経済システムの構築及び貨幣制度の廃止へ向けた着実な準備を進めることが、この経過期間における最大の眼目である。
 その際、最も究極的かつ難関でもある貨幣制度の廃止に先立って、まず計画経済システムの構築を優先することが合理的である。その入口は、計画経済の主体となる生産事業機構の設立に向けた基幹産業の統合である。
 その詳細は後述するが、簡単に言えば、現状ほとんどが株式会社形態で存在している基幹産業を業界ごとに統合した単一の包括会社に束ねるとともに、将来の生産事業機構による自主的な経済計画機関の前身となる準備組織を設立することである。
 それに対して、貨幣制度の廃止は最も慎重に取り扱うべきプロセスとなるが、経過期間の段階では、まず消費財の貨幣交換によらない無償供給の試行から開始する。
 特に食品を中心とした日常必需品と一部の雑貨的有益品を対象とした物資の無償供給であり、この段階では市場経済と併存する配給制に類似するが、配給制よりも対象品目は多く、経過期間を通じて対象品目を漸次的に拡大していく。

 

前回記事

コメント

持続可能的計画経済論[統合新版]・総目次

2025-02-25 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

本連載第1部から第3部までの連載は終了致しました。下記目次各「ページ」(リンク)より全記事をご覧いただけます。第4部は、引き続き連載中です。


統合新版序文 ページ1

第1部 持続可能的計画経済の諸原理

第1章 計画経済とは何か

(1)計画経済と市場経済 ページ2
(2)計画経済と交換経済 ページ3
(3)マルクスの計画経済論 ページ4

第2章 ソ連式計画経済批判

(1)曖昧な始まり ページ5
(2)国家計画経済 ページ6
(3)本質的欠陥 ページ7
(4)政策的欠陥 ページ8

第3章 環境と経済の関係性

(1)環境規準と経済計画 ページ9
(2)科学と予測 ページ10
(3)環境倫理の役割 ページ11
(4)古典派環境経済学の限界 ページ12
(5)環境計画経済モデル ページ13
(6)環境と経済の弁証法 ページ14
(7)非貨幣経済の経済理論 ページ15

第4章 計画化の基準原理

(1)総説 ページ16
(2)環境バランス①:「緩和」vs「制御」 ページ17
(3)環境バランス②:数理モデル ページ18
(4)物財バランス①:需給調整 ページ19
(5)物財バランス②:地産地消 ページ20
(6)物財バランス③:数理モデル ページ21
(7)自由生産領域の規律原理 ページ22

第2部 持続可能的経済計画の過程

第5章 計画経済の世界化

(1)非官僚制的計画 ページ23
(2)グローバル計画経済 ページ24
(3)貿易から経済協調へ ページ25
(4)世界経済計画機関 ページ26
(5)汎域圏経済協調機関 ページ27

第6章 計画経済と政治制度

(1)経済体制と政治制度 ページ28
(2)政経二院制 ページ29
(3)世界共同体の役割 ページ30
(4)世界共同体の構成単位 ページ31

第7章 経済計画とエネルギー供給

(1)エネルギー源の民際管理 ページ32
(2)エネルギー供給計画 ページ33
(3)エネルギー事業体 ページ34
(4)エネルギー消費の計画管理 ページ35

第8章 計画組織論

(1)総説 ページ36
(2)世界計画経済の関連組織 ページ37
(3)領域圏計画経済の関連組織 ページ38
(4)地方計画経済の関連組織 ページ39

第9章 計画化の時間的・空間的枠組み

(1)総説 ページ40
(2)計画過程の全体像 ページ41
(3)計画の全般スケジューリング ページ42
(4)領域圏経済計画のスケジューリング ページ43
(5)領域圏経済計画の地理的適用範囲 ページ44

第10章 経済計画の細目

(1)生態学的持続可能性ノルマ ページ45
(2)産業分類と生産目標 ページ46
(3)世界経済計画の構成及び細目 ページ47
(4)領域圏経済計画の構成及び細目 ページ48
(5)広域圏経済計画の構成及び細目 ページ49
(6)製薬計画の特殊な構成及び細目 ページ50

第3部 持続可能的計画経済下の生産・労働・消費

第11章 計画経済と企業形態

(1)社会的所有企業 ページ51
(2)自主管理企業 ページ52
(3)企業の内部構造① ページ53
(4)企業の内部構造② ページ54
(5)企業の内部構造③ ページ55

第12章 計画経済と企業経営

(1)公益的経営判断 ページ56
(2)民主的企業統治 ページ57
(3)自治的労務管理 ページ58
(4)二種の企業会計 ページ59
(5)三種の監査系統 ページ60

第13章 計画経済と労働生活

(1)労働配分 ページ61
(2)労働基準 ページ62
(3)経営参加 ページ63
(4)労働紛争 ページ64

第14章 計画経済と消費生活

(1)生産様式と消費様式 ページ65
(2)消費計画 ページ66
(3)消費事業組合 ページ67
(4)計画流通と自由流通 ページ68

第4部 持続可能的計画経済への移行過程

第15章 経済移行計画

(1)総説 ページ69
(2)経済移行計画の期間 ページ70
(3)「経過制」か「特区制」か ページ71
(4)「貨幣観念」からの解放 ページ72
(5)告知と試行 ページ73

第16章 経済移行計画Ⅰ:経過期間

(1)経過期間の概要 ページ74

コメント